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ネクロマキナの夜明けに  作者: だーる
第一章 果樹園
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 各フロアへの配員が完了したと報告があったのは、状況が開始されてから三十分後の事だった。


 今回の依頼は護衛を担っていた少年に拉致された第三王女の救助。


 少年の名前はアレン。元々闘技場の闘士であった彼を第三王女セシリア様が拾い、自身の護衛としての任を与えたとされる人物だ。


 彼がセシリア様を拉致した理由は(いま)だ不明。王女の部屋が荒らされた様子はなかったようで、部屋から出る時はセシリア様も同意の上で外出されたのだと考えられる。


 お忍びで自身の生誕祭の熱気を感じられませんか?などとそそのかされたのかもしれない。ただしその場合二人の関係は良好だった事を示すため、王女を(さら)う理由がわからない。


 もしくは、以前から王女が生誕祭の会場に足を運んでみたいと言っていたのかもしれない。それに合わせて今回犯行に及んだのだとすれば、先ほどの考察よりは納得できそうだ。


 どちらにしても、少年は処刑されるだろう。しかしそれは我々の仕事では無い。ただし、有事の際には生死を問われていない少年の命の保証はできない。


 そんなことを考えていると、ホテルの外に止めてある大型ワゴン車の中に、一人の隊員が入ってきた。



「よぉ隊長。先発隊がエレベーター前に到着したぜ」


「了解。セシリア様の様子は?」


「果樹園の中の監視カメラの映像からだと——」



 言いながら入ってきた男はタブレット端末を取り出して



「何やら敵さんは仲間がもう三人いるらしい。呑気にちゃんばらごっこしてやがる」


「王女も気の抜けた顔してるな。まだ自分が拉致されていると気づいていないのか」


「果樹園がガラス張りのドーム状になってるのもあってか、監禁状態にあるわけじゃないからな。わけもわからず連れて来られちまったってところだろう」



 隊長と呼ばれる男は部下のタブレット画面を今一度覗き込む。隊長と呼ばれた男以外にも中にいた三名のうちの一人がが、チラリと入ってきた男にコクリと頷き目の前のモニターに視線を戻す。直後にタブレットに映る画面に、戦闘を繰り広げる二人がアップで映し出される。


 やり合っているのは(くだん)の少年アレンと、紫色のパーカー姿の少女。暗い髪色とその顔立ちから、東方の者だとわかる。持っている武器もカタナと呼ばれる特殊な片刄剣を装備している。


 形状もさることながら、特殊なのはその鍛造方法だ。打つ者次第で、鉄を斬る一振りも鍛造が可能だとか。まぁ今の時代、術式を使えば誰が作っても金属程度であれば豆腐のように切れるわけだが。



「なぁ隊長、この女の持ってる剣……なんか嫌なやつのこと思い出すんだが」


「同感だ。確か東方の方だと魔族を武器に封じ込める技術体系があったな」


「"付喪(つくも)の術式"か。龍将とか呼ばれてる槍使い……ありゃあ凄まじかったなぁ。まさに人のカタチしたドラゴンとか言われてたっけ、あながち間違ってねぇし」



 付喪(つくも)の術式は"万物には神が宿る"とする信仰の元に発展した術式文化だ。本来は長年大切に扱われていたものに神が宿るとする信仰で、先祖の扱っていた武具にその使用者の魂を宿すと言う内容であったが、今ではそれを扱う者は少ない。


 そして魔物を宿した武具は特定の条件を満たすことで、その魔物の力を得ることができると言う。おそらくあの少女のカタナにも何らかの魔物が封じられていると見て間違いないだろう。



「まぁ隊長、ドラゴンの付喪術(つくもじゅつ)(ほどこ)されてても関係ねーだろ。今から上に行く部隊にはあの"死神"がいるからな」


「……アイツ王女にまで手を掛けたりしないだろうな」


「"僧侶"も一緒だし大丈夫だろ……いやどうだろうな。アイツが任務を終わらせた後に生きてる奴がいる事ってほとんどねぇもんな」



 だからこそ死神。殺し屋を生業としていた少女で、ナイフを使った暗殺術を得意とする。年の頃はタブレットに映る少年達と近く、背丈は小柄な東方の少女よりやや低めだ。


 髪は短く、おかっぱと言う表現がよく似合う。右耳の上にしてあるカエル柄のクリップが幼さを見せるが、一度彼女に音もなく餌に喰らいつく毒ガエルを見せられてから感想は反転した。



——カエルしゃん可愛い。ウチもこうなりたいでしゅ



 思い出してリーダーの男はブルルと身震いをする。何かを察した部下がその様子に苦笑いを一つ



「あー……まぁ僧侶がいるからっ!アイツが死神と同じ部隊になってから敵の主要人物だけは生き残るようになっただろ?」


「今まではくたばっても仕方ない奴らだったから特に気にならなかったんだが、今回は王族のお姫様だぞ。かすり傷一つで俺たち全員の首が飛ぶ」


「えっと……俺も上行ったほうが良いか?」


「非戦闘員のお前が行ってどうする。仮にもお前は副隊長なんだから、ここで俺の指揮の補佐に徹してろ。荒事は今ホテルの中にいる奴らに任——」



 そこで隊長の男の言葉が止まる。とんでもないものがそこに映った。男は副隊長の男を見て



「今の見たか……?」


「いや……コイツ今素手でカタナ受け止めてんのか……?」



 ベージュ色のローブを着た旅人然とした少年が、東方の少女が斜め上に振るった袈裟斬りと、闘士の少年が思いきり腰を入れて放った拳を、受け止めていた。しかも素手で。



「おい、先行部隊に要注意人物がいることを伝えろ。ベージュのフード付きローブに暗めの茶髪の少年だ」



 手近にいた部下に伝えると



「交信不可能です。おそらくもうエレベーターの中かと……」



 残念がるように、とはいえそこまで焦りを感じている様子もなく、一応副隊長の男のタブレットを再度覗き込むと。ちょうど果樹園のエレベーターの扉がポーンと開くところが映し出されていた。


 直後に画面が暗転した。

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