塵の嵐
カイとセリアが次の目的地に向かう道中、空が再び暗くなり、突如として強烈な風が吹き荒れ始めた。空には無数の細かな塵が舞い上がり、あたり一面を覆い尽くしていた。視界はほとんど遮られ、呼吸すらも困難になるほどだった。
「…これが、塵の嵐か」
カイは顔を覆いながら呟いた。
「こんなにひどいなんて…!」
セリアも袖で口元を押さえながら、風の勢いに耐えた。塵が容赦なく吹き付け、周囲はまるで何もない荒れ果てた世界に変わっていた。
「このままじゃ…進めないわ。どうするの?」
セリアはカイに問いかけたが、風の音が強すぎて彼の声がほとんど聞こえなかった。
「この塵の嵐は、ただの風じゃない」
カイは周囲を見回しながら叫んだ。「この塵は、命を吸い取っていく。俺たちはここで立ち止まるわけにはいかない!」
カイの言葉に、セリアは一瞬息を呑んだ。塵の嵐は単なる自然現象ではなく、生き物の命そのものを奪い取っていく力を持っていた。それはまさに厄災そのものだった。
「カイ、これを止めるにはどうすればいいの?」
セリアはカイに駆け寄り、必死に声を張り上げた。
「この嵐には中心があるはずだ。そこに辿り着いて、厄災の核を叩けば止められる」
カイはそう言って、前方を見据えた。「だが、この塵が俺たちの力を吸い取っていく。気をつけろ、セリア。下手に動くと命を失うぞ」
二人は視界がほとんど見えない中、慎重に進み始めた。塵が体にまとわりつき、まるでそのまま命を奪おうとするかのように感じられた。空は不気味な灰色に染まり、風が彼らの歩みを邪魔し続けた。
「このまま進んでも大丈夫…?」
セリアは不安を抱えながらカイを見た。
「俺の力はまだ残っている」
カイは短く答えたが、その声には少しの疲れが滲んでいた。「だが、ここで無駄に使うわけにはいかない。中心まで辿り着くまで、俺たちは耐え抜かなきゃならない」
二人は風の勢いに抗いながら、さらに前へ進んだ。塵が容赦なく彼らの体を包み込み、呼吸を奪おうとする。セリアは何度か足を止めそうになったが、カイの背中を見て力を振り絞り、歩みを止めることはなかった。
「カイ…まだ大丈夫?」
セリアは心配そうに尋ねた。
「俺は…まだいける」
カイは少し苦しげに答えたが、その足取りは徐々に重くなっていく。
やがて、二人の前に巨大な渦が見えてきた。嵐の中心がそこにある。風が最も激しく吹き荒れている場所だが、そこには明らかに異様な力が渦巻いていた。まるでその中心にいる何かが、この嵐を操っているかのようだった。
「見えたぞ…あれが厄災の核だ」
カイはその中心を指差し、力を振り絞って前へ進んだ。
セリアも必死にその後を追ったが、風があまりにも強く、彼女の体が吹き飛ばされそうになる。「カイ…!風が強すぎる!」
カイは彼女に手を差し伸べ、しっかりと掴んだ。「大丈夫だ。俺がここで守る。お前は俺の後ろにいろ」
カイの手の温もりを感じながら、セリアは少しずつ恐怖を抑えた。彼がそばにいる限り、負けるわけにはいかない。彼女はその決意を胸に秘め、嵐の中心へと歩みを進めた。
しかし、嵐の中心に近づくにつれて、塵の力が一層強まり、二人の体力を確実に奪っていった。カイの顔には疲れが浮かび、呼吸が荒くなっていた。
「カイ、これ以上進むのは危険よ…!」
セリアは彼を引き止めようとしたが、カイは決して止まらなかった。
「俺たちが止まれば、この世界は塵となって消える。ここで終わらせなきゃならないんだ」
カイの声には覚悟が感じられた。「これが最後の戦いかもしれない。だからこそ、俺たちの全力を使うんだ」
セリアは彼の言葉に深く頷き、力を込めて手を握り返した。彼らはついに嵐の中心に到達し、そこに渦巻く異様な力を目の当たりにした。
そこには、塵の中から現れた黒い核のような存在が浮かび上がっていた。それはただの物体ではなく、明らかに意志を持っていた。黒い影が蠢き、周囲に無数の塵を生み出していた。
「これが…塵の嵐の核…!」
セリアは驚愕の声を上げた。
「これで決着をつける…!」
カイは力を解放しようとしたが、その瞬間、膝をついて倒れ込んだ。
「カイ!」
セリアは驚いて彼に駆け寄り、その体を支えた。「無理しないで!あなたの力は…!」
「俺は…まだ…やれる」
カイは苦しげに呟きながら、力を振り絞って立ち上がろうとした。
セリアはその姿を見て、涙がこぼれそうになるのを感じた。彼の命が尽きかけている。それでも、彼は立ち上がり、戦いを続けようとしている。彼の覚悟と、彼が守ろうとしているものを感じ取った彼女は、決意を固めた。
「カイ、あなたはもう休んで」
セリアは優しく言い、彼の手を取りながら、自分の力を解放し始めた。「今度は私が…あなたを守る番よ」
セリアの体から放たれる光が、一層強く輝き始めた。彼女の決意と覚悟が、その光に込められ、嵐の核に向かってまっすぐに伸びていく。
「これで…終わりよ!」
セリアは叫びながら、全力で光を放った。
光が嵐の核を包み込み、次第にその黒い影を消し去っていく。塵の力が弱まり、嵐が止まり始めた。周囲に広がっていた風も静まり、空は再び静けさを取り戻した。
「やった…」
セリアは息を切らしながら、光が完全に嵐を消し去るのを見届けた。
「お前がやったんだ、セリア…」
カイは疲れた声で言いながら、微笑んだ。
セリアはカイの顔を見つめ、深く息を吐いた。「カイ…ありがとう。あなたがそばにいてくれたから、私はここまで来れた」
「俺も…お前がいてくれて助かったよ」
カイは少し苦笑しながら答えた。「さあ、これで残りはあと一つだな」
空が再び青く広がり、最後の厄災が待ち受けていることを二人は感じていた。