第4話『魔法と剣』 3
「さて、これでようやく魔法の基礎は一歩前進したわね」
ミレイアはリリアナに治癒魔法を当て、少しながら体力を回復させる。
リリアナは荒い息を吐きながら、燃え尽きた手のひらを見つめる。
「はぁ……これで、やっと一息つける……?」
「いいえ。次は剣の訓練よ」
「……え?」
リリアナは驚いてミレイアを見た。
「あなたの魔力は炎属性。炎と雷属性は、魔法以外の戦い方も身に付けておいた方がいいのよ」
ミレイアの言葉に、リリアナは息を呑んだ。
「あなたの炎、戦場に台風が来てたら、何の役にも立たないわよ?」
ミレイアは淡々と続ける。
「"戦う場所"が地下の場合、最悪よ。地下で炎なんで使ったら、酸素が無くなって全滅」
リリアナは理解したように頷いた。
「……わかった」
「まあ、お前の剣はまだまだ未熟だからな」
そこで口を挟んだのはガレンだった。
「お前、まともに剣を振ったことねえだろ?」
「そんなことは……!」
リリアナは言いかけたが、反論できなかった。
「実戦で通用するレベルには遠いってことだ」
ガレンは苦笑しながら、腰の剣を抜いた。
「せっかく剣の練習してきたんだろ?なら"磨いて"使えるようにしておくべきだ」
リリアナは拳を握りしめた。
「というわけで、ここからは俺が担当する」
ガレンは剣を軽く回しながら、リリアナを見た。
リリアナは深く息を吸い込み、剣を握りしめる。
「……わかった。やる」
ガレンは満足そうに頷いた。
「じゃあ、まずは基礎から叩き込んでやる」
リリアナの剣の訓練が、ついに始まる――。
「じゃあ、まずはお前の"剣の基礎"を見せてもらおうか」
ガレンは剣を軽く肩に担ぎながら、リリアナを見下ろした。
リリアナは剣を握りしめる。
(基礎……お父さんに教わった動きを思い出して……)
彼女はゆっくりと剣を構え、深く息を吸った。
「いくよ……!」
リリアナは踏み込んで、正面からガレンに向かって剣を振り下ろす。
ガキィンッ!
「っ……!」
衝撃が手のひらに響く。
ガレンは余裕の表情で剣を受け止めていた。
「……なるほどな。お前の剣、"力任せ"だな」
「えっ……?」
リリアナは驚いた。
「お前、攻撃の軌道が単純すぎる。これじゃあ相手に読まれるぞ。さっきミレイアが言ってたのと同じだ」
ガレンは剣を払ってリリアナを後退させた。
「もう一度、仕掛けてみろ」
「……っ!」
リリアナは歯を食いしばり、再び剣を振るう。
しかし――
ガキィンッ!
またもや、軽く受け止められる。
(嘘……!)
「ほら、次」
リリアナは連続で斬りかかる。
だが、ガレンは剣を軽く動かすだけで全て受け流してしまう。
「おいおい、これじゃあ、戦場に出たらすぐにやられるぞ?」
「くっ……!」
リリアナは焦るが、ガレンはまるで遊んでいるかのような余裕を見せていた。
「お前、"剣を振る"ことばかり考えてねえか?」
「……? じゃあ、どうすれば……」
「お前の剣は、一撃一撃に"間"ができすぎなんだよ」
ガレンはリリアナの剣を弾くと、すかさず一歩踏み込んできた。
「こうやって――」
ヒュッ!
ガレンの剣が、リリアナの首筋にピタリと止まる。
「隙があると、こうなる」
「……っ!」
リリアナは息を呑んだ。
(今……一瞬で詰められた!)
「お前の動きは、"ここで斬る"ってのがはっきりしすぎてる。だから次の動きを読まれるんだよ」
ガレンは剣を下ろし、ため息をついた。
「剣は"振る"んじゃなくて、"繋げる"んだよ」
「……繋げる?」
リリアナは剣を握り直した。
「そうだ。剣は、一撃一撃を独立させるんじゃなくて、"流れ"を作るんだ」
ガレンは実際に構えを取る。
「こうやって――」
スッ……!
剣を振り下ろす動きから、そのまま横に切り払い、さらに突きの動作へと滑らかに移行する。
「この流れを作ることで、攻撃の隙を減らせるし、相手の防御を崩すこともできるんだ」
リリアナは息を呑んだ。
(剣の動きが、全く止まってない……!)
「じゃあ、お前もやってみろ」
ガレンが腕を組みながら言う。
リリアナは深く息を吸い、剣を握る。
(攻撃を、繋げる……)
彼女はゆっくりと剣を振り下ろし、その勢いを殺さずに横へと切り払う。
(……!)
確かに、動きが止まらない。
だが――
「遅ぇな」
ガレンが後ろから呟いた。
「敵は待っちゃくれねえぞ」
「……っ!」
リリアナはさらに意識して、流れるように剣を振る。
シュッ、シュッ、シュッ!
最初よりもスムーズな連続攻撃になった。
「……まあ、最初にしては悪くねえ」
ガレンは頷いた。
「でも、お前の剣はまだ"遅い"。その動きじゃ、敵にカウンターを喰らうぞ」
「うぅ……そんなこと言われても……」
リリアナは疲労で膝に手をついた。
「まだまだ基礎の基礎だな。だが、悪くねぇ」
ガレンは軽く剣を肩に担ぎながら、満足げに頷いた。
「これから、もっとみっちり鍛えてやる」
「……2匹目の鬼……」
リリアナは遠い目をしながら呟いた。
ミレイアは涼しい顔のまま、それを見て微笑んでいた。
「じゃあ、休憩はここまで。次は実戦形式での練習よ」
「……まだやるの……!?」
「当たり前でしょ? 訓練は、これからが本番よ」
リリアナの訓練は、まだまだ終わらない――。




