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パスタを持っていく【即興小説】

作者: 南澤久佳

「孤島に一つ持っていくならなにがいい?」

「パスタ」

イタリアン好きはこれだから。呆れ顔でため息をついた彼に、なんで孤島?とたずねたら、別に、と答えた。会話が弾まないときの定番のネタでしょ、という横顔には、「それだけではない」と書いてあった。分かりやすい男である。

「パスタだけあっても、食えないのに」

「保存が利くのが最大の理由かな。無人島でも、大き目の葉っぱを丸めるか、木の実があればくり抜いてボウルを作って、海水を汲んでパスタをしばらく浸けてから、焚き火のそばにおいておけば、そこそこ柔らかくなって食べられるでしょう。塩味は海水でつくし、具は魚でも肉でも木の実でも合うし」

意外と現実的な答えだ、と驚く彼。

焚き火が問題だと思うけどなあ、と言うのに、ライターがあれば確かに便利だけど、落ちた枝さえあれば、折って、鋭角を作って、木屑を作ってそれを火種にして、縄代わりの蔓状の植物と枝と板で火起こし器を作って…。パスタよりは代用品がありそうだ。

ナイフは?と聞かれたけれど、それも木や石で代用できる。翻って、腐りにくい、長期保存に向いた食料と言うのは、孤島ではなかなか手に入りづらいのではないか。缶詰は、缶切りがないとお話にならない。うん、やはり完璧だ。我が愛すべきパスタ、最高。

「米は?」

「そうだなあ…虫が湧きやすいイメージあるけど、パスタとどっちがそうかは、わからないな」

「小麦粉は?」

「そっちも虫湧きそう。袋の口の開いた小麦粉を常温保存して、使ってなんか作って食べたら食中毒になった、って事件あった気がする」

「じゃあ、コメか、パスタが最強だな」

「だね。」

チェーンの珈琲ショップの一角で、テーブル席に向かい合いながら座る私と彼。パスタかあ、とつぶやいて頭をかきながら、彼は両手を組んで、頭上に上げて、うーん、と背伸びをした。

「俺だったら、」

ぼそっと言ってから、元々合っていなかった目線を更にあさっての方向に飛ばす。左サイドの大窓の向こうに何かあるのかと目をやったが、通行人以外に特にめぼしいものはない。

「俺だったら…おまえ、連れていくけど」

「へっ」

降ってきた台詞に、窓の向こうから正面に視線を戻す。くちをひん曲げて、薄笑いする、ちょっと気持ち悪い表情。頬が赤い。

「一緒にいれば、心強いし、パスタ持ってきてくれるし…好き、だし」

えええ~~~~~~。

それか~~~~~~。

告白、しようとしてたんだ。そうか。言われてみれば、会話しながらそわそわ肩を揺らしてたり、きょろきょろと辺りを見回したり、挙動不審だったのは、それか。

「どう?俺と孤島…行って見る?」

「いや、いかないけど…そういう話じゃないんだよね?」

現状に不満があるでもなし、孤島に行く理由がないのできっぱり返すと、がっくりとうなだれる黒髪のあたま。

そうだなあ、彼には、不満がないとは言わないけれど、好きかどうかと聞かれれば…。

「孤島には行かないけど、遊園地とか、映画なら行ってもいいよ。食事でも、買い物でも…」

知らず早口になる。鼓動が高鳴って、頬が熱くなっていた。

黒髪がばさっと持ち上がって、眉の下には、きらきらと輝く瞳があった。

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