無邪気な君に恋をした
煩わしいほど鳴くセミとともに、水場で騒ぎ立てる子たち。
刺すような日差しの下、
「ゆーくん!」
すべり台のてっぺんから見下ろす君の笑顔は、何よりも眩しく見えた。
「とっしーん!」
「いってぇ!なにすんだよ、さつき!」
「えへへ」とご機嫌に君は笑った。
1歳年下の紗月とは、保育園のころから小学生に上がっても仲がいい。
こういうのを幼馴染というらしい。
「みんな、水遊び楽しそう!ゆーくんもいっしょに行こうよ!」
「やだよ。ぬれたくないし」
「だから友達が少ないんだよぉー」
「なっ!」
「わー!ゆーくんが怒ったー!」
「まて、さつき!」
小学生になって少し格好つけだしたおれにも、変わらず接してくれる君が嬉しかった。
ごめんなさい、心の中でも格好つけてました!
本当は紗月が大好きで仕方ないです!
仕方ないじゃん!なんなのあれ!
可愛すぎるだろ!まともに話せないって!
そんな変わらない日常、変わらない君にいつしかおれは慣れていった。
「ゆ、う、くん!一緒に帰ろ?」
「あぁ」
「ふふっ」
「なんだよ」
「今では断らなくなったなーって思って!」
「いつの話だよ」
「えーちょっと前まで恥ずかしがってたくせにー」
もう一月もしないうちに卒業だ。
大丈夫、1年くらいで変わりはしないさ。
その日も、紗月と帰ろうと玄関で待っていた。
友達と降りてくる紗月と目があって笑いかけてくる。
「おまたせっ」
「さっちゃんはいいよねー、中学生になる前からこんなかっこいい彼氏がいるんだからさー」
「そーだそーだ!佐々木くんを独り占めするなー!」
「そんな独り占めなんてしてないよー!」
「そーだよ、付き合ってないし、紗月は妹みたいなものだろ」
がらがらと、何かが崩れる音がした。
「ほ、ほら!ゆう...やくんもこう言ってるよ!ごめん、忘れ物しちゃったから先に帰ってて!後で追いつくから」
そう言って紗月は、おれの返事も待たずに学校へ戻っていった。
あの日の笑顔が”今”でも鮮明に覚えている。
あれから1年間、紗月とはどんどん疎遠になり、会うことも減っていった。
おれは変わらず接していたはずだけど、紗月が変わっていった。
違う!!そうじゃない!
おれが、おれがあの時...紗月の笑顔を奪ったんだ。
たらればなんて、何度考えても意味ない。
「今からでも遅くない」
そう言って、まだ登校には少し早い時間から家を飛び出した。
紗月に伝えるために。しっかりと、自分の気持ちを。
丁度、家を出た紗月と目が合った。
あの頃のような笑顔は見られない。
「ひ、久しぶり、入学おめでとう」
「佐々木先輩?お久しぶりです」
変わらなかったはずの会話が出てこない。
「朝早くからどうしましたか?」
自分の鼓動がうるさい。
「それだけですか?式に間に合わなくなるので、私はこれで」
「さつき!」
「おれは紗月のことが好きだ」
「小さいころから、いつでも変わらずいてくれて、いつも笑ってくれていた紗月がすきだ」
「ずっと言えなくてごめん」
「おれはそんな無邪気な君が好きだった」
「ごめんなさい、変わらないあなたは、もう好きじゃない」
最後までお読みいただきありがとうございます。
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