第25話『王国の盾』パート2:動く城壁
アイアス隊の到着によって、戦況は一変した。
「リリアナ隊!他の隊員はどうした!!」
「入口付近で地面が崩落しました!はぐれた他の隊員たちはまだ会えてません!」
アイアス隊の勢いに合わせ、リリアナも叫ぶ。
「ならアイアス隊が先導する!ついてこい!」
「は………はい!?」
「リリアナ隊は後方で護衛に専念しろ!前に出るな!」
通路の前線で、巨大な盾を突き立てながら指示を飛ばす男がいた。
――アイアス隊副隊長、ドラン・クルス。
長身でがっしりした体躯に、無骨な鎧をまとい、その顔には一分の隙もない厳しさが刻まれていた。
本来、アイアス隊には別に正式な隊長が存在するが――
今は砦の防衛を最優先とするため、隊長は留まり、ドランが現場指揮を任されているのだ。
「隊長命令だ!素人は手出しするな!」
「し、素人!?」
リリアナは思わず反論しかけたが、ミレイアに袖を引かれた。
「今は従いましょ」
(……う、わかってるけど……!)
後ろに下がりながら、リリアナは剣を持つ手がうずうずするのを必死にこらえた。
アイアス隊の兵士たちは、無言で盾を押し立て、敵を着実に押し返していく。
圧倒的な防御力。圧倒的な連携。
――まさに、「動く城壁」。
「弓兵、前進!隙間から射撃!」
ドランが短く命じる。
隊列の隙間から、弓兵たちが一斉に矢を放った。
敵兵が次々に倒れ、血飛沫が散る。
「魔法班、左側の敵を抑えろ!」
続いて、盾の後ろから魔法兵が風と氷を放ち、敵兵の前進を阻害する。
リリアナは後方で、救出した民間人と並びながら、その光景を見守っていた。
(……強い)
本気で、そう思った。
あれだけの数の敵兵を、アイアス隊は一歩も退かずに押し返している。
これがアルテシア王国、最強の盾。
リリアナが出る幕など、どこにもなかった。
盾の後ろから剣は届かない。
せめて剣が届く場所にーー
「前に出ようとするな!おとなしくしてろ!」
ドランがリリアナを鋭くにらみつける。
「……すみません」
リリアナはしゅんと肩を落とした。
炎も使えない。
剣を持ったまま、でも何もできず、盾の壁の後ろで立ち尽くす。
一方、ティオは弓を握り直し、小さな隙間からサポート射撃を続ける。
ミレイアも風を操り、軽く敵兵の動きを鈍らせていた。
セリスは手のひらに小さな雷を纏い、わずかな隙間から敵兵の動きを止める程度の電撃を放つ。
全員が、アイアス隊の隊列を乱さないように、最低限の援護だけを行っていた。
ただ――
リリアナだけが。
剣を振るう間もなく、ただもじもじとその場に立っていた。
(な、何か……私にもできること……)
うずうずする手を見つめながら、リリアナは必死に考えた。
だが、前に出ようとすればすぐに睨まれる。
何かをしようとすれば、「後ろ!」と怒鳴られる。
「……セリス、何か私にできることないかな」
リリアナが必死に聞くと、セリスは振り返り、リリアナを見た。
数秒後、無言で前を向く。
そして、肩を揺らした。
(笑うなーー!!!)
リリアナは心の中でぶちギレた。
(…………し、支援に徹する、支援に徹する……)
リリアナは自分に言い聞かせながら、民間人たちの護衛に徹することを決めた。
敵は、盾の向こうだけれど。
その間にも、アイアス隊の進撃は止まらない。
盾を押し、矢を放ち、魔法を撃ち、確実に敵兵を押し返していく。
やがて――
「敵、後退!制圧完了!」
前線から声が上がった。
ドランが振り返り、盾を上げながら指示を飛ばす。
「リリアナ隊、民間人を誘導しろ!このまま奥へ進む!」
「は、はいっ!」
リリアナは剣を収め、民間人たちを導く。
ティオ、ミレイア、セリスも続き、彼らを守りながら前進していった。
(……まだ終わりじゃない。まだ、助ける人たちがいる)
そして彼女たちは、さらに坑道の奥――
囚われた民間人たちを救い出すため、再び歩みを進めるのだった。




