地底の炎
地下へと足を踏み入れたカイとセリアを待ち受けていたのは、常識を超えた異様な光景だった。狭い裂け目を抜けると、広がっていたのはまるで異次元のような空間。岩肌は溶けて赤く光り、熔岩が地を流れ、あたり一面にまるで世界そのものが燃え尽きようとしているかのような熱気が漂っていた。
「ここが…厄災の根源…?」
セリアは息苦しさを感じながら周囲を見渡した。
「間違いない」
カイは短く答え、手のひらに熱を感じながら、その場をじっと見つめた。「ここはただの自然の力じゃない。厄災そのものが生んだ異常な場所だ」
広がる熔岩の海の中、時折何かが蠢く音が響き、そこから上がる蒸気が空間を歪ませている。熱で視界が揺らめき、まるで全てが溶けてしまうような感覚に襲われた。
「どうするの?」
セリアはカイに問いかけた。「この場で何かをするの?」
カイは眉間に皺を寄せ、考え込むように視線を巡らせた。「いや、この炎はただの現象じゃない。厄災の核がどこかにあるはずだ。そいつを見つけ出して、力を封じるしかない」
「厄災の核…」
セリアはその言葉に少し息を詰まらせ、目を凝らして辺りを見回した。「それは、どこにあるの?」
カイは無言で前進しながら、地面に耳を近づけた。「厄災は単なる自然現象じゃないって言っただろ?そいつは何か生き物のように動いてる。今も俺たちの足元で蠢いてるさ」
セリアは背筋が凍るような感覚に襲われた。厄災は単に力の暴走ではなく、意志を持って動いている何か――それは、想像を超えた脅威だった。
「気をつけろ、セリア。あいつが動くかもしれない」
カイは緊張した様子で立ち上がり、手を広げてセリアを守るような姿勢を取った。
その時、地面が突然激しく揺れた。大地が裂け、そこから巨大な炎の柱が立ち上がったかと思うと、空間全体が軋むような音を立て始めた。轟音と共に、地中から何か巨大な存在が浮かび上がってきた。
「来たか…!」
カイは鋭い目つきで、その現象を見据えた。
大地を揺るがすような力が一気に広がり、熔岩が吹き上がる。まるで炎そのものが生きているかのように、形を変えながら一つの姿を成していった。現れたのは、炎の巨人だった。その全身が熔岩でできており、燃え盛る炎を纏いながら立ち上がっている。
「これが…厄災の核…!」
セリアは息を呑んだ。目の前に立つ巨人は、ただの炎ではない。そこには明らかな意志と力が感じられた。大地を焼き尽くし、全てを飲み込む力を具現化した存在。それが、この巨人だった。
「そうみたいだな」
カイは軽く肩をすくめながら、しかしその目は鋭く光っていた。「こいつを倒せば、この炎も止まるってわけだ」
「でも、どうやって…?」
セリアは焦りながら尋ねた。「あなたの力も…あと5回しか残ってないのよ」
カイは一瞬、考え込むような顔をしたが、すぐに軽く笑みを浮かべた。「まあ、確かにそうだな。でも、こういうのは直感で行くしかないだろ」
「直感って…!」
セリアは思わず声を上げた。「これは命がけの戦いよ!慎重に行かないと…!」
「大丈夫だって。俺に任せとけ」
カイは軽い口調で返したが、その背中にはどこか決意が漂っていた。
炎の巨人が咆哮を上げ、その手を振り上げた。その動き一つで周囲の温度がさらに上昇し、熔岩が暴れ回る。巨人の一撃が地面に叩きつけられると、周囲の岩が吹き飛び、熔岩が川のように流れ始めた。
「くっ…!」
セリアは地面を踏みしめて耐えながら、カイの背中に目を向けた。「カイ、無理はしないで…!」
「俺の無理なんていつものことだ」
カイは笑みを浮かべながら前に進み出た。「さあ、行くぜ」
彼は両手を広げ、再びその独特の呪文を口にした。
「ラスト・ジャッジメント…!」
その瞬間、空間が一気に静まり返り、時間が止まったかのような感覚に包まれた。カイの体から放たれた力が炎の巨人に向かって一直線に放たれ、その瞬間、巨人の動きが止まった。
巨人の体は一瞬で崩れ始め、炎が次第に消え去っていく。まるで、その存在が初めからここにはなかったかのように、巨人は静かに消えていった。
「…やった」
セリアは驚きと安堵が混じった声で呟いた。
「これで…終わりだ」
カイは疲れた表情を見せながら、ゆっくりと息を吐いた。「残り4回…これで次に進める」
セリアはカイの方を見つめ、その疲れた姿に心が揺れ動いた。彼の力が確実に削られていく現実が、彼女の胸を締め付けていた。
「カイ…あなた、本当にこれで大丈夫なの?」
セリアは小さな声で問いかけた。
カイは笑みを浮かべ、「ああ、大丈夫さ。まだ4回も残ってるだろ」
彼の飄々とした態度の裏には、確かな決意と覚悟があることをセリアは感じ取っていた。だが、それでも彼の命が削られていることは事実だった。
「次の厄災が来る前に、少し休もう」
セリアは静かに言った。「あなたの力を温存しなきゃならないわ」
カイは軽く頷き、「そうだな。それが賢明かもな」
二人は再び炎の消えた大地を後にし、次なる厄災に備えるために歩き出した。