プロローグ まだ木こりですらない最弱
最後まで読んでみな?飛ぶぞ
「よぉーし、冒険者になってビッグになるぞー!」
彼の名は「ジャック」
何処にでもある平凡な村で産まれ、裕福でも貧乏でもないこれまた平凡な家庭で育ち、つい先日父に続き母も亡くなり家には自分1人となったため村を旅立ち、大きな町にある経歴も理由も腕さえあれば一切問わない「冒険者」となるべくこの「冒険者ギルド」と呼ばれる施設にやってきたのだ。
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「はい、おまたせしました。これでギルドへの登録の手続きは終わりました。せっかくなのでチュートリアルも兼ねて、経験もある先輩冒険者とパーティを組んでクエストに出てもらいます。」
「は、はい!よろしくお願いします!」
しばらくすると、受付嬢がセッティングした冒険者が集まり、一人はローブを身にまとい赤い宝石をはめ込まれた杖を装備したいかにも魔法使いといった少女で、もう一人はゆったりとした格式張った服にこちらは飾り気が無いが同じく杖を装備している僧侶といった少女に、最後は盾と剣を装備したどことなくカリスマ性を感じさせる顔立ちの整った男がやって来て、冒険者デビュー初日であるジャックを加えて4人でパーティを組む運びとなった。
しかし皆同様にジャックの背に担がれた両親の形見でもある「斧」を見てなんとも言えない雰囲気を漂わせている。
(ちょっと何よアレ、田舎臭さも丸出しだしどう考えてもお荷物じゃない!)
(神に仕える者としてもあの様な残虐な物を武器として認めるのはちょっと……)
(おそらく田舎から出てきて右も左もどころか都会の常識にも乏しいのだろう……)
と、当人であるジャックには聞こえぬ様に3人でヒソヒソと話し合い困惑していた
「あっあの!今日初めてクエストに行くので魔物の倒し方等を教えて貰えたらなと!」
「あ、ああもちろんだとも。僕たちが先輩として魔物との戦い方を教えてあげよう」
そして4人は道中で軽く自己紹介などを済ませ、魔物討伐に挑むのであったが……
「よし初心者くん今だやれ!」
「はい!オ、オリャア!」
「ちょっと!何チンタラやってんのよ!避けられてるじゃない!」
「こ、こっちに魔物が、キャアッ!」
と、本来ジャックを抜いた3人なら余裕で瞬殺出来るような魔物でもまだ始めたてとはいえジャックが着いて行けず連携を乱してしまった。その後何とか先輩冒険者の3人だけで魔物を討伐し、それを見ているだけしか出来なかったジャックは無力感に苛まれる事となった
――――――
「あ、あのさっきはごめんなさい……自分のせいで足を引っ張ってしまって」
「そうよ!アンタのせいでいつもならすぐ討伐出来るような魔物に手間取ったり、この娘も危険な目に会うかもしれなかったのよ!?」
「ええ、私たち神に仕える者としてもやはり相手に必要以上に危害を加えるような斧を使うのは看過出来ません!」
「ああそうだ、そもそもリーチなら槍、攻撃力なら大剣やハンマー、それ以前に君のような初心者が基本を学ぶなら僕みたいに片手剣を扱うべきだろう、なぜ斧なんかを?」
流石にここまで自らの両親の形見であり、自分に残された両親との色濃い繋がりの証を全否定されてはジャックも黙ってはいられず、
「この斧が両親の形見である事」
「普段の私生活から使い慣れており他の武器を使うよりよっぽど手に馴染む事」
「相手に必要以上に危害を加えるのは武器ではなく使い手自身の問題」
と説明して反論しようと試みたものの……
「アンタ、さっきの彼の話聞いてた?そんなんでホントに冒険者続ける気ならさっさと田舎帰って畑でも耕してれば?」
「それに農耕具としては鎌の方が優れていますし神聖的にも死を司る神が得意としていますから断然道徳的です」
「その斧にも何か特別な力や価値はあるのか?形見だからといって実戦で役に立たないなら、家にでも飾るか質屋に預けておけ。今なら僕が良い質屋を紹介してあげようか?」
そういうと、彼はおもむろにジャックの命より大事な斧に手を伸ばそうとするが、ジャックは咄嗟に身を引いて拒否の反応を示した。
「や、やめて下さい!この斧は自分の命と同じかそれ以上に大事な物なんです!やめて下さい!」
すると途端に拒否の反応を示された事が琴線に触れたのか、彼の態度が急変した。
「……おい、さっきからこっちは先輩としてアドバイスの一環で手放せと教えてやってるのにいい加減にしろよ?これは先輩として礼儀も教えておかないとなあ!」
「ウグゥアッ!」
豹変した彼はジャックの顔面を盾で殴り付け、その反動で吹っ飛んだ彼を追いかけその勢いのままに、倒れたジャックの腹を蹴り込んだ
「やっちゃえやっちゃえ!さっきから生意気だったのよアンタ!」
「これも我が主神の示された試練なのかもしれません……あなたはただ受け入れて下さい」
「オラッオラッオラァッ!いいから!さっさと!その鉄クズを渡せ!オラァ!」
「うっ……ぐぅっ……ぐふっ…い、嫌だ……!」
何度も何度も足蹴にされまた蹴り飛ばされたジャックは、全身に打撲や青アザに塗れ顔も腫れ上がり口は擦り切れ、見るも無惨な痛々しい姿のジャックは血反吐を吐きながらも何とかヨロヨロと斧を持ち立ち上がった。
「やめて……下さい……」
