第4話『魔法と剣』 1
「立ちなさい」
冷たい声が響いた。
リリアナは地面に倒れ込みながら、荒い息を吐いた。
全身は泥と汗で汚れ、腕には煤がついていた。
「ま、まだやるの……?」
「当然よ。戦場では"休憩"なんて甘い考えは通用しないわ」
ミレイアは涼しい顔のまま、リリアナを見下ろした。
「疲れた? なら、戦場では"死ぬ"しかないわね」
「鬼か……!」
リリアナは涙目になりながら、何とか立ち上がる。
少し離れた場所で腕を組んでいたガレンが、リリアナとミレイアのやり取りをじっと見ていた。
(……すげえな)
ガレンは目を細めた。
リリアナはボロボロになりながらも、何度も立ち上がる。
それを容赦なく追い詰めるミレイア。
「次」
ミレイアは冷静に指示を出す。
リリアナは歯を食いしばりながら、再び魔力を手のひらに込めた。
ガレンはそれを見て、ふとリリアナの呟きを思い出す。
「鬼か……」
(……いや、間違ってねえな)
ガレンは静かに見守る。
(こいつ、マジで鬼だ)
ミレイアの訓練は、想像以上に過酷だった。
「ただ撃つだけではダメ。動きながら、正確に敵に当てるのよ」
ミレイアはひらりと身を翻しながら、リリアナの放つ炎をかわしていく。
シュッ!
「……遅いわね」
「くっ……!」
何度撃っても当たらない。
ミレイアは余裕の表情のまま、風の刃を飛ばして牽制する。
「ただ撃つだけじゃダメ。敵は動くのよ」
「そんなの……言われなくても分かってる!」
「じゃあ、どう動くか予測しなさい」
リリアナは息を整え、炎を生み出す。
(ミレイアは……次、どっちに避ける?)
慎重に狙いを定めながら、もう一度放とうとする。
だが――
ヒュンッ!
「うわっ!?」
突然、リリアナの足元を風の刃がかすめた。
「な、なに!?」
「なに?じゃないでしょ?敵は攻撃してくるわよ?」
ミレイアは優雅に言う。
「さて、あなたはこの状況でどう戦うのかしら?」
リリアナの背筋が冷たくなった。
「この人、本当に鬼だ……!」
それを見ていたガレンも、ゆっくりと呟いた。
「うん、鬼だな」
ミレイアの訓練は、まるで戦場そのものだった。




