燃える大地
翌朝、ルクレシア王国の地平線には異様な光景が広がっていた。地面が裂け、そこから立ち昇る煙が空を覆い尽くしている。遠くに見えるのは、大地を燃え尽くすような赤い炎。何もかもを飲み込み、焼き尽くそうとしているその光景は、厄災の次なる姿を見せつけていた。
「…これが、燃える大地」
セリアは唇をかみしめながら、広がる炎の海を見つめた。
「予想通り、次の厄災が動き出したな」
カイは少し眉をひそめながら、冷静な口調で答えた。「このままだと、王都にも火の手が届くのは時間の問題だ」
彼らが立っている丘の下、広がる大地はまるで火山のように燃え盛っていた。大地が裂け、地中から溢れ出す炎が都市や森を飲み込み、何もかもを焼き尽くしている。その熱は彼らの場所からでも感じられるほど強烈で、ただ立っているだけで息苦しさを感じるほどだった。
「カイ…どうするの?このままだと、すべてが…!」
セリアの声には焦りが滲んでいた。
カイは彼女の方を見ず、じっと燃える大地を見つめた。「落ち着け、セリア。焦っても仕方がない。俺たちは無理に動くより、ここでしっかり状況を見極める必要がある」
「でも、もう時間がない…!」
セリアは彼に詰め寄るように言った。「このままだと、王都の人たちが危ない。あなたが動かなければ…!」
カイは短く息を吐き、少し疲れたように目を細めた。「わかってる。けど、俺がここで力を使えば、残りはあと4回だ。無駄遣いできないんだ」
その言葉にセリアは何も返すことができなかった。カイの力が有限であること、そして厄災がまだ残っていることを痛感しながら、彼女はその場に立ち尽くした。
「…なら、どうすればいいの?」
セリアは静かに尋ねた。「このまま…見ているしかないの?」
カイはしばらく沈黙していたが、やがてその場にしゃがみ込み、大地に手を触れた。「俺たちがこの火を止めるためには、もっと直接的な対策が必要だ」
「直接的な対策?」
セリアはカイの言葉に驚いて聞き返した。
カイは頷き、地面に耳を近づけるようにしながら答えた。「燃える大地の源は、この地中深くに潜んでいる。何かがこの炎を引き起こしているはずだ。それを見つけ出し、根本から断ち切る必要がある」
「でも…その何かって…?」
セリアは不安げに尋ねた。
「厄災の本体だろうな」
カイは冷静に答えた。「俺たちはただこの炎を抑え込むだけじゃなく、その元凶を叩かなきゃならない。それが、この炎を止める唯一の方法だ」
セリアはその言葉を聞いて覚悟を決めた。彼女は強く頷き、カイの言葉に従って行動することを決意した。「…わかった。あなたの指示に従うわ」
「よし、そうこなくちゃな」
カイは微笑みながら立ち上がり、地面に視線を戻した。「こっちだ、セリア。地下に繋がる裂け目が近くにあるはずだ。そこから潜って、厄災の元を見つけるぞ」
二人は燃え盛る大地を避けながら、地中深くに潜む厄災の元凶を探すために歩き出した。周囲の熱はますます強まり、足元の地面が熱で揺らめく中、彼らは息苦しさを感じながらも前進し続けた。
しばらく進むと、カイが足を止めた。目の前に広がるのは、巨大な地割れだった。地面が裂け、その奥には暗闇が広がっている。そこから立ち上る熱気は、まるで地獄そのものを覗いているかのようだった。
「ここだ」
カイは裂け目を指差し、セリアに目を向けた。「この奥に厄災の本体がいる。そこまで潜り込んで叩くしかない」
セリアはその暗い裂け目を見つめながら、大きく息を吸い込んだ。「本当に…これしか方法はないのね」
「そうだ」
カイは短く答えた。「けど、無茶はするなよ。俺が先に行くから、お前は俺の後ろをついて来い」
「わかったわ」
セリアは強く頷き、カイの後を追う準備を整えた。
カイは一歩ずつ裂け目に足を踏み入れ、セリアもそれに続いた。地中から立ち昇る熱気に息苦しさを感じながらも、二人は炎の源を探し出すため、暗い地下の世界へと足を踏み入れた。
暗闇の中、カイの背中が静かに光を放っていた。それは、彼の持つ力の余韻であり、彼の命の残り時間をも示しているかのようだった。セリアはその背中を見つめながら、彼の運命と向き合う覚悟を胸に秘め、共に前へと進んだ。
地下深く、何かが待っている――それが何であれ、二人はその力に立ち向かうしかなかった。