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異世界転生するにあたって、あなたの望みを教えてください

作者: とりあえず佐藤

どのくらい時間がたったのだろうか。目を開けるとそこには女神が立っていた。


女神は微笑み、私に告げた。


『おめでとうございます。貴方は異世界に転生する権利を得ることができました。あなたの希望があれば、能力を授けてー


女神が全てを言い終える前に、私は答えた。


「私は無宗教です。新興宗教の類でしたらお断り申し上げます。さようなら」


『え』


回れ右をしてそのまま歩く。私は女神の元を去っていった。

こうして【異世界転生するにあたって、あなたの望みを教えてください】は完結した。



 完



『いやいや、ちょっと待ってください。あなたが目を開けるまで5分待ったのですよ。5分で話を終わらせないでください』


女神は全力疾走して私の前に立ちふさがる。しかも息を切らして。

いや、息切らすの早すぎません?私は心の中でツッコんだ。


『ハア…ハア…話を聞いて…ふう…下さい…』


女神は四つん這いである。その姿があまりにもアレなので私は話を聞くことにした。



数分後



「なるほど、つまり私は自分の世界でコロッと死んだのに、

ゴキブリのように這いつくばる四つん這いの女神のおかげで異世界で生きる権利を得たと」


『今、何の女神と言いました?さすが無宗教、神への敬いがゼロにも等しい』


「そして、私がどのように転生するか決めていいと。ちなみに私が敬うのは福沢諭吉です」


金かよ


女神は転生の権利を与える人間を間違えたことを悟った。

しかし、覆水盆に返らず。こぼしたミルクのため泣くのは無駄である。

女神は話を進めることにした。


『その通りです。異世界転生するにあたって、あなたの望みを教えてください』


私は少し考えた後、答えた。


「乙女ゲームの世界で悪役令嬢に転生するものの、攻略対象に婚約破棄されてしまい、領主として内政チートしていたら聖女であることが発覚し、勇者パーティーに入るものの役立たずで追放されて、後々に超有能だったと気付いた時には他国の後宮で女官から上級妃に成り上り、王の寵愛を受けるもクーデターが発生し、死んでしまった後でもう一度子どもの頃に戻って人生二週目をやり直す転生がいいです」


『………はい?』


女神は素で聞き返した。


「乙女ゲームの世界で悪役令嬢に転生するものの、攻略対象に婚約 


『いいえ、もう結構です』


もう一度長文を繰り返し言う、どこぞのJUGEM(じゅげむ)に陥りかけた私に女神は言う。


『なんですかその異世界転生よくばりセットは、属性が多すぎます。個性の殴り合いですか、あるいは個性で殺し合いでもしたいのですか』


「種族はスライムで」


『しかも人間を辞めると来た。色々ツッコミたいですがどうやってスライムで王の寵愛を得るんですか』


「次点で蜘蛛ですね」 


『予想の斜め上どころか、はるか上をぶち込みますね。転生する種族が何処かで聞いたことがある設定なので駄目です』


私はため息をついた。どうやらこの女神はあまり願いを聞いてくれないようだ。


「もしかしてあなたは俗に言うクソ女神ですか?」


転生させる女神には様々なタイプがいる。主人公を憐れんで転生させてくれるタイプもいるが、中には無理やり主人公を転生させるヤバいタイプもいる。


『女神に堂々とクソですか。怒りを通り越して驚愕です』


若干女神は涙目である。私は少し罪悪感を感じたふりをした。


『ところで、貴方の名前を教えてください』


私は少し驚いて罪悪感を感じたふりをやめてしまった。


「え?女神のくせに私の名前も把握できないのですか?」


『うるさいですよ。私は下っ端の女神なのです』


なるほど、私は納得する。

この女神は異世界の管理のなんたらかんからで、上司に転生者数のノルマが課されているタイプだろう。或いは異世界の事情で主人公に土下座して転生してもらうタイプ。


「そうですね。私の名前は田中花子たなかはなこです」


『まるで記入欄の見本に出てくる名前ですね』 


生前もそのネタでよくいじられていた。名前についての話題をそらすため、花子は新しい話を切り出した。


「ちなみに私の死因ですが……」


『ほう』


「私は幼い頃、病弱でした。外で遊ぶことができず、いつも病室の中で過ごしてました」 


『そして遂には病室で人生を終えたと』


「いえ、成長すると病院から退院できる程の健康体になりました」


『むしろ人生の始まりだったのですね』


「しかし高校に上がる頃、トラックが私の目の前に突っ込んできました」


『トラックが轢いてしまったのですね』


「私はかわしましたが、かわせなっかた人は轢かれました。とても不謹慎ですが、轢かれた人のあまりにも無惨なご遺体は引きましたね。ドン引きです。轢くだけに。こうして無事に高校を卒業し、大学に入学したのですが、友人と大学へ登校中に通り魔に襲われまして」


