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ネクロマキナの夜明けに  作者: だーる
第一章 果樹園
14/23

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 もう来てしまったか。


 僕は隣に立ち尽くす少年と共に、エレベーターの方を見ながらまずその戦力を測ることにする。


 入ってきた人数は五人。その内の四人は灰色を基調とした長袖長ズボンの戦闘服を身に纏い、顔にはガスマスクのようなものを装着していて、それぞれの顔は見えない。装備は軽機関銃(アサルトライフル)であるところから、武具を扱うような猛者(もさ)ではないことがわかる。


 対して、最後に降りてきた小柄な少女は、それが少女とわかるようにガスマスクなどはつけておらず、銃器も持っていない。代わりに両手にはナイフが握られており、頭部にはカエル顔のヘアクリップがつけられている。ナイフとカエル——仲良くなれそうにない組み合わせだ。


 そして、今まであまり気にならないでいたが、この果樹園は広い。天井を覆うガラスのドームのカーブを見て測ると、中高生の通う学校の体育館二つ分くらいの広さはある。


 ゆえに入ってきた集団の一人が駆け足で、様々な果樹が立ち並ぶこの果樹園の、どこにいるかわからない王女が射線に入らないようにと位置を取り



「そこの道着姿のお前!王女はどこにいるか速やかに話せ!」


「あ?なんだお前ら」


「無駄口を叩くな!王女の場所を言え!!」



 会話は出来そうにない。なにせ敵側からからしたらアレンは王女を攫った犯罪者で、自分たちは(とら)われの王女様を救いに来た構図だ。いわゆる騎士(ナイト)様気取りなのだろう。


 そして自分の正義を信じて疑わない者とのやり取りは非常に困難になる。もはや、戦いは避けられない。



「ねぇねぇ」



 突然幼い少女の声が響き、その声に入ってきた四人の者達がビクリと肩を震わせて声の方を見る。



「王女の場所なんてどこでも良いでしゅ。この果樹園の中にいましゅ。それだけわかればもうそこの男に用はないでしゅ」


「し、しかし班長——」


「しかしもお菓子もないでしゅ。ちんたらやるのはカエルしゃんらしくないでしゅから」



 言いながらスタスタと少女がこちらへ歩き出した。標的はもちろんアレン、なのだろうがさてどうしたものか。



「お、お待ちください班長!この者には然るべき場所で裁きを与える必要が——」



 言いかけた男の言葉が止まる。ほんの数瞬の出来事だった。少女の身体がゆらりと揺らめき、煙のようにふわりと消えたかと思うと、そこから数メートル離れたところに立っていた男の前に立っており


 その手に握っていたナイフの一つが男の腹に刺さっていた。



「あっ……あぁ」


「そう言えば前の作戦でも口答えをしたのはお前でしゅ。ウチはカエルしゃんと強い人は(しゅ)きでしゅ。弱いのに言うこと聞かない人は——」



 言いながらナイフを勢い良く引き抜くと、糸が切れたような男がその場に膝から崩れ落ちた。



「ウチにはいらないでしゅ」


「こらシャルル」



 そばにいた男が少女に歩み寄り、ポンと頭を叩くように乗せて言った。



「班長のアナタに人事に関する権限は無いですよ」


「でもコイツ、毎回任務の邪魔しましゅ」


「それでもです。まったく仕方ないですね」



 言いながら男は倒れている男のそばにしゃがみ込み、片手を男の手に当てた。すると血溜まりの広がりが止まった。そして少量の血が最後に少し出て、それ以降は完全に止血された。


 見事なマナ操作術だ。



「おや、そこのアナタ」



 ふとガスマスクに包まれた男の視線が僕を捉えた。



「アナタもしや魔導師の方ではございませんか?私のマナの流れが見えていたように感じたのですが」


「いかにもそうだ。君は……医療術師か何かなのか?」


「いえ、私はそんな崇高(すうこう)な方々には及ばぬ者です。ハルバード山脈の寺院で修行僧(モンク)をしていたものです」



 それを聞いて納得した。


 ハルバード山脈は大陸の北側に位置する高標高の山々だ。現地民は山を神と崇め、大地のマナを自身に循環させて生活の(かて)にしているらしい。まるで植物のようだたと思ったりしたものだが、彼らの強靭な肉体を目の当たりにしてからは考えを改めさせられた。


 そして目の前の男はそのハルバード山脈にある寺院出身だと言う。武器は持ち合わせていないようだが、相当な拳士(けんし)であるということだろう。



「ねぇねぇ、あの人強いんでしゅか?」


「えぇ、彼は私と同じくマナに愛され、マナを愛する者の一人です。普段の敵と比べて脅威度は数段違うはずですよ」


「ふぅん……」



 今度は少女の瞳から裸の視線が突き刺さる。今の話だけで殺気を持つことができるとは



「アレンよ、君はあの修行僧を。彼女の相手はこちらに任せてくれたまえ」


「あぁ、そのつもりだが残りの二人はどうする……?」


「問題ない。君は目の前の敵に集中してくれれば良い」



 そうしていると、修行僧の男が肩から下げていた軽機関銃(アサルトライフル)を外し、止血したばかりの男のそばにそっと置いた。



「大地神ハルバード様に感謝を。このような機会をお与えくださりありがとうございます」


「君の信仰を理解しているわけではないが僕も重ねて礼を言うぞ。良い退屈凌ぎにはなりそうだ」


「ウチの相手はアナタでしゅね。ケロっと殺してやるでしゅ」


「……お、おいおい。まともなのは俺だけかよ」



 一同各々の戦闘準備が整った。そして静寂が辺りを包み込む。戦闘の蚊帳(かや)から外されてしまった二人は王女の場所がわからない中で、下手に銃口を向けるわけにもいかず、オロオロとお互いを見合っている。



 外からカラスの鳴き声が聞こえた。



 直後にアレンとカエルの少女が飛び出す。互いを敵と認識していないからか、綺麗にすれ違う。そして僕の視界いっぱいに少女の身体が広がり



(しゅき)だらけでしゅ」


「それはどうかな?」



 キンッ!と金属のぶつかり合う音が響いた。東方特有のしなりを得た純白の刃が、少女のナイフを防いでいる。



「お怪我はありませんか?」


「無論だ」



 たまらず一度身を引くカエルの少女。どこからともなく現れたアヤメをジッと睨んで、再び腰を低く落としナイフを構える。



「やれるかね?」


「お任せください。踊り子らしく——」



 言いながらアヤメが柄を高く、刃は斜め下へ向けるようにカタナを構えて両の足を揃えて



「踊ってまいります」

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