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終焉の星と八つの厄災  作者: 或真怜央-ARUMA LEO-
第四章:虚無の叫び
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死者の行軍

次の日、世界は再び変わっていた。夜が明けたばかりの空は薄曇りに覆われ、風がどこか不気味に冷たかった。遠くから聞こえる不協和音のような音が、セリアとカイの耳に届いた。何かが近づいている――その予感が、二人を緊張させた。


「…カイ、聞こえる?」

セリアは立ち止まり、音が近づいてくる方向に視線を向けた。「この音…何かおかしいわ」


カイもすぐに気づき、鋭い目つきで遠くを見据えた。「ああ、これはただの風の音じゃない」


風の音に混じっていたのは、金属がぶつかり合うような、鈍い響き。それが規則的に、ゆっくりと近づいてくる。まるで何かが重く、地を這うように行軍しているかのような音だった。


「これは…第六の厄災、死者の行軍だ」

カイは静かに呟いた。その声には、どこか冷静な緊張が漂っていた。


「死者の行軍…?」

セリアは恐怖を抑えながらカイを見つめた。「それって、どういうことなの?」


カイは短く息を吐き、彼女に説明するように話し始めた。「かつてこの地で戦死した者たちが、亡霊となってよみがえり、無限に行軍を続ける。彼らは生者に対して復讐を誓い、見つけ次第その命を奪うんだ」


「亡霊が…復讐を…?」

セリアはその言葉に恐れを感じたが、すぐに冷静を取り戻そうとした。「じゃあ、彼らは私たちを襲ってくるの?」


「ああ、そうなるだろうな」

カイは目を細めながら言った。「彼らには肉体がないから、普通の武器じゃ倒せない。魔法や俺の力でしか対抗できない」


その瞬間、地平線の向こうから、影が浮かび上がってきた。ぼんやりとした人影のようなものが、列を成してゆっくりと歩いてくる。その姿は不気味で、彼らの姿は明確には見えなかったが、手に持った錆びた武器や、かつての戦士のような鎧がわずかに輝いているのが見えた。


「来たぞ…!」

カイは身構え、セリアに向かって言った。「お前は後ろに下がってろ。こいつらを相手にするのは俺の役目だ」


「でも…!」

セリアは反論しようとしたが、カイの強い目に止められた。


「お前の光はまだ必要だ。今使わせるわけにはいかない」

カイは鋭い声で言った。「ここは俺が片付けるから、お前は俺が指示するまで下がってろ」


セリアは一瞬迷ったが、カイの言葉に従うことにした。彼の言葉には常に信頼があり、彼が今、彼女に何をすべきかをはっきりと示していた。


「わかったわ、カイ。でも、無茶はしないで」

セリアはその場で祈るように目を閉じた。


カイは軽く頷き、前へ進み出た。彼の目の前には、死者の行軍が無数の列を成して迫ってきていた。彼らの歩みは遅く、重々しいが、その動きは決して止まることはない。彼らの目には憎悪と怒りが宿っており、その冷たい瞳でカイをじっと見据えていた。


「行くぞ…」

カイは小さく呟き、手を前に掲げた。


死者の行軍が距離を縮め、彼らの手に持つ武器が音を立て始める。錆びついた剣や槍が、まるで今にもカイを切り裂こうとしているかのように輝いていた。


「ラスト・ジャッジメント…!」


カイの体から放たれた力が、死者の列を一瞬にして押し返した。亡霊たちの姿が歪み、まるで霧のように消え去っていく。しかし、それでも完全に消滅することはなく、再び形を成して行軍を続けていた。


「くそ…こいつらはしぶといな」

カイは息を吐きながら、再び力を込めようとしたが、その顔には少し疲れが見えた。


「カイ…!」

セリアはその様子を見て叫んだ。「大丈夫なの?無理しないで!」


「大丈夫だ」

カイは笑みを浮かべたが、その言葉には少しだけ無理が含まれていた。「だが、こいつらを倒すのには時間がかかる」


再び、亡霊たちがカイに向かって迫ってきた。彼らの行軍は止まらず、まるで永遠に続くかのように彼を取り囲んでいく。


「カイ…このままだと…」

セリアは焦りを感じながらも、どうするべきか迷っていた。カイの力が限られていることを知っているからこそ、彼の命を削るような戦いを続けさせたくなかった。


「俺がやらなきゃいけないんだ、セリア」

カイは微笑んだ。「ここで俺がやらなきゃ、次に進めない。だから、安心しろ。俺はまだ残ってる」


セリアは彼の言葉を信じながらも、胸に広がる不安を抑えられなかった。死者の行軍は終わることなく続いており、カイの力がどれほど強大であっても、限りがあることを彼女は理解していた。


その時、セリアは何かを感じた。自分の内にある光が、再び反応し始めていた。それは、恐怖や不安を超えて、何か大きな力を引き出そうとしている感覚だった。


「カイ…私、あなたを助けたい」

セリアは静かに呟いた。


「お前はまだ自分の力を使う時じゃない」

カイは軽く首を振りながら答えた。「お前にはもっと重要な役割があるんだ。だから、ここは俺がやる」


セリアはその言葉に従い、じっとカイの戦いを見守ることにした。しかし、彼女の中に灯る光は、確かに強まりつつあった。彼女はその光を信じ、カイの無事を祈りながら、次の一歩を見据えた。


そして、カイは再び闇を斬り裂くような力を解放し、亡霊たちに立ち向かう。

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