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終焉の星と八つの厄災  作者: 或真怜央-ARUMA LEO-
第一章:崩れゆく星の光
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血の月食

夜空を切り裂くように、赤い月がその姿を現した。暗黒の空に浮かぶ血のような満月は、王都ルクレシアのすべてを不吉な色で染め上げる。月の光は、もはや温かいものではなく、まるで大地を焼き尽くさんとする凶兆の炎のように、冷酷で無慈悲な光を放っていた。


カイとセリアは、王都の高台からその異様な光景を見つめていた。カイはいつものように飄々とした態度で腕を組み、赤い月を観察していたが、その瞳には微かに緊張が走っていた。


「血の月か…まさか、噂は本当だったんだな」カイが呟いた。


「これは…厄災の一つ、血の月食。月が赤く染まると、海が引き裂かれ、死が波となって押し寄せるって…」セリアの声は震えていた。彼女の瞳には、今にも崩壊しそうな未来が映し出されているようだった。


その時、遠くから不気味な低い音が聞こえ始めた。ゴゴゴゴ…と地鳴りのような音が、地の底から響いてくる。セリアはその音に背筋が凍りつくのを感じ、カイを見上げた。


「カイ…これは…?」


カイは軽くため息をついて、肩をすくめた。「おそらく、血の月が本格的に動き出したな。俺たちがじっとしている間に、海が荒れてるだろう。ま、いつものことだが」


「いつものこと…じゃないのよ!」セリアは声を荒げた。「これはただの天変地異じゃない。王国が、世界が終わる前兆なんだわ!」


その瞬間、王都の遠くの方向から、明らかに異質な咆哮が響いた。それは海の方角からだ。カイとセリアが立っている高台からでも、その方向には、漆黒の海が広がっているのが見えた。しかし、今は違った。海の色は赤黒く染まり、その波打つ姿はまるで何か巨大な獣がもがいているように見える。


「…見ろよ、セリア」カイが指を差しながら言った。「海が…裂けてるぞ」


彼の言う通り、遠くの海面は巨大な亀裂が走り、波が激しく上下に乱れていた。まるでその下から何かが浮かび上がろうとしているかのように。


「これが…血の月食の力なの?」セリアは信じられない思いでその光景を見つめた。伝説で聞いていたことが、今、現実のものとして目の前に広がっている。


「おそらくな」カイは冷静な口調で答えた。「そして、その海から何が出てくるのか、俺たちもすぐに知ることになるだろう」


その言葉と同時に、地面が再び大きく揺れ、遠くの海から巨大な生物が姿を現した。そいつは、まるで海そのものが姿を変えたかのような巨大な存在だった。青黒い鱗が月光に照らされ、禍々しい光を放っている。何本も伸びる触手のような尾が大地を引き裂き、その咆哮は空気を震わせた。


「これは…!」セリアは息を飲んだ。「厄災が形を持った…!」


カイはその怪物を冷静に見据えながら、軽く口の端を上げた。「よし、これは思ったより大きな獲物だな。そろそろ動くか。」


「待って!」セリアはカイの腕を掴んだ。「あなたの力は…あと何回使えるの?」


「残り7回」カイは軽く答えた。「けど、今の状況を見てると、ここで使わなきゃならないだろう。お前が無事にここから出るにはな」


「でも、もし無駄遣いしたら…他の厄災も…!」セリアの瞳には、恐怖と焦りが混じっていた。カイの力は強大だが、その代償は重すぎる。厄災をすべて滅ぼすためには、彼の即死能力を無駄にすることはできなかった。


「心配すんな、セリア」カイは彼女を落ち着かせるように優しく微笑んだ。「俺の命なんて、そんな大したもんじゃないさ。今がその時なら、使うだけのことだ。」


カイはセリアの手を軽く外し、怪物に向かって一歩を踏み出した。彼の背中は、いつもと同じ飄々とした姿勢で、まるでこの状況を楽しんでいるかのように見える。


「よし、行くか」カイは静かに手を前に掲げ、目を閉じた。


次の瞬間、彼の体から圧倒的な力が放たれた。空気が一瞬静まり返り、まるで時間が止まったかのように感じられる。その圧倒的な存在感は、すべてを呑み込むように広がり、周囲の空間が歪む。


「ラスト・ジャッジメント…」


その一言と共に、カイの力が解放され、怪物は一瞬で崩れ落ちた。まるでその存在が、最初からそこにはなかったかのように、音もなく消え去った。


カイは静かに息を吐き、背後に立つセリアを振り返った。「ほら、終わっただろ?」


セリアは驚愕と安堵が入り混じった表情で、言葉を失っていた。「…一瞬で…」


「だから言ったろ?」カイは笑みを浮かべながら近づいた。「簡単なことだよ。これであと6回」


しかし、セリアはその言葉に安堵することができなかった。彼の飄々とした態度の裏には、自らの命が削られているという現実がある。そして、それはすべて彼女を守るための犠牲だった。


「カイ…あなたは…」


「大丈夫だって」カイは軽く肩をすくめた。「俺はまだ7回分の命を持ってるんだ。それで十分さ」


しかし、セリアの心に浮かぶ不安は、彼の言葉では決して消え去らなかった。


カイの命を削る力に頼りながら、セリアは一歩ずつ進んでいかなければならなかった。厄災の脅威は、これからさらに大きなものとして二人を待ち受けている。

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