『友人をかばって通り魔に刺されたのですね』


「はい、しかし運よく刺された箇所が致命傷には至らず、一か月で退院できました」


『めちゃくちゃしぶとく生き残りますね』


「大学を卒業後に会社に就職しますが、その会社はブラック企業でした」


『そうして過労死したと』


「辞表をたたきつけて無職になりました」


人…いや女神としては失格だが、ここまで来たら抵抗せず潔く死んでほしいと思う女神であった。


「無職になった後の人生は灰色でした。親の悲しむ顔、人生で何も為せない喪失感……そして長い時が経ち」


『死んでここに辿り着いたと』


「やっとの思いで新しい企業に就職しました」


花子は新しい企業に辿り着いていた。


「ところが出勤日の初日、召喚に使われると思われる魔法陣が足元に…⁈」


『どうやってかわしたのです?』


「魔法陣の外に出るため、一歩後ろに下がりました」


そういえば、とある異世界が聖女の召喚に失敗して滅んでしまったという話を聞いたことがあるが、女神は考えるのを止めた。世の中には知らなくていいことはある。


『結局、死因は何だったんですか』


「天寿を全うしました」


老衰かよ。


女神はここまでのあまりにも長い前振りに脱力感を感じた。


『次にあなたの持つ能力についての話ですが、もう決まっていますか?』


花子は自信満々に答えた。


「まずは死んだら時間が巻き戻って死ぬ前のリスタート地点にゼロから始めることができて、四人の勇者が持つとされる武器の中の一つである盾を持っているのが最低限のラインですね。それでもって最弱に見える職業でありながら実は最強であり、能力は平均値だと思ったら中央値で、成長能力はずば抜けていて、レベルは999、外れ枠だと思われるスキルは当たり枠。後はスマートフォンを持っていて…」


女神は焦った。全て聞いた事があるような有名な能力である。


『多い多い多い…来ましたねよくばりセット。あなたは一つ一つの素材が素晴らしければ全て混ぜてもいい物ができると思うタイプですね』


何故ばれた。花子は驚いた。この論理でいつも料理をするせいでゲテモノが出来上がるのである。


『そもそも、レベルが999でありながら成長能力が高くてももう意味がないのでは?』


ごもっともである。


『だいたい、そんな力を持つ人の能力が中央値とは、そんな異世界は世紀末です』


ぐうの音も出ない正論である。


「ぐう」


女神の正論に花子は思わず声を出す。


『挙句の果てに勇者が持つとされている武器を持っていながら、最弱の職業に就くとはどういうことですか?勇者が最弱の職業である世界を探せと?』


「私の世界では勇者や魔王と名乗るものは強くなかったです」


『貴方の世界にその職業は存在しません。職業を詐称しています。実際の職業は学生、特に中学二年生が大半です』


ボロクソである。かろうじて反論したものの、秒で花子は論破されてしまった。


『転生するにあたって得る能力は一つで十分です。一つに絞ってください』


沢山の能力をもらえる事例もあるが、この女神はそれができない。しょせん下っ端である。

花子はじっくりと考える。やはり人望力やモテる能力だろうか…しかし、そういった能力は授かってないのに自力で得るのが大半である。すごい。


「決まりました」


花子は顔を上げる。彼女は大事なものを思い出したのだ。異世界でも自分の世界でも大切な、なくてはならない力のことを。それを皆が得るために生きていくもの…


「財力で」


『夢がなさすぎる』


結局、女神との話し合いの末に花子は異世界転生を諦めて天寿を全うした。皮肉にも花子が目を開けてから5分の出来事である。















結論「諭吉は偉大」

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