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恨まれるかもしれない


 こんな事をしてはお姉さまには恨まれるかもしれない。

 でも、貴重な若い時を狂ったままでいるのは不幸な事だと思うから。

 この世界は優しくないから平均寿命も短いし。

 

 お姉さまの精神は良くなるように見えて、その実、どんどんと崩壊がすすみ、私の手には負えなくなっていたのだから。

 

 もともとは治療のための試みだった。

 心の痛みを軽減させるように実際にあった事をなかった事に錯覚させる試みをしていた。

 でも、ショックを与えられた出来事は精神に深く刷り込まれ、なかった事には出来ないようだった。

 そこで、ハーピィ達によって夢を通じて、少しずつ記憶をすり替えていった。

 

 まずは幼少期の私(妹)の失踪を「病気のために他所で療養していたが、最近帰ってきた」にすり替えた。

 結果、姉は私を妹と認識するようになった。

 

 

 本来は、自分で克服するのが正しいしのかもしれない、それで元に戻れたなら完治といえるだろうけど。

 それには心の丈夫さが必要で、お姉さまはアドニスの死によって心が弱っていたところの、あの糞逆ハーメンバーの仕打ちで完全に心が折れてしまっていた。

 

 再生(再び立ち上がる事)ができない程に。


 


 14歳の頃の人格を出せるようにまでに頑張ったお姉さま。

 でも、続かない。一生14歳の頃のお姉さまの人格で正気なふりをしてはいられない。

 それは「正気なふり」だから。いつまでも本当のお姉さまは表に出てこれない。

 心が傷つけられ、死んでしまっているようなものだから。


 眠っているお姉さまの手を握る。


 ごめんなさい。私、お姉さまにとっての真実をなかったことにしてしまいました。


 それは褒められた事ではないのだろうとは思う。

 でも、そうでもしないとお姉さまが可哀そうで、憐れで、私は再び怒り、あの光線を手あたり次第に発してしまうかもしれない。


「幸せになろうね」


 お姉さま。






 ーーーーー「幸せになるんだよ」


 ーーーーー幼馴染は最後に笑って、頭を撫でた。

 ーーーーー彼は戦士として、私たちの住処を守り切った。


ーーーーーー 大好きだった人。あなたが死んでしまって私はとても辛い、寂しい。


ーーーーーー「君は生きろ」



 ハーピィが最後に施した夢の残滓が泡のようにはじけた。



 お姉さまの閉じた瞼からは涙があふれ出た。








「どこか痛むのかな?」


 ウリセスが背中に背負った涙をながす姉を気遣っている。

 


「急ぎましょう」


 私は姉の身体を慎重にゆすり上げているウリウスに向かって声をかけた。


 テオが私たちの荷物を積んだ馬の手綱を引いてくれる。

 大事な物、必要な物は私自身の無限収納の中だが、何も持ち物なしというのも何だか格好がつかない為、

新生活に必要そうな、引っ越し用荷物はまとめて用意しておいた。

 ちなみにマジックバックも持ってはいるが、容量があまりないと言ってある。

 荷の中になかったものがうっかり見つかっても、そこに入れておいたと言い訳がたつ。


「最後尾をまかせて大丈夫か?」

 テオも片手に剣を抜いてはいるが、荷物をのせた馬の手綱を引かなくちゃでイザという時、突発的な出来事には対応しずらいだろう。

 ウリセスも、眠っている姉をおぶっているから両手が塞がっている。


いかにも頼りがいのない私が、辺りを警戒もしつつのしんがりだが仕方ない。


「私では姉を背負えませんし、荷物も運んでいただけてありがたいです」


そして少しだけ口の端をあげる。


「わたし、そこそこ強いので」


 テオは片眉をあげた。信じられないのでしょうね。


 まぁ見ててごらんなさいよ。



 無言で何もないような繁みに弓を構えると狙いを定める。


 シュンッ


 魔力でコーティングした矢が飛んでいき、こちらに向かって飛びかかりかけた角のあるウサギの急所を貫く。


 「ね?」


 同意を求めれば、