「あぁ?何でまだ立てるんだぁ?もっと痛め付けないと駄目みてえだな」
すると今まで納刀していた剣を彼は抜き放ち、その切っ先をジャックに向けた
「何なのよコイツ…いい加減気持ち悪いから諦めてよ」
「そこまでして抗うなんて……あなたはどうしても神の啓示を拒むと言うのですね?」
(ぼくは……ぼくは……)
朦朧とする意識の中、ジャックが取った行動は
「あっオイ逃げんなぁ!」
「クッ……!」
『逃げ』の一手であった
その背からは彼が苦し紛れに投げ放たれた剣がジャックの肩をかすめるも、その肩から伝わる痛みと出血なぞ意に介さず、全身はボロボロで本来なら激痛とダメージでいつ気を失ってもおかしくない中、本能なのか意地なのか全速力で走り続けた
やがて走り続けたジャックは、柔らかな木漏れ日が自分に降り注いでいる事に気づくとそこは見知らぬ森の中に迷い込んでいた。
(何て……暖かで……優しいんだ……)
その優しさに溢れた陽射しに包まれたジャックは、まるでプッツリと糸の切れた人形の様にその場に倒れ込み、意識を手放した。
――――――
「ん……あれ、ここは?」
最後に意識を手放した時と同じように、優しい木漏れ日に当たり目を覚ましたジャックはまだ身体中は軋み、腫れやアザなどはまだ殆ど治ってはいないものの何とか動く事は出来るようにはなっていた。
「うっ、イタタタ……一体どれだけ眠っていたんだろう?あの時は必死で走ってて自分がどこかも分からずにこの森に迷い込んじゃったし。取り敢えずキズや体力を回復するためにも薬草や食料を探さなきゃ」
幸いこの豊かな森は、まるでジャックを労るかのようにすぐ近くに薬草や食べられる木の実等が自生していた。
「クッ…口の中も切れてるし腫れのせいで食料も上手く食べづらい。だけど今はなんとかこの森で生き延びてキズを治さなきゃ……」
それからしばらくは安静に保ちつつ、定期的に付近の薬草で治療しつつ、腹が減ったら木の実を食べて何とか飢えをしのぎ、数日は経つとボロボロになっても大事に守り続けた斧も振るえるようにもなった。
「ふぅ、何とか狩りとかも出来そうな位には回復したぞ。この所ずっと木の実や葉っぱばっかりだったからお肉が食べたくて仕方ない」
意気揚々と斧を振るいながら狩りに繰り出すジャック。獲物を探しつつも、歩く道すがらここまでの経緯を思い出していた
(思い返せば、親が死んでもう自分は天涯孤独になってしまったしせっかくだから冒険者になって一発デカいのをドカンと当ててビッグな人間になるぞ!って意気込んで村を出てったものの散々な事になってしまったなぁ……)
思い返すは、ギルドに着き初のパーティ顔合わせで田舎者扱いされた事、
初のクエストで自分勝手な先輩冒険者と呼吸が合わず苦戦した事、
その後の反省会で自分の形見の斧を全否定された事、
その事に反論したら斧を取られそうになりボコボコにされた事、
それでも何とか立ち上がって逃げようとしたら本気で殺されそうになった事………
(初日だってのに色々あったなぁ……ん?ていうか何で自分が斧を使ってただけでこんなヒドイ目に会わなきゃいけないんだ?)
そう思った次の瞬間、ジャックの内からはドス黒い何かが沸き上がる感覚がした
「ってやっぱおかしいだろォッ!?なんで自分が使い慣れてる武器を全否定された挙げ句、理不尽な理由で死にかけなきゃあいけないんだよ!?」
そう言い終わるが早いか駆け出すのが早いか、ジャックは斧を構え全速力で獲物を索敵し襲いかかった
「オオゥラァッ!ああああああなんか無性にムカムカする!ウオアアアアアアア!」
今のジャックは強い空腹によるどうしても肉を食べたいという衝動と自らに対して行われた理不尽な仕打ちへの怒りとがない混ぜとなり、まるで嵐が如く獣も魔物も行く手を遮る大木をもなぎ倒していく災害その物と化していた
「ダアアアアアア!!肉!邪魔!ムカつく!どけどけどけぇぇぇーーー!!!」
(確かにあの時ぼくは弱かった、そして斧も充分に使いこなしたとは言い切れない。それにあの人達の足手まといだったのも確かだ。)
「だが、それでもッ……!」
(だからっていくら何でも斧に対する偏見や扱いが酷過ぎるッ!ホントに斧は弱いのか!?ホントに斧以外の武器の方が全て優れていると言えるのか!?)
怒りと衝動のままにジャックが駆け抜けた森はドンドンとなぎ倒され、遂にはそれを重く見た森の主とも呼べる巨大なクマがジャックの前に立ち塞がった
「いいや違うッ!ホントに弱いのはそれを扱う人間!ホントにそれの真の全力を見極められていない奴こそが斧を弱いと言い張っている弱者に過ぎない!」
ジャックが駆け出すと同時に森の主たる巨大グマも向かっていく!
「だから決めたッ!ぼく……いいやオレはッ!斧を真に使いこなし!全力を引き出し尽くし!」
遂に巨大グマはジャックの目の前まで迫りその剛腕を振り下ろしていく!
「オレこそがッ!最強の斧使いになるんだァァァーーーー!!!」
間一髪!ジャックに振り下ろされた剛腕が直撃する寸前、巨大グマの脳天には彼の命、魂、そして決意の証たる斧が突き立てられていた
「オレがッ!最強だァァァァーーーー!!!!」
遂に始まったジャックの最強伝説。
この瞬間は、その1ページ目が始まる第1歩である
はい、基本見る専なので拙い文かもしれませんが感想や高評価等が来ると嬉しくて飛びます