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ネクロマキナの夜明けに  作者: だーる
第一章 果樹園
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 旅装束(たびしょうぞく)姿の少年が構えた大鎌はただの武具ではない。


 魔導工学によって術式を組み込まれた、マナを喰らう大鎌である。


 もちろんマナだけでは無く、その濃縮体である上位互換のソウルもご多分に漏れず喰らい、それを動力源に転換して戦闘を継続させる代物(しろもの)


 合わせて、彼が着込んでいるこの装備(モジュール)は、戦闘に特化した知能(ソウル)を搭載している。



「なかなか強い奴でな。人類の間では"リーパー"とか呼ばれるアンデッドの魔族であった。なかなか強かったんだ」



 彼が喋っている間にも、敵からの攻撃は続いている。先ほどの様に銃を使ったものでは無く、身体のあらゆる部分を伸ばし、先端を(とが)らせ、彼の急所を狙いながら少年の動きを止めようとツタの様に振り回されている。


 そしてそれをピンポイントに鎌を振り回す事でいなしているのがこの少年だ。というよりこの装備(モジュール)だ。


 先ほど少年が抽出した狙撃手の男のソウルよろしく、ソウルにはその者の経験と記憶が宿る。今彼の装備(モジュール)に組み込まれているのは、鎌を扱う事に()けたリーパーのソウル。ゆえに鎌で敵とやり合いながらソウルを集め続けている。


 しかし



「この装備(モジュール)には一つだけ危険を(はら)んでいてな。一つ考えてみてほしい。普段運動や武術とは無縁のこの僕が装備(モジュール)の生み出す動きについて行けるのは何故だと思うね?それは、だな」



 言いながら何回目かわからない腕の切断をされた班長だった男が、顔をしかめる。ソウルが足りなくなってきたのだろう。


 カタチが花でも虫でも触手でも、その元は骸骨兵士(スケルトン)だ。ソウルをエネルギー源にして動く傀儡(にんぎょう)。ソウルが無くなれば動けなくなるのは自明の理だ。


 そこを彼は見逃さなかった。


 受けてばかりのスタイルから一転して、鎌を派手に振り回して敵の脚を切り飛ばす。男の上半身が前のめりに倒れ込む。すでにシュルシュルと(うごめ)く触手が脚の修復を始めているが、そこへさらに刃を繰り出す。


 肩へ、腰へ、右目へ。次々に鎌の切先が襲いかかり、さらに男の動きが鈍くなる。そしてついに片手を地についた所へ、返す刀——もとい鎌で腹から背中へ貫いた。



「それはソウル側に身体を操らせているからさ。ゆえにソウルに精神を汚染されないように気をつけながら、戦わなければならない。それに失敗した例が……君だと言えよう」



 言っている間にも、男の首に咲く花が(しお)れていく。



「さて君らはかかってこないのかね?」



 遠くからこちらを伺う無数の視線に少年が問う。しかし、彼らが襲ってくる気配はない。


 そのまましばらく立ち尽くしていると、反応があったソウルの群れが一つ、また一つと少年の視界の外へと消えていった。一旦はコレで終わりなのだろうか。


 懸命な判断な感心していると、サイレンが一つ近づいてきた。そして少し離れたところでパトカーが止まる頃、鎌が男のソウルを吸い尽くし、男の身体が紫色の光の粒へと変わって消えていった。



「そこの黒い骸骨!動くなッ!!」



 パトカーから降りてきた警官が少年に言う。


 言われて少年は装備(モジュール)を解く。黒い骸骨だったそれはグズグズと形を崩しながら右手の人差し指へと集まっていき、銀色の指輪へと姿を変えた。


 それを見た警官が少年に拳銃を向けながら



「き、貴様、死霊術師か!!」


「いかにも。死霊術師である」


「こ、コイツ……今王都内を騒がせているのもおまえの仕業か!?」



 それを聞いた少年が眉を寄せる。


 まさかS氏——町中に私兵を放ったと言うのなね



「まぁいい、話は署で聞く!そのまま両手を頭の後ろで組んで膝立ちに慣れ!!」



 今にも引き金を引いてしまいそうな程に力んだ警官の手が震えている。少年にとって大事なのは情報収集。彼の(じゅつ)を用いれば情報の収集などはお手のものではあるのだが、いかんせんソウルを使いすぎた。


 ゆえに彼は言われたままに手を後頭部で組み、その場で膝立ちになった。


 それを確認した警官の手から力みが消えて行く。そのままパトカーから離れて、少年の後ろに周り手錠をかけてから彼を引き起こした。



「ほら行くぞ。くっそ、明後日はセシリア様の誕生日だってのに、そのセシリア様もいどころがわからないってのに……」


「ほう、第三王女は行方不明なのか」


「無駄口を叩くな!お前がこの件に関わっていたとしても関係がなくとも禁忌を犯した事に変わりはないんだから!このくそ犯罪者がッ……!!」



 男はそういうと少年をパトカーまで連れて行き、中へ放り込んだ。


 少年は抵抗しなかった。


 彼には考える時間が必要だった。


 これからこの町に何が起こるのか。


 S氏——もといソフィアは何を企んでいるのか。


 少年は彼女のどういう思惑に巻き込まれてしまったのか。



「君も知っているのだろうユピテリウスよ。僕が誰で、何者なのか。だから僕を呼んだのだろう?この僕と関わってしまったんだ。お互いタダでは済まぬとわかっているだろうに……」



 パトカーの後部座席で少年が不敵に笑った。


 そして少年を乗せたパトカーは、終わりゆく王都の中をゆっくりと走り出した。

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