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ネクロマキナの夜明けに  作者: だーる
第一章 果樹園
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3

 門を潜ぐるとバスターミナルが見えた。


 術式の開発が進み、あらゆるものが軍用から民間用へと転用されるに連れて、人々の生活は数百年ほど発展した。最近では車輪を不要とする空飛ぶ魔導自動車なんかが噂として流れてくるくらいには。バスという名の大型車もその産物である。


 僕は招待状に記されていた番号のターミナルへと赴き、そのまま目的地を目指した。もちろん、踊り子(仮)のエミリーも一緒だ。


 一応ながら雇用契約書は僕が保管することにした。僕の署名も含まれている為、変に関係があった事を残されたら困る。


 バスを待つ間に、僕は今後彼女をどうするべきか真剣に悩むことにした。


 何故ならこれから会う魔導師仲間とは、僕と同じく禁忌の術式を専攻する立場の者だからだ。いわゆる死霊術師仲間というやつだな。


 彼だか彼女だかは知らんが、一通の文が送られてきたのは僕が帝都ビストリアに滞在している時のことだ。半年程滞在した土地ではあったが、なかなか魔導技術の発展した土地であり、剣やら斧やらの代わりに銃火器を兵士は携帯しているような軍事特化の(みやこ)であった。


 そこで踊り子エミリーと出会うことになるのだが、これはまた別の話。


 (ふみ)には僕が研究している骸骨兵の運用について、よりコスパを向上するのに一助できるかもしれないと言う内容がびっしりと書かれていた。


 確かに骸骨兵を生み出すマナの凝縮体——後にソウルと名付けられるエネルギーの結晶は日持ちがとても悪い。加えて召喚される骸骨兵は長くて三日でエネルギーを使い果たしてしまう為、一般的な魔術に比べて運用効率が死ぬほど悪いのである。


 こればかりは禁術として研究が禁じられてることもあってかなかなか改善はされな。そして僕はそんな事よりも短命ではあるが、より強力な個体を生み出す研究に注力していたりした。


 しかし運用効率を上げる方法があるとなれば話は別だ。数少ない死霊術仲間と会えるというのも少しばかり心が躍る。……というのに隣の踊れない踊り子は



「君はまだついてくるのか?」


「街道でご迷惑をおかけした上に、先ほどは私が魂とも言えるこのカタナを手放さずに済むようにしてくださいました。このご恩を返すまでは、お仕え致します」


「待て待て。僕はここに遊びに来たわけではないんだ。君はここに何をしに来たのかね」


「私は当てのない旅の者でございます。その土地で困っている者があればお助けします。不義を働く者がいれば天誅(てんちゅう)を」


「天誅て……では君がついてくる事で困っている男の悩みを君はどう手助けしてくれる」



 意地悪くそう聞くと、彼女はキョトンとして



「私は離れたところからその人を手助け致します。そばにいることだけが手助けではないと心得ておりますゆえ」


「そうか、理解が早くて助かる。ではまたどこかで」


「そうですね」


「……」


「……」


「あの……?」


「なんでしょう。なんでもお申し付けください」


「えっと……離れるのではなかったのか?」


「はい」


「……えっと」


「……?あっ、もしや離れて欲しくないと言う男性特有の言い回しでございますか?お気持ちはわかりますが、このような時間にこのような場所で男女が触れ合う距離まで近づくのはちょっと——」


「はいストップ」



 ダメだこいつ早くどうにかしないと——いけないというのに物事にはどうにもならないことが多いようで


 バスが来てしまった。


 僕が乗り込むと当然のように彼女も乗り込んでくる。荷物を天井付近にある網棚に乗せて席に着くと



「失礼します」


「このような時間に男女が触れ合うのはどうのこうので言っていたのはどこの誰だったか」


「なにを仰っているのです?ただ男女がバスの中に座っているだけですやましい事はなにもありません。ただしこれ以上おそばにと仰るのであれば、このような時間には——」


「はいストップ理解した僕が間違っていた頼むからそれ以上は何も言わないでくれ」



 コイツは厄介なアホと関わりを持ってしまったかもしれない。たまに僕にはこういう事がある。エイミーの時もそうだが、もしかしたら僕には女難の相があると感じる事があるんだ。


 占いなどは信じないが、たまに気休め程度に考える事がある。それで気持ちが楽になると思考が鈍る気がして、すぐに現実に自分を引き戻すまでがテンプレートだ。


 そうして諦めて僕が外を眺めていると



「おやおや、F氏が女連れだったとは意外だったな」



 声をかけられて振り向くと、そこにはローブ姿の女が座っていた。年の頃は僕と同じ暗いか少し上だろうか。彼女は僕の座っている席の背もたれに両腕とその上に顎を乗せて



「私が誰だかわかるね?」


「……S氏か」


「いかにも、私が君に手紙を送った者だ」



 まさかバスで会うとは思っていなかった。やり取りの中ではお互いをF氏、S氏と呼び合っていた。本名は互いに信頼を得られるまで明かし合わないというのが、死霊術師の間では暗黙の了解とされている。


 改めてS氏を見ると、ローブのフードをかぶっているものの、長さのわからない白銀の髪はチラチラと見えている。目の色は青でも白でもない空色で、王都の中でもそこそこ上流階級にいそうな美しい顔立ちをしている。



「驚いた、君と落ち合うのは王立美術館の前だったはずだが」


「あぁ、待とうとも思ったんだがな。昨日の夜から君に会えるのが待ち遠しくてこうして来てしまった。もし君がこのバスに乗ってきてくれなければ、少し落ち込んでいたところだ。して、隣の少女は?」


「あぁ、彼女は僕の護衛だ。君を信用していないわけではないが、保険はかけさせてもらっている」


「ふむ、そうか。私も護衛を付ける必要があったな……少し浮かれすぎていたかもしれん。流石に死霊術のパイオニアであるだけのことはある。賞賛に値するぞF氏よ」



 いやいやそんな事全然ないですよー。なんせ僕らには死霊術がある。護衛は骸骨の兵士で事たりるのだから、わざわざ用意してるあたりを笑って欲しいくらいだ。



「だが困ったな。護衛とは言え招待していない者を私の研究室に入れるわけにはいかないのだが」


「それはごもっともだ。しかし安心して欲しい彼女は研究室の外で——」


「待たれよ」



 沈黙を守っていた東方の踊り子剣士が口を開いた。

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