第18話『束の間の焔』2
砦のかまど場には、ありあまる食材がずらりと並べられていた。
肉、根菜、干した豆に、保存用のパンとスパイス類。中央軍の補給は長期戦を想定していたのか、量も種類も豊富だ。
その中央に、リリアナが立つ。
「よし、にんじんは……こうして切って……あれ?」
ごりっ。
包丁が思ったより力強く刺さりすぎて、まな板を貫きそうになる。
「うおあっ! 隊長、力入りすぎですっ!」
クラウスが慌てて止めに入った。
片腕を包帯でぐるぐる巻きにされているクラウスは、リリアナに付きっきりで様子を見ていた。
周囲にはミレイア、ルネ、ノア、ラシエルと、いつの間にかリリアナ隊のメンバーが集まっている。
「おかしいな……お母さんと作ったときは、もっとすいすい切れたのに」
リリアナは少し照れくさそうに笑いながら、手元のにんじんを見つめた。
「シチューって、特別だったんだ。寒い日に、父さんが薪を割ってて、私とお母さんで並んで作って……」
湯気の立ちのぼる鍋が、ほんの少しだけ、あの頃の台所に似ていた。
「玉ねぎ炒めるとき、お母さんが『焦がさないでね』って毎回言ってきてさ。私、一回しか焦がしてないのに」
「今、それを記録更新できるか試してるんですね」
ラシエルが淡々と刺してくる。
「リリアナ、火の加減は任せて。風でちょうどいい強さに保てるわよ」
ミレイアが手を軽く振ると、かまどの炎が安定した。
「へへ、ありがと」
ルネは冷気の魔力で、肉や野菜を一時的に冷蔵保管。
クラウスは「こっちの鍋が厚手で使いやすいです!」と張り切っている。
一方ノアは――
「はい、毒見役入りまーす。味見っ!」
「ちょっと待ってまだ煮えてな――」
がぶっ。
「うあっつ!舌やけどしたっ、あっつぅ!」
ノアが口を押さえて走り回り、ルネが後ろから氷のかけらを「はいどーぞ」と渡す。
ティオがいつの間にかいたようで、「ノアさん、舌でかいね」とさらっと言った。
「え!?なに!?どういうこと!??」
騒がしさと温かさが同居する、砦のかまど場。
リリアナは鍋の中でぐつぐつと煮えたシチューをかき混ぜながら、心の中でそっとつぶやいた。
(お母さん。私、ちゃんとやってるよ。ちゃんと……守れた)
目元が、ほんの少し潤んでいたけれど。誰もそれには触れなかった。




