深く重く人の生
短い短編小説ですが最後まで読んでくだされば幸いです。
俺は殺し屋をしている。金さえもらえればどんな仕事も引き受ける。こんな仕事、中々依頼が来ないようにも思えるが、そうでもなく意外と仕事の依頼は入ってくる。
日々依頼の電話がくる中、ある日変な依頼の電話がかかってきた。
「はい、こちら殺し屋○○ですが。」
「えっと・・・依頼をしたいのですが・・・。」
電話の向こうから聞こえた声は若く、まだ子供・・・といっても中学、高校生あたりの女の子の声だった。
「はい、分かりました。ご依頼内容を詳しくお願いします。」
こんなに若いやつからの依頼は珍しい。金も用意してもらえるか分からなかったがとりあえず話だけ聞くことにした。
「えっと・・・・美原 透花という子を殺してほしいんです。」
(やっぱ、同級生的な子かなんかか・・・・。どうせ殺したい理由はいじめられたとかそんなとこだろ。)
そんなことを考えながらその子の話を聞き続ける。
「どうしても、殺してほしいんです。あれさえいなければ・・・・みんな幸せに暮らせるんです。あれは邪魔な生き物なんです。この世に生きている価値もないんです。私は、嫌いで嫌いで・・・!とにかく醜いあいつが心の底から大嫌いで・・・・!それで・・・・・・・・」
急にその子は黙り込んでしまった。俺が口を開こうとすると、
「また、お電話します。」
そう言って急に電話を切られてしまった。なんだったんだと思いつつも特に気にせずにいた。
それからしばらくして、またあの子から電話がかかってきた。
「この間は急に切ったりしてすいませんでした。」
まさか、本当にまたかかってくるとは思っておらず少し驚いたが、前回の依頼の続きの話をした。
「いえいえ。ところで前回はお話しできなかった依頼料についてですが・・・・五百万、前払いでお引き受けしますよ。」
金額を聞けばこの子も依頼は取り消すかと思ったが、
「分かりました。お支払いします。」
またもや予想外のことに驚いた。よほど、相手のことを「殺したい」という気持ちが強いのだろう。
「ご依頼受けたまりました。依頼料の振り込まれしだい殺させていただきます。それでは。」
そう言って俺が電話を切ろうとすると、
「まっ・・・・待ってください!」
と言って止められた。
「はい。」
「えっと・・・・。また電話します。」
それだけ言うとあちらから電話を切られてしまった。
「????」
意味が分からず、しばらく考えた。もう、依頼についての話は終わってしまった。他に話しておかなければならないことは何かあっただろうか。考えに考えた末に俺がたどりついた答えはこうだった。
(・・・そうか!まだ依頼を本当にお願いするか迷ってるのか!)
そして、それからあの子からまた電話がきた。不思議なことにそれが何回か続いた。電話の内容はちょっとした雑談。さすがの俺もキレるなんてことはなく彼女と話すのは意外にも楽しいひと時だった。ずっと一人で生きてきたからだろうか。彼女はやはり高校生の女子で透花というのは同級生の女子らしい。何故透花という子を殺したいのか理由は教えてくれなかったが、電話の度に必ず彼女は透花への憎しみ、嫌悪、怒りを話していた。ぐちぐちと話すのではなく一言二言。そして、話題を変える。
「透花はいつも猫かぶってて愛想よくしてて嫌いなんです。」
「そうなのか。」
「ところで、今日は帰り道で人懐っこい猫を見つけたんですよ!可愛かったです!おじさんは猫好きですか?」
「好きでも嫌いでもないな。」
「猫は良いですよ~。」
おかしな話だ。女子高校生と殺し屋が仲良く話すなんて。しかし、それがずっと続くことはないのだ。
ずっと支払われていなかった依頼料が俺の口座にきっちりと支払われていた。そして、電話がかかってきた。
「お支払いしました。依頼お願いします。殺す前に言い残すことはないか透花に聞いてください。電話はこれで最後です。今までくだらない会話に付き合って下さりありがとうございました。依頼お願いします。」
「分かった。それと、用がなくても好きに電話してこい。話くらいいつでも付き合ってやるよ。依頼が終わったら一応終了の電話は入れるからな。」
気づいたらそんなことを口にしていた。自分がただ純粋にこれからも話したいと思った。俺はずっと話し相手が欲しかったのかもしれない。
「ありがとうございます。」
彼女は嬉しそうにそう言った。
電話を切り、俺はターゲットのもとへと行く。ターゲットの情報はすべて把握ずみだ。帰り道のルートの途中で人が少なく死角の多い場所がある。そこでいったん誘拐して人のいない場所に連れていく。そして殺す。本来なら遠くからでも殺せるのだが、言い残すことがないのか聞いてきてほしいと彼女からのお願いもされている以上、接触せざるを得ない。
透花という子の後をつけ、隙をついて意識を奪う。そして、車に素早くのせる。いかに早く、人に見られずにできるかが重要だ。なるべくその場から遠いところまで車を走らせる。人がおらず、使われていない建物の中に運び込み、逃げられないようにしっかりと拘束する。あとは起きるのを待つだけだ。俺は近くに座り込み起きるまでただただじっと待つ。しばらくして目を覚ました。
「お嬢ちゃん悪いな。とある子の依頼で君を今から殺す。最後に言い残すことはあるか。」
そう聞くと、泣きもせずわめきもせず、怖がる様子もなく冷静に淡々と話し始めた。
「そうですね・・・・・」
俺はあまりにも驚いて、
「怖くねえのか?驚かねえのか?」
そんなことを聞いてしまった。
「そうですね。あ、言い残すこと。一つだけあります。『ありがとう』。それだけですね。」
透花という子はさらっとそう答えた。
「言っとくが、言い残した言葉を伝える人はお嬢ちゃんの親にじゃないぞ。」
「はい。いいんです。あ、あともう一つ、私を殺したら私のカバンの中にある白い封筒をあなたに差し上げます。」
「なんで俺に。そんなもんいらねえよ。」
俺は拳銃をお嬢ちゃんの頭に向け引き金を引く。真っ赤な液体が地面に広がる。俺はおもむろにたばこを取り出すと静かに火をつける。殺した後に一服するのは俺の癖みたいなもんだ。その後はいつものように証拠という証拠を一切残さないようにして、その場を立ち去る。立ち去り際に一応その白い封筒は回収しておいた。彼女に必要なものかもしれないと思ったから。
家に帰ってくると、彼女へ電話をかけた。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません。」
彼女の電話番号にどんなにかけてもつながることはなかった。少し、寂しくは思ったがずっと犯罪者とつながっているのも嫌なのは当然かと踏ん切りをつけ、彼女のことは忘れることにした。しかし、いつまでたっても彼女のことが頭から離れない。それでも時間というのは流れるものでまたいつもの日常をただただ繰り返し過ごす。テレビでは殺害事件として美原 透花のニュースが流れてくる。
ぼーっと毎日を過ごしていた俺だがある日ふと白い封筒のことを思い出す。彼女に渡そうと思って、とっておいたがもう会える気もしないので捨てる前に開封してみることにした。封筒の中には一枚の手紙が入っていた。手紙を開いた俺は衝撃を受けた。
殺し屋のおじさんへ
私を殺してくれてありがとう
依頼者 美原 透花より
最後まで読んでくださりありがとうございました。