第21話『王命の重み』 パート4:坑道の決意
灰の砦・司令室――
広げられた地図の上に、数本の線が引かれていた。
坑道は思った以上に入り組んでいる。古い鉱山のため複数の掘削跡が残り、今では一部が崩れ、別の通路に繋がっていた。
「三百人……やはり、数だけでも容易ではないわね」
ミレイアが目を伏せながら言った。
「ですが、リリアナ隊だけで向かわせるつもりはありません」
シアネが静かに言葉を継ぐ。
「今回の任務、リリアナ隊が主軸ではありますが、中央軍第一部隊より援軍が加わります」
「援軍……!」
「まず、第二中隊――アイアス隊が動きます。彼らには外周の警戒と、救出された民の誘導を任せます。陣形の管理に長けた部隊です。民の安全確保には最適です」
ハウゼンが頷き、地図の外郭を指差す。
「ここが、坑道から地上へ通じる旧作業口だ。アイアス隊にはこの地点を中心に布陣させる。
救出後、民間人を一時的にこの空間に収容し、順次搬出する」
シアネが続ける。
「さらに、第三中隊――ヘルダス隊から一小隊を投入します。
彼らには坑道の分岐を制圧・封鎖させ、敵の逃走や増援を防ぐ役割を担わせます」
「リリアナ隊は、中央坑道ルートから直接突入してもらいます。敵の指揮所と思しき地点の制圧、そして、捕らえられた村人の救出が主目的です」
シアネは指先で地図を示しながら、静かに続ける。
「坑道内は狭く、火や雷の魔法の連発は崩落の危険を伴います。地形にも注意してください。すでに何箇所か、崩れた跡が確認されています」
「……全員、助けます」
リリアナの声は低く、だがはっきりとしていた。
「火の魔法が使いにくいなら、それでもいい。私は、行きます」
「それが聞けて、安心しました」
シアネが目を細める。その言葉には、わずかな安堵が込められていた。
「よし、隊員たちにも伝える。三部隊連携の作戦だ、誤解のないようにしろ」
ハウゼンが言い、司令室の空気が切り替わる。
ノアが手を挙げた。
「つまり、うちは突入班ってことだよね?いいじゃん、燃えるじゃん!」
「うちは火力担当ってことか」
ロークが笑い、セリスは静かに頷いた。




