番外編:灰の砦の軍事情 パート5『意外と足りてない――戦力とローテーションの話』
「灰の砦って、結構人が多いよな?」
「いや、足りてないんだよ、全然」
そんな会話が交わされるほど――
この砦は、“人が多そうに見えるけど、実は足りてない”という不思議な場所である。
■常駐している中隊は、たった4つ
灰の砦に駐屯している中央軍の部隊は、次の4つのみ。
- 中央軍第一部隊・第一中隊(ヴォルフ隊)
- 中央軍第一部隊・第二中隊(アイアス隊)
- 中央軍第一部隊・第三中隊(ヘルダス隊)
- 中央軍第三部隊(リリアナ隊)
このうち、第一中隊から第三中隊までは、かつて統一された中央軍第一部隊として運用されていたが――
現在は隊長が不在のため、各中隊が独立して運用されている状態である。
つまり、第一部隊は「部隊」ではなく、「中隊連合」として機能している。
なお、リリアナ隊のみ“部隊”単位での運用”となっており、中央軍第三部隊として独立任務を受けている特殊な存在だ。
■第四・第五部隊は不在、第二部隊は凍結中
中央軍には本来、第一~第五までの番号付き部隊が存在している。
だが、現在その中で灰の砦にいるのは第一と第三のみである。
- 第四部隊・第五部隊は、それぞれ他の前線拠点に展開中
- 第二部隊は数年前の壊滅的損耗により“番号ごと凍結”
- 第三部隊も長らく空席だったが、ハウゼン将軍の判断でリリアナ隊が復活配置
つまり、灰の砦に戦力が集中しているわけではなく、本来いるべき部隊の多くが不在なのだ。
■それでも“人が多く見える”理由
砦を歩けば、どこにでも人がいる。
食堂では村人がご飯を食べ、通路には支援兵が資材を運び、
広間では兵士が木箱を並べて食事をとっている。
では、なぜそう見えるのか?
答えは――「軍人以外が多すぎる」からである。
およそ100名の民間人が、
倉庫・食堂を占領し、どこから仕入れたのか、徐々に荷物も増えている。
当然、食堂は完全に村人用として運用され、兵士たちは屋外や通路で食事をとっている。
■支援班と裏方兵の仕事量がえぐい
支援系の兵士たちは、表向きには「雑務担当」とされているが――
実際は以下のような仕事を毎日こなしている:
- 補給管理:物資の仕分け、再配布、村人用物資の調整
- 伝令:他部隊や王都との連絡を馬か徒歩で運搬
- 医療支援:兵士と民間人の軽度~中等度の治療(1日20人以上を処理)
- 雑務:掃除、洗濯、火の管理、水の確保、ライム追い払い等
すでに支援班の誰かが休むと、回らないほどギリギリの人員配置となっている。
そんな彼らも人間である。
楽しみの一つでも無ければやってられない。
「地獄組の俺にも、楽しみがあるんだ。誰にも見られない場所で、木箱に座ってきゅうりをかじるっていうさ」
そうぼやく兵士がいたとか、いないとか。
■交代制=限界を前借りしてる
砦の兵士たちは、交代で以下の任務にあたっている:
- 門警備(昼夜)
- 外周巡回(昼と深夜)
- 村人の見回り(夕方と夜)
- 番犬の餌番(不定期)
この交代勤務を回すため、
兵士たちは1日6時間も眠れれば上等という状態。
ヴォルフ隊やアイアス隊は、交互に深夜巡回も受け持つ。
リリアナ隊は基本“外任務”の機動枠扱いのため、砦の中での役割はほぼ無い。
そのため、リリアナ隊が任務に出ていない時は何かと使われる。
■砦の現実は“目に見えない消耗”
- 貴族が送ってくる視察隊は、これを見ずに帰る
- 村人は兵士たちに頭を下げながら、食事をもらう
- 犬は何も気にせずパンを狙っている
そんな毎日の中で、兵士たちは静かに疲れていく。
それでも誰も崩れず、倒れず、逃げ出さない。
この砦は――戦力が足りないからこそ、
全員で支え合って“持ちこたえている”のだ。




