第22話『坑道の闇』パート2:分断
「……動ける? みんな、無事?」
リリアナの声が坑道の闇に反響する。
返ってくるのは、足音と、かすかな息遣いだけだった。
手元の松明がぼうっと周囲を照らし出す。くすんだ岩肌、崩れた支柱、舞い上がった土煙。
坑道の一角が――完全に崩れていた。
「この感じ……罠にしては少し雑ね」
ミレイアが顔をしかめながら周囲を見回す。
火の光がその瞳に反射し、鋭い観察眼を浮かび上がらせる。
「わざと酸化した鉄杭を使ってる。"誰か"が侵入した時、崩れるように計算されてる」
「今の音でぼくたちがいるのはバレてるよね」
ティオが不安そうに周囲の影を見つめる。
その視線の先には、何も見えない暗闇が続いているだけだった。
「坑道全体に明かりはない……松明がなければ何も見えないわ」
ミレイアは冷静に周囲を照らすと、崩れた壁の端に近づいた。
「これだけの崩落、軍が突入してくるのを想定してるかもしれないわね。西と左に分散させたのは正解だったわ」
リリアナはぎゅっと剣の柄を握った。
炎を使いたくなる状況だったが、すぐに首を横に振る。
(だめだ、こんな場所で火の魔法なんて――)
「火を使うのは控えた方がいいわ、リリアナ」
ミレイアが、まるで心を読んだように口を開いた。
「坑道って、酸素が限られてるの。炎の魔法を使えば、一気に酸欠になる可能性があるわよ」
「……わかった」
リリアナはすっと剣を抜く。
「セリスの雷も、衝撃が強いから周りに当たる崩落しかねないわね」
セリスは無言でうなずく。
その手には、松明と――もう片方に握られた拳。
「まずは、周囲を確認しよう。崩れた部分から仲間の声が届くかもしれない」
リリアナが指示を出す。
ティオが壁に近づき、耳を当てる。
「……音は、しない……でも、壁の向こう、空間がある気がする」
「合流できる場所を探すしかないわね。リリアナ、進むわよ」
ミレイアが先に立つと、セリスが松明を掲げながら静かに続く。
リリアナは後ろを振り返り、最後尾のティオに頷いた。
「誰も欠けさせない。絶対、みんなを見つける」
その言葉に、誰も返さなかった。
だが、全員の歩みは揃っていた。
崩落した坑道。
分断された仲間たち。
――それでも。
この道の先に、光があると信じて。
リリアナたちは、静かに歩を進めた。




