第3話『初陣の炎』 4
リリアナは手のひらをじっと見つめた。
魔力の流れを感じる――そう言われても、まだしっくりこない。
「……どうすれば、炎を形にできるの?」
「まずは、流れを整えること」
ミレイアは涼しい顔で答えた。
「魔力というのは、水のようなものよ。荒れた川は流れが乱れ、形を作ることはできない。でも、穏やかに流れる川なら、手ですくって器に入れることもできるわ」
「つまり、私の魔力はまだ荒れた川みたいなもの……?」
「そういうこと」
リリアナは深く息を吸った。
(穏やかに……流れを整える)
もう一度、目を閉じる。
炎を生み出そうとするのではなく、まずは魔力の流れを意識する。
胸の奥にある熱を感じ、それを手のひらに送るように……
ボッ……
「!」
さっきよりも小さいが、確かに炎が灯った。
だが、すぐに揺れ、消えそうになる。
「落ち着いて」
ミレイアの声が静かに響く。
「焦らないで。その炎を"手のひらの中にとどめる"イメージを持って」
「……とどめる?」
リリアナは何かを握るような仕草をした。
(炎を、私の中で――)
その瞬間、ふわりと炎が安定した。
「やった……!」
リリアナの顔がパッと明るくなる。
ミレイアは満足そうに頷いた。
「いいわね。ようやく魔力の流れを掴み始めたみたいね」
「これで、私は戦場で使えるように――」
「まだよ」
ミレイアが言葉を遮る。
「今はただ炎を生み出すことができるようになっただけ。"どう使うか"を考えないと、戦場では何の役にも立たないわ」
リリアナは拳を握る。
「……もっと、学ばせて」
「ふふ……やる気ね」
ミレイアは微笑んだ。
「じゃあ、実戦形式の訓練に移りましょうか」
「実戦……?」
「そうよ。魔法は戦場で生き抜くためのもの。ただ発動できるようになっただけでは不十分」
ミレイアは優雅に手を上げた。
「だから、まずは"当てる"練習をしてもらうわ」
そう言うと、彼女は軽く指を振るった。
「さあ、炎を私に向かって飛ばしてみなさい」
「――えっ!?」
リリアナは思わず声を上げた。
ミレイアの冷静な微笑みを見て、リリアナは背筋を伸ばした。
(やるしかない……!)




