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戦場の紅蓮姫  作者: エル
フレスト砦編
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番外編:灰の砦の軍事情 パート3『異例すぎる部隊――リリアナ隊』

灰の砦には、第一部隊の中隊たちと並んで、

もうひとつ――中央軍“第三部隊”を名乗る部隊が存在している。


それが、リリアナ・アーデル率いる――リリアナ隊だ。





■なぜ“第三部隊”なのか?


中央軍第三部隊という番号は、かつて壊滅的な損耗を受け、

長年「凍結」されていた。

新たな再編もなされず、王都の軍記録では空欄のまま放置されていた番号。


それを――灰の砦の将軍、ハウゼン・ヴァイスが使った。

おそらく、ヴォルフでさえもリリアナに第三を与えるとは予想していなかった。


「空いてる番号だ。使えばいい」

「戦時だぞ。動ける戦力をまとめて何が悪い」


そう言って、リリアナ隊を“中央軍第三部隊”として独立編成したのだ。





■ハウゼンの判断の裏にあったもの


ハウゼンは、元は農家の出身。

徴兵で軍に入り、現場叩き上げで将軍になった数少ない人物の一人。

彼にとって、「肩書き」や「家柄」は、優先順位の最後にある。


「あの隊長は兵だけではなく、民を動かせる。それだけで十分だ」

「文句があるなら、王都の連中がここまで来て指揮してみろって話だ」


それが、ハウゼンなりの“筋”だった。

第三の使用を事前報告すれば、必ず貴族達が阻止へと動く。

王都が承認しないなら? 戦果で黙らせるしかない。

そう考えて、王都への報告より先に、“第三部隊”の名を与えたのだ。


責任は、俺が取る。

だから、リリアナには――あえて“第三の重み”を語らなかった。





■3つの功績と“報告漏れ”


リリアナ隊には3つの戦果がある。


1. ヴォルフ隊時代に参加した“丘の制圧”

 これは部隊全体の功績で、個人評価にはならない。



2. 灰の砦の制圧

 敵に気づかれず砦を取り戻した、リリアナ主導の作戦。

 これはハウゼンが正式に王都に報告し、一定の評価を得ている。



3. ミルヴァン村の民間人救出

 これこそリリアナ隊、最大の功績といえるものだった。

 だがこれは、報告前にハウゼンが第三部隊として任命してしまったため、まだ王都の耳には入っていない。

 結果として、「事前承認なしの第三部隊編成」として貴族に目をつけられることとなる。



■なぜ“第三”が問題なのか?


アルテシア王国における軍の番号付き部隊(第一~第五部隊)は、

その数字が低いほど、より中心的・戦略的な役割を担う部隊とされている。



第一部隊:王都直轄の主力。名誉・武勲・歴史が詰まった最精鋭。


第二部隊:かつては王城防衛や王族警護を担当していた伝統部隊。


第三部隊:外征と戦略拠点の制圧を担当する、最も“攻め”に特化した部隊。



だが今、第一・第二・第三はいずれも本来の姿を失っている。


第一部隊:隊長不在のまま中隊単位で分割運用中


第二部隊:内紛と損耗で実質“凍結”状態


第三部隊:将官候補が現れず、長年空席



代わりに、第四・第五部隊は形式上整備されており、

それぞれ貴族家門が隊長職を担っている。

貴族社会からすれば、「番号付き部隊」は名誉と地位の象徴――

“貴族のもの”であるべき場所なのだ。


そんな中、

凍結されていたはずの第三部隊が、

しかもよりによって王国の顔たる“中央軍”の第三として――


庶民出身の少女に与えられた。


これは、貴族たちにとってただの“番狂わせ”では済まされない。


「第四や第五を飛び越えて、第三?」

「我らの誰よりも若く、誰よりも素性の薄い者が“中央軍第三部隊”?」

「この暴挙を許したのは誰だ――ハウゼンか?」


王都ではすでに、

「庶民が第三を名乗った」「王国の軍秩序を乱すもの」

といった糾弾の声が、貴族議会の中でじわじわと上がり始めていた。


その声の矛先は、

リリアナ・アーデルという若き隊長に加え――

それを“独断で認めた”ハウゼン将軍にも向けられようとしている。





■それでも、現場では


だが、現在、この砦では――

ミルヴァン村、フレスト砦の任務を終えたリリアナ隊は“役に立つ部隊”として、ごく当たり前に受け入れられていた。


火を操る少女と、雷を纏う戦士たち。

隊の動きは迅速で、被害は最小。

任務を任せれば、結果を持ち帰る。


それが、「庶民出身の少女」と呼ばれているリリアナ・アーデルという隊長だった。


「貴族は絶望しかない民間人に、あんな顔をさせられるのか?」

「立場や生まれなんか関係ない。現場じゃ、命を守れる奴が“正しい”」


そんな言葉を口にした時――

ハウゼンは、自分の昔を少しだけ思い出していたのかもしれない。




■番号付き部隊の“重み”を知る者、知らない者


――もっとも、こうした“第三の重み”を、すべての者が理解しているわけではない。


この重みを正確に理解しているのは、王族、貴族、そして軍の高官たち。

ミレイアやラシエルのような貴族出身者も、当然その意味を理解している。

ただしミレイアは、ハウゼンから想いを聞かされていたため、あえてリリアナには口にしなかった。

ラシエルにもある程度の理解はあったが、ミレイアの様子を見ながら"合わせる"形を取っているようだ。


クラウスやセリスなど、ある程度の軍歴を持つ者は「番号が意味を持つ」ことは知っていても、

その内情までは知らない。


一方で、ノアやティオといった庶民出身者、

医師の家系とはいえ後方支援を担うマリアのような者にとっては、

「第三部隊」の数字は、あくまで“隊の名前”でしかない。


つまり、リリアナだけが知らないわけではない。

むしろ――「何も知らず、ただ目の前の命を救うために動いた者」にこそ、

この番号は、国の剣としていつかふさわしい意味を持つようになるのかもしれない。


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