第26話『還らぬ光』パート2:奇跡のために
ーーあの、びくともしなかった岩。
ノアたちに先導され、ヘルダス隊がずらりと並んだ。
小柄な体に、しかし溢れるような魔力の気配をまとい、彼らは岩の山を見上げていた。
「……これが、崩れた通路」
ノアが説明すると、キユは真剣な顔つきで頷いた。
「うん、わかった。これ、普通にどかしたらまた崩れる」
キユは指で岩肌を軽く叩く。
コンコンと小さな音が響いた。
「脆い。下手にいじったら、もっと崩れる」
「じゃあ……どうすれば……」
マリアが不安げに尋ねる。
キユはきっぱりと言った。
「氷で壁と天井を固める!そしたら、ちょっとずつ崩していける!」
「できるの!?」
ルネが驚く。
キユはにっと笑った。
「ヘルダス族の魔法、なめるなよ!」
すぐに、ヘルダス隊が動き出した。
「氷班、補強!」
「氷ー」
「ほきょー」
「キユちゃんもー」
氷の魔法が次々と発動される。
冷気が通路全体を満たし、崩れた岩壁と天井が一気に凍りついた。
カチンッ、カチンッ――
鋭く、硬く、氷が広がっていく。
ノアたちは民間人を後ろに下げ、手を出さないよう指示した。
パタッ
氷を放った隊員が、一人倒れた。
他の隊員が一斉に騒ぎだす。
「ニオちゃん倒れたー」
「おんぶー」
「たおれたー」
「おんぶしてー」
「……大丈夫!?」
マリアが駆け寄ろうとしたその時。
キユが止めた。
「体が魔法にビックリしただけ。すぐ起きる。大丈夫」
ヘルダス族は、魔法の制御自体は極めて優れていた。
だが、小さな体に対して魔法の反動が大きすぎるのだ。
自分の放った魔力の勢いに、"思わず驚いて気絶する"ということが、たまに起こる。
そんな彼らの闘志を支えているのが"おんぶ制度"だ。
もし気絶したら、必ず誰かがおんぶをしてくれる。
むしろ、おんぶをしてもらうために、ヘルダス隊は日々全力で魔法を使っている。
目を覚ました時、誰かの背中にいることが、彼らにとっての楽しみだった。
「ノアたちは見てろ!あたしらが穴、開ける!」
「……頼んだ!」
ノアは深く頷いた。
キユは片手を高く掲げると、隊員たちに号令をかける。
「水班、風班、準備!」
「はーい!」
「かぜー!」
「みずもー!」
「じゅんびー!」
元気な返事が返ってきた。
ヘルダス隊は、特に脆そうな部分――
中央上部に狙いを定めた。
まず、水班の数人が一斉に魔法を放つ。
バシュッ!
細く鋭い水流が、岩肌を削りはじめた。
続いて、風班が風の刃を集中して叩きつける。
ゴッ――!!
砕けた岩の破片が、パラパラと通路に降り注ぐ。
「いいぞ!ペース上げろ!」
キユの掛け声に、さらに魔法が重ねられる。
岩を、少しずつ、確実に削っていく。
パタッ……
「ツトくんたおれたー」
「おんぶしてー」
「おんぶー」
そしてーー
「もうちょいで貫通するよ!」
キユが叫んだ。
埋まった通路の中央、上部。
向こう側の空間が、わずかに見えた。
ノアたちは祈るように、その光景を見つめていた。
(ローク……)
ラシエルは胸に手を当て、必死に願った。
(生きてて……)
マリアも両手を握り締め、震える唇を噛み締めていた。
民間人たちも、固唾をのんで見守っていた。
ガラララッ――!!
最後の一撃で、風と水の刃が岩の隙間を突き破る。
子供が一人、通れるかどうかの、小さな穴が開いた。
「よし!テトくん、行って!」
キユが叫ぶ。
ヘルダス隊の中から、さらに小柄な兵士が一人、するりと前に出た。
「まかせてー!」
彼は素早く瓦礫の山を駆け上がり、小さな穴を目指す。
「テトくんがんばれー!」
「テトくんすごいー!」
「がんばってー!」
彼の足音だけが響く。
息の詰まるような静寂。
やがて――
「いた!」
小柄な兵士の叫び声。
穴から向こう側の様子を見ていた。
「一人、いる!」
「男の人!倒れてる!」
ラシエルがとっさに叫ぶ。
「双剣はありますか!?」
「あるよ!」
「ローク!!」
マリアも思わず叫ぶ。
「なんか………息、苦しい!」
テトが少し引き返した。
苦しそうにこちらへ顔を向ける。
「あっち、少し暑い!」
「テトくん!少し下がって!風!換気!」
キユが指示を飛ばす。
「こんな地下で暑いって………」
ノアの表情が深刻さを増す。
「だれか、炎、使ったかも」
キユも険しい顔をしていた。
暑い、そして息苦しい。
"向こう側"の酸素が"焼かれた"可能性。
それは、この時初めて頭をよぎった。
ヘルダス隊の風班が、向こう側へ風を送り続ける。




