運命の出会い
広大な王都を抜け、セリアとカイは暗く沈んだ夜の道を歩いていた。月は依然として赤く、血のように光り続けていた。王都の石畳に映るその赤い光は、まるで大地そのものが血に染まり、何か不吉な運命が近づいていることを示しているかのようだった。
「セリア、お前、本気でこれからどうするつもりだ?」
カイが無造作に手をポケットに突っ込みながら、いつもの飄々とした調子で声をかけた。
セリアは少し考え込み、冷たい夜風を頬に感じながら答えた。「わからない。でも、今の王国に頼っても、誰も動かないのなら…私自身が動くしかないと思ってる」
彼女の言葉には決意が込められていたが、その瞳にはまだどこか不安が宿っていた。王国の未来を変えたい、厄災を止めたいという強い思いはある。しかし、彼女一人でその巨大な力に立ち向かえるかという疑念が心の片隅に常に存在していた。
「ふーん。お前がそこまで本気だとは思ってなかったな」
カイは感心した様子で言ったが、その言葉の裏には軽口を叩くような軽さがあった。
セリアは立ち止まり、カイの顔をまっすぐに見つめた。「カイ、あなたはいつもそう。飄々としていて、何も真剣に考えていないように見える。だけど、私にはわかるわ。本当は、あなたもこの世界を変えたいと思ってるんじゃない?」
カイは驚いたように眉を上げたが、すぐに笑みを浮かべた。「さあな、俺がそんな大層なことを考えるような男に見えるか?」
「見えるわよ。」セリアは即答した。「あなたが自分の命をかけて厄災に立ち向かう覚悟があるからこそ、私はあなたに期待しているの。私たちで、この王国を救えると信じてる」
カイは一瞬、口をつぐんだ。彼女の言葉に、いつも軽口でかわしていたような態度を取れなかった。彼自身、セリアのように強い覚悟を持っているとは言えなかったが、彼女の真剣さに心が揺さぶられるのを感じていた。
「…お前は、本当に変わってるな」カイは目を細めながら静かに言った。「普通なら、俺みたいなやつにそんな期待はしないだろうに」
セリアは少し微笑み、「だからこそ、あなたに期待するのよ。カイ、あなたはただの普通の人じゃない。私にはわかるの。あなたの中に何か…特別なものがあるって」
その言葉に、カイは短く息を吐き、夜空を見上げた。赤い月が不気味に輝いているが、その光景は彼にとって何か心地よいものですらあった。彼の心には常に死と隣り合わせの感覚があり、その中で生きてきた彼にとって、終わりの兆しは特別な意味を持っていなかった。
「特別なもの、か…」カイは呟いた。「俺にそんな大層なものがあるとは思えないけどな」
「それでも、私はあなたに賭けるわ。」セリアはまっすぐに彼を見据えて言った。「あなたの力が必要なの。だから、無駄にしないで。あなたの命も…私たちの未来も」
その真摯な瞳に、カイは少し圧倒されたような表情を浮かべたが、すぐに再び飄々とした笑みを取り戻した。
「まあ、そうだな。お前がそこまで言うなら、俺も本気でやってみるか」カイは肩をすくめ、「でも、無理はするなよ。お前の命も大事だってこと、忘れるなよ」
セリアは頷き、「私だって、簡単に死ぬつもりはないわ。でも、カイ…あなたが自分の命を削って戦っていることを忘れてはいけない。厄災は8つあるけど、あなたの力もあと6回しか残っていない。それで全てを倒すことができなければ、世界は…」
「世界は終わる、か。」カイは静かに呟いた。「ま、その時はその時だ。今はとにかく、目の前の問題を片付けるのが先だろ」
「あなたはいつもそう楽観的に言うけど…」セリアは少しため息をついた。「それでも、私はあなたを信じてるわ。あなたなら…きっと」
その時、遠くから響く音が二人の会話を遮った。再び、地面が揺れ、赤い月の下に何かが動き始めたのだ。
「…来たな。」カイは軽くため息をついて、目を細めた。「どうやら次の厄災が動き出したみたいだ」
「これが…第二の厄災、鋼の嵐…?」セリアは恐怖を感じながらも、前を見据えた。
「さて、俺たちも本格的に動く時が来たみたいだな。」カイはニヤリと笑い、「俺の力、あと6回しか残ってないんだから、大事に使わなきゃな」
セリアはその軽口に少し苦笑しながらも、心の奥に広がる不安を拭い去ることはできなかった。
夜の風が二人の周りを吹き抜け、赤い月が冷たく輝き続ける中、運命の歯車は確実に動き始めていた。