第26話『還らぬ光』パート4:繋がる命
「風班疲れてる!水班頑張って!」
パタッ……
「イチちゃん倒れたー」
「おんぶしてー」
「イチちゃんおんぶー」
「氷班、補強!」
キユの号令とともに、氷班が一斉に動き出した。
「こおりー!」
「ほきょー!」
「もっとー!」
小さな体に似合わない、力強い魔力の奔流。
風が鋭く、岩肌を削り、 水が鋭く、崩れかけた瓦礫を押し流す。
そして、氷が更なる崩落を抑え込む。
ガガガッ!
パラパラと崩れ落ちる岩片。
開いた穴は、徐々に広がっていく。
だが、まだ大人が通るには小さかった。
「ツグちゃん!先に!」
キユの声に応じ、治癒魔法を得意とする小柄な兵士が、一人前に出た。
小さな体をすべり込ませるように、穴を抜けて、ロークの元へと向かう。
「ローク殿!治療!」
遠くから、小さな声が届く。
ノアもルネも、必死に穴の向こうを見つめた。
(頼む……間に合って)
心の中で、何度も祈った。
マリアは、震える手で瓦礫に触れた。
「私も……行きます」
「マリア……!」
ラシエルが駆け寄ったが、マリアは顔を上げた。
その目は、涙で濡れていながらも、まっすぐだった。
「……今度は私が助けなきゃ」
その想いに応えるように、ヘルダス隊もさらに魔法の出力を上げた。
ゴゴゴッ――!
瓦礫がごっそりと崩れ、穴はまた一段と広がった。
「行って!」
キユの叫びに、マリアが治癒班と共に穴に向かって駆け出す。
風と水がまだ吹き荒れる中、彼らは必死に身体を低くして穴を抜けた。
そして――
ようやく、瓦礫の向こう側の広間に辿り着いた。
そこには――
倒れたロークがいた。
傷だらけで、大量の血が流れていた。
先に抜けた兵士が、すでに胸に手を当て、治癒魔法を送り続けている。
マリアはロークに駆け寄り、震える手でその顔に触れた。
「……ローク……!」
呼吸は、弱いが――確かにあった。
胸が、わずかに上下している。
「……生きてる……」
マリアが、声にならない声で呟いた。
涙が、頬を伝った。
ヘルダス隊が、さらに穴を広げていく。
がれきが片付けられ、大人でも楽に通れる広さが作られた。
待機していた兵士達。
後ろにいた民間人たちも、順番にこの広間へと導かれていく。
マリアはロークに治癒魔法を送りながら、必死に祈った。
(――大丈夫、絶対、死なせない)
こうして――
仲間たちは、失われかけた命を、ついに――この手に取り戻した。




