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終焉の星と八つの厄災  作者: 或真怜央-ARUMA LEO-
第一章:崩れゆく星の光
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王国の危機

ルクレシア王国の王城は、その壮麗さと同じくらいの冷たさを持っていた。白く輝く石壁は、外界の荒々しい気候を遮断し、内部を穏やかで荘厳な空気で満たしている。しかし、その静けさは何か別のものを隠しているかのように重苦しい。


広間には、豪華な装飾が施された長いテーブルが置かれ、そこには王国の重鎮である貴族たちが集まっていた。彼らは豪華な衣装に身を包み、刺繍や宝石がふんだんに使われた衣服が、その権力と富を誇示していた。どの顔にも余裕があり、頬には薄い笑みが浮かんでいる。しかし、その笑みの裏には、漠然とした不安が漂っていた。


その日は、厄災に対する対策会議が行われていた。しかし、テーブルを囲む貴族たちの関心は、目の前に広がる豪華な食事にあり、厄災の話題は誰も本気で取り上げていなかった。


「血の月だというが、あれは単なる天文現象だろう」

「確かに。魔法の力で対応できないものなど、今までなかったからな」

「王国の軍も健在だ。我々が恐れるべきことなど何もない」


貴族たちは互いに笑いながら、杯を交わし、あたかも厄災など存在しないかのように振る舞っていた。誰もが危機感を持っていない――いや、持ちたくないのだ。彼らは今の安定した地位と権力を手放すことを恐れていた。それを脅かす厄災について本気で議論することで、現実を直視することを避けているように見えた。


その中心に座っているのが、王国の魔法顧問であるアレン・ダグラスだった。彼は冷静な表情で周囲の会話を聞いていたが、口を挟むことはしない。その目は鋭く、誰よりも状況を理解しているようだったが、あえて何も言わないことで、王国の体制を守ろうとしているように見えた。彼の深い紺色のローブは、魔法の力を示す紋様が織り込まれており、貴族たちからは尊敬の眼差しを向けられていた。


しかし、その場にいた一人だけ、明らかに違う表情をしている者がいた。


セリア・ファルセア。彼女は、貴族たちの軽薄な会話を聞きながら、内心で怒りを抑えられずにいた。彼女の顔は強張り、白いドレスの袖をぎゅっと掴んでいた。彼女がこの王国を愛していることは疑いようがなかった。だからこそ、彼女はこのまま滅びに向かっていく王国を見過ごすことができなかった。


「どうして、誰も何もしないの…?」セリアは、心の中で繰り返し自問した。


その時、セリアは立ち上がった。広間全体が彼女に注目し、ざわめきが広がる。


「皆さん、本当にそれで良いのですか?」セリアの声は静かだったが、その一言は広間を揺るがした。彼女の金髪が揺れ、鋭い青い瞳が貴族たちを見据える。「厄災がこの国に迫っていることは、皆さんも知っているはずです。それなのに、ただ座って話をしているだけで、何も行動を起こそうとはしていない…」


「おや、セリア嬢。少し落ち着きたまえ。」

貴族の一人が笑いながら手を振った。「我々は長年、この国を守ってきた。その知恵と力がある限り、厄災など恐れるに足らぬ」


「そうですとも!」

別の貴族が同調する。「魔法の力がある限り、我々は無敵だ。厄災など、魔法の一撃で片付けられるだろう。」


セリアの瞳に怒りが浮かぶ。彼らは現実を見ようとしていない。厄災は、今までのどんな魔法でも太刀打ちできない力を持っている。それは、彼女がカイと共に見てきた光景が物語っていた。


「それが、過信です。」セリアは強い声で言い放った。「この厄災は、あなたたちが思っている以上に強大で、恐ろしいものです。王国の未来が危機にさらされているのに、どうしてあなたたちは何もしないのですか?」


広間に沈黙が降りた。誰もが彼女の言葉を真剣に受け止めることができずにいた。それどころか、一部の貴族たちは困惑した表情を浮かべ、少しずつ笑みを浮かべ始める。


「セリア嬢、君は若い。まだ分からないのだろう。魔法とは、我々の長い歴史の中で磨かれ、今に至っている。何千年も続くこの王国の伝統を揺るがすようなことなどあり得ない」


「そうとも。若者は、すぐに心配をするものだ。我々が見てきた時代は、もっと厳しいものだったが、魔法がすべてを解決してきた」


セリアは愕然とした。彼らは、星の力が弱まり、アストラの輝きが消えつつあることすら理解していないのだ。王国が滅びに向かっていることを信じようとはしていない。


その時、広間の扉が勢いよく開かれた。


「よう、遅くなったな」


入ってきたのは、黒いコートを纏ったカイ・アシュテールだった。彼は軽い足取りで広間に入り、飄々とした笑みを浮かべながら、セリアの隣に立った。


「カイ…」セリアは彼に驚いた顔を向けた。「どうしてここに…」


カイは軽く肩をすくめ、「まあ、ちょっと厄介な状況になってるって聞いたからな。お前一人でどうにかしようとしてるってのも気になってたし、様子を見に来たってわけだ。」


貴族たちは彼の登場に困惑し、ざわめき始めた。


「なんだ、この男は?」

「見たことのない顔だな。貴族でもないだろうに、ここにどうやって…?」


その声にカイは軽く笑い、「そんなにじろじろ見るなよ。俺はこの場を楽しみに来ただけさ。」


「ふざけるな!」貴族の一人が怒鳴り声を上げた。「ここは王国の重要な会議だ。無関係な者が入り込む場所ではない!」


カイは冷静に彼を見返し、軽く目を細めた。「重要な会議だって?どう見ても、飲んで食ってるだけにしか見えないがな。」


その一言に、貴族たちの顔は怒りに染まった。彼らの中にはカイを追い出そうとする者もいたが、彼の圧倒的な存在感に圧倒され、動けなかった。


「セリア、こいつらに何を言っても無駄だろう」カイは、軽く彼女に向けて言った。「こんな連中に期待するより、俺たちで動いた方が早いさ」


セリアは苦笑いを浮かべたが、カイの言葉には一抹の真実があった。彼の軽口に救われる気持ちもあり、同時に自らの無力さを痛感していた。


「…そうね」セリアは深いため息をつき、「ここで時間を無駄にするわけにはいかない。私たちで、何とかするしかないわね」


カイは彼女の肩を軽く叩き、「そうだ、その意気だ。さ、行こうぜ。厄災を片付ける旅に出るとしよう」


広間に残された貴族たちは、二人の背中を見つめるしかなかった。そして、その背後に迫り来る厄災の影は、王国全体を覆い始めていた。

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