第18話『束の間の焔』5
リリアナ隊がしばらく歩いた先には、一つの丘がたたずんでいた。
遠く見えるなだらかな丘――その頂には、数人の兵の影。布で覆われた小さな野営の跡。
砦を奇襲するために使われた地下道の起点であり、今もなお、グランツェルの占拠地。
フローデ丘である。
リリアナ隊はその丘から少し距離をとった位置に陣を敷いていた。
グレイから聞いた話しでは、丘からフレスト砦から伸びる、北側の通路を監視し続けているらしい。
「敵の動きは鈍いけど、まだここを使う気だね」
ノアが地面に伏せながら呟いた。
「……だったら、崩すだけ」
リリアナは右手を握った。
左手には魔力を通してはいけない。
マリアにそう言われていた。
炎の使いすぎで神経が悲鳴を上げているらしい。
(右手だけでいい。右手で、十分やれる)
――フレスト砦、出発前。
「丘に行きたい」
フレスト砦を出る直前、リリアナは仲間たちを集めて切り出した。
「……穴の起点か」
「うん。あいつら、村人を働かせてた。掘らせて、連れ去って……殺したかもしれない」
リリアナは言葉を詰まらせるが、拳はしっかりと握られていた。
「私は許せない。あんなことをしておいて、このまま引き下がるのが――悔しい」
「だから、仕返しをしたいと」
クラウスの静かな確認に、リリアナはうなずいた。
「アルテシアは黙ってない、ってことを見せたいの。次に同じことをさせないためにも、一発、全力で撃ちたい」
「それなら私、許可します」
マリアが即答した。
「ただし、一発だけ。
隊長は左腕を使わない事が条件。
セリスも手袋を外していいのは一回だけ。
それ以上の負荷は認められない」
「わかった。右手だけで通す」
リリアナが頷く。
「一撃」
セリスが短く応じた。
「じゃあ、風を重ねるわ」
ミレイアも立ち上がる。「風で流れを整える。三人で、打ちましょう」
ノアがにやりと笑う。
「……じゃあ、ぶちかまそっか。周りは"見とく"から」
――そして今、フローデ丘は風に揺れていた。
その先には、何も知らぬグランツェル兵の影。
リリアナは静かに右手を掲げ、セリスは手袋をラシエルに預け、ミレイアが風の流れを読む。




