第17話『砦の守り火』 16
グレイが質問を続けた。
「民間人を連行したのはその村だけか?」
「……他にもあるはずだ。……この砦からも、何人か………」
リリアナもグレイも驚きを隠せない。
「何人だ」
グレイの声が低く響く。
敵兵はわずかに唇を噛み、目を逸らしながら答えた。
「俺が知ってる分には……40人ほど。北門近くに残ってた人たちを……同じように、攫っていった」
沈黙が落ちた。
リリアナは目を伏せ、拳を強く握りしめる。
「また……間に合わなかった……」
その時だった。
隣の捕虜が、ぽつりと漏らすように言った。
「そういや……『カイル』ってのが、指揮してた」
「カイル……?」
リリアナが顔を上げる。
「……何者だ?」
グレイが眉をひそめた。
「俺たちの上にいる男。細かい任務の指示は全部そいつが決めてた。
……たぶん、砦を攻めた計画も、村人のことも、全部カイルの命令だ」
「顔は? 階級は?」
「知らねぇ。ただ、時々姿を見せると……その場にいる奴らは、皆、頭を下げる。軍人の中じゃ、相当上の存在だろうな」
リリアナの眉が険しくなる。
初めて聞く名前――
けれど、その名は、これまでにない確かな“脅威”として、静かに胸に刻まれた。
「カイル……」
グレイが静かに言う。
「今回の急襲は、ただの侵攻じゃなかった。砦を“崩すため”の綿密な計画……
その中心にいたのが、そいつってわけか」
「……本格的に調べないと」
リリアナが小さく呟く。
――これで終わりじゃない。
地下に、民間人の苦しみに、そして“カイル”という影に。
この戦争の闇は、想像より深く、遠い。
リリアナは目を上げる。
「……戻ろう。ロークたちのところへ」
「司令塔か。……俺も将軍の様子を見ておきたい」
「手が空いてるやつは北門の周辺を捜索してくれ!地下道の出口があるはずだ!」
グレイが指示を飛ばすと、二人は砦の中心――司令塔へと向かって歩き出す。




