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ネクロマキナの夜明けに  作者: だーる
第一章 果樹園
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1

「お客さん、そろそろ王都だぜ。起きてくれ」



 荷台付き"魔導自動車"を運転する男の声が聞こえた。


 気だるそうに(まぶた)を開けた僕は、目を擦りながら車の進む方へと目を向けると、先ほどまであった岩山の景色から一変して、巨大な外壁に囲まれた王都が見えた。


 外壁までは舗装された道が伸びていて、先ほどまでガタガタと音を立てて進んでいた車も、ゴロゴロと穏やかな音色を奏でている。


 時折、草葉(くさは)の合間を風が泳ぎ、それがそのまま荷台にいる僕の頬へと届いている。魔獣の討伐が行き届いているのか、平和な景色が広がっていた。


 そうして外壁に近づくにつれて、人の往来も増えてきた。大きな荷物を背負うもの、大きな武器を担ぐもの、立派な自動車に揺られるもの。



「運転手よ、今日はなにかの祝日か?」


「んあ?あぁ、そう言えば今日はどこかのお嬢さんの生誕祭だったかな。たしか本祭は明後日とかだったはずだが、今日も人通りが多いな」


「前夜祭とかじゃ収まらない辺り、地位の高い貴族のようだな」


「どれだけ長期にわたって祝えるかがその貴族様の影響力に繋がるからな。もう少ししたら渋滞にハマるかもしれん。そうなると歩いた方が早く着くかもなんだがどうする?」



 問われて僕は着ていた旅用のフード付きローブのポケットからボロボロの折り畳み財布を取り出して



「ここまでいくらだったか」


「いらねぇよ。お客さん金持ってなさそうだから」


「むっ、良いのか?」


「あんなもん見せられちまったらな……なけなしの銭を貰っちまったら後が怖ぇ。もし中に入って泊まるところがなかったら"フラグハット・イン"って宿屋がオススメだぜ。俺の紹介だって言えば少し安くなるかもしれん」


「……ふふっ、ありがとう。それとさっきの事は他言無用でよろしく頼む」


「あいよ」



 それから車が渋滞にハマるまでは空を見ながら過ごし、運転席の男から合図を受けて僕は荷物を背負って荷台を降りた。


 それから何台もの荷台付き自動車やら軍用装甲車やらの横を通り過ぎた。王都には様々な場所から人や物資が集まってくる。


 それをまだ術式が世に広まる前は、外壁についている門で仕分けており、今もその名残りで門の前には門兵が立っている。その門兵の顔が確認できるようになったころ、それは聞こえて来た。



「おい聞いてんのかオンナぁ!それ以上舐めた態度取ってるとマジで締めんぞゴルァ!」


「アニキやっちまいましょうぜ!俺もうコイツ我慢できないっすわ!!」


「……」



 何やら前方で少女が男二人に絡まれているらしい。


 男の方はそろそろ寒くなってくると言うのに筋骨隆々の大柄なタンクトップ姿のが一人。もう一人はほっそりとした体躯でしっかり長袖に腕を通しており、背中には狙撃魔導銃器を携えている。


 少女の方は、彼らの彼らの胸くらいの背丈で顔は見えない。暗い紅色(あかいろ)の髪は長く、腰の辺りまで伸びているものを一つにまとめて縛ってある。そして腰には



「言いたいことはそれだけでしょうか?これ以上はアナタ方を私のカタナの(さび)にいたします。何を言われても先に並んでいたのは私です。列を守るかここで土に還るか選びなさい」



 確か東方に伝わる片刄のショートソードに分類される"カタナ"が携えられて——っておいおいなんなんだあの子。体躯からして勝てる相手でないことはわかるだろうに。


 もちろんそんな事を言われて動じずにいられるような男共ではない。特に筋骨隆々マンはこめかみの血管をこれまたムキムキと浮き立たせて



「こ……んのメスガキッ……!」



言いながら男は(ふところ)からリボルバー式の大型魔導拳銃を取り出した。そしてその銃口を少女に向けながら。



「テメェがそれを抜くのと俺が引き金を引くのと、どっちが早えのか試しみるか?あぁ?先に土に還るのはどっちだぁ!?おぉおおい!!!」



 相手の獲物が刃物しかないとわかった男がニヤリと笑いながら告げる。それを



「——遅い」


「んなっ……!??」



 スッと滑るように少女が身体がブレる。そして銃口の先から消えた少女は、男のすぐ近くで再び姿を現す。少女は腰を低く落としてすでに抜刀の構えだ



「忠告はしました。では、斬り捨てごめ——」


「はいストップー」



 彼女が筋骨マンの首を切り落としそうになったその直前に、僕は二人の間に割って入った。すると、それまで口をぱくぱくさせて存在感を薄めていた狙撃手であろう細身の男が我に返り



「な、ななななんだお前ェェエエエエ!この小娘の連れなのか!?そうなのか!??そんなんだろ!!!!」


「うるさいぞ、筋肉マンの下僕よ」



 言いながら僕は奴の頭をポンと叩いて黙らせ



「ここで騒ぎを起こされるのは困る。人死になんか出て都への出入りが規制でもされてみろ。君らのうちの誰かを次の(しかばね)にすることになる」


「なんだと……テメェ。外野は黙って——」



 言いかけた筋さんが言葉に詰まる。目を大きく見開きそして僕をみた。そして僕も彼の目をジッと見返した。


 隣で抜き身の刃を照らしている少女も顔をしかめている。何が起きているのか、事態について来れない細身の男があたふたと僕達を見て



「あ、アニキ!どうしちまったんすか!?早くこんなやつボコボコに——ゴボッ、ボゴボゴッ……」



 最後まで言い切れず、細身の男は突然白目をむいて泡を吹き出して倒れてしまった。対するこの男はその身に似合う経験をしっかりと積んでいたらしい。


 僕が発していた気を収めると、筋骨隆々男はふぅと溜まっていた息を吐き出し



「すまん……コイツはまだ駆け出しでな。アンタの力量を測ることは出来てなかったんだ。お嬢ちゃんもすまなかった」


「……いえ」



 少しだけ息を切らした少女が言う。先ほどの彼女に対する見立ては少し間違っていたかもしれない。


 彼女の返事を聞くや、男は倒れた相方を担いで列から離れて行った。


 さて、何事も無く収まった事だし僕も列の最後尾へ——



「待たれよ」



 ……む?なんか呼び止められた。



「あの……なにか?」


「今のはなんですか。殺気に似ていましたが、殺気ではありませんでした。もっと……寒気のような。戦いの中でも久しく感じていなかった感覚です」


「そうか。できるなら今後もアナタの人生にコレを感じる事が無いように祈っているよ。では——」


「待たれよ」



 なおもこの僕を呼び止める声。


 嫌な予感がした。とっても、とっても面倒なものに関わってしまった時のあの予感がして、僕はゆっくりと彼女に向き直った。

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