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戦場の紅蓮姫  作者: エル
フレスト砦編
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番外編:灰の砦の軍事情 パート1『ようこそ、灰の砦へ』

アルテシア王国北部――

グランツェルとの戦争が激しさを増す中で、補給と前線連携を担う要として機能しているのが、この灰の砦である。


本来は二百人規模の兵士を収容する、中規模要塞。

だが今、ここには兵士約200人、避難してきた民間人が約100人。

寝床も食堂も満員御礼。来賓用の部屋すら例外ではない。


 

■来賓室は――貴族対応モード


灰の砦において唯一、急ピッチで片付けられた部屋がある。

それが、元・倉庫化していた来賓室。

昨日の夕方、王都の名門貴族――シアネ・クリスタル・フォン・エルデが現れたからだ。


ハウゼン将軍が大慌てで部屋を整えさせ、

「最も清潔な場所を」と命じられたその部屋には、今シアネが滞在している。


その結果――


「じゃあ……新しい物置はどうします?」

「……武器庫しか……」


こうして、砦の武器庫が“臨時の物置”に転用されるという、兵站(へいたん)担当者の頭を抱える出来事が発生した。




■通路で食べるごはん


食堂は今、避難してきた村人たちが使用している。

そのため兵士たちは、通路、屋外、踊り場、倉庫のすき間――

あらゆる場所で各自食事をとっている。


この状況を支えているのが、「各隊・班が自炊する」というシステムだ。

灰の砦では支援兵の手が足りないため、料理当番は基本的に持ち回り。

例外はあるが、食べることと生きることが直結している砦において、

この“自炊制度”はもはや常識となっている。




■昨日やってきた“異分子”


そんな砦に、昨日もうひとつ――いや、一匹、異質な存在が現れた。

白・黒・茶の三色を持つビーグル犬、名前はライム。

クリスタル家の当主シアネが王都近郊の村で譲り受けた犬で、今は彼女の側にぴたりと寄り添っている。


彼の存在は――まだこの空間に馴染んでいない。


ただし、一人の兵士がこう言った。


「あの耳、さわっていいのかな……」


それは、砦の誰もが感じていた疑問だった。




■“普通じゃない日常”の始まり


倉庫が避難所となり、来賓室には"あのエルデ"、武器庫が荷物であふれる――

それでも砦は、今日も戦いに備えて動いている。


この番外編では、そんな灰の砦の構造と事情、

そこに暮らす兵士たちの仕事、そしてそれを取り巻く“ちょっと変わった現実”を、少しずつ紹介していく。


これは、王国の最前線で生きる人々と、砦の中で交差する日常の記録。


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