第3話『初陣の炎』 1
「じゃあ――訓練を始めましょう」
「まずはあなたの魔力量を調べましょうか」
ミレイアはリリアナの手を軽く握ると、静かに目を閉じた。
すると――
「……っ!」
ミレイアの目がわずかに見開かれる。
「これは……驚いたわね」
「え?」
リリアナは戸惑う。
「あなたの魔力量、とんでもなく多いわよ」
「そんなに?」
「ええ。今まで見てきたどの兵士よりも、圧倒的な量の魔力を持っている。
………もしかしたら、セリスとも並ぶかしら」
ミレイアは面白そうに笑った。
「セリス?」
「ええ。私たちが所属している部隊にいるの。一人で混合魔法を打ち消した、凄い人なのよ」
リリアナはあまり理解できていないが、凄い人だという事はなんとなくわかった。
「でも――あなた自身は、魔力の感覚を知らないのね」
「えっと……たぶん、そうだと思う」
リリアナは不安そうに答える。
ミレイアは少し考え、手を離すと、静かに言った。
「じゃあ、もっと分かりやすい方法を使いましょう」
彼女は軽く指を弾くと、リリアナの周囲にふわりと風を起こした。
「私が独自に行ってる、魔力の測定方法よ。あなたに私の魔力を注ぎ込むようなイメージね」
「魔力の量が多いほど、周囲の空気が自然に乱れるの。動かないで」
リリアナは思わず息を呑み、じっと立つ。
すると――
リリアナの周囲だけ、風が渦を巻くように大きく揺らぎ始めた。
「……っ!」
目に見えるほど、空気が震えている。
「やっぱり……」
ミレイアが静かに微笑む。
「普通なら、ほとんど反応しないのに。あなたは……風が押し返されるほど、魔力を溜め込んでいるわ」
「……そんなに?」
リリアナは自分の手を見つめる。
目に見えないはずの力が、自分の中に確かにあることを、はじめて実感した。
ミレイアは優雅に微笑んだ。
「ただし、制御はまったくできていない」
「制御……」
「そう。今のあなたは、水を満たしたコップを持っているけれど、注ぎ口がない状態なの」
ミレイアはリリアナの目をまっすぐ見つめた。
「まずは、魔力を解放する感覚を覚えなさい」
「……どうやって?」
リリアナは首を傾げる。
「意識してみるのよ。あなたの中に眠っている力を感じてみて」
リリアナは深く息を吐く。
(……私の中に、本当に魔力があるの?)
目を閉じて、静かに集中する。
呼吸に意識を向ける。
すると――
胸の奥が、ほんの少し熱くなる感覚があった。
「……!」
「何か感じた?」
ミレイアの声が聞こえる。
リリアナは小さく頷く。
「……少しだけ、熱いような」
「それが、あなたの魔力よ」
ミレイアは優しく答えた。
「今度は、その熱を手のひらに集めるように意識して」
リリアナは、そっと手を広げる。
(熱を、手に……)
意識を集中すると――
ボッ……!
小さな火が、リリアナの手のひらに灯った。
「……!」
リリアナの目が見開かれる。
「出た……!」
「ええ。これが、あなたの炎」
ミレイアは静かに言った。
だが次の瞬間――
炎が暴れ、リリアナの腕に燃え移りそうになる。
「わっ、待って……!」
「落ち着いて」
ミレイアがそっと肩に触れる。
「焦らないで。魔力は感情に影響を受けるの。深呼吸して」
リリアナは必死に呼吸を整え――
ふっと、炎が消えた。
リリアナは呆然と自分の手を見つめた。
「……消えた……」
ミレイアは静かに微笑んだ。
「いいわね。今ので、魔力の流れを少しは感じられたでしょう?」
「う、うん……たぶん」
リリアナは、まだ震える手をぎゅっと握りしめた。
(私……本当に、魔法が使えるんだ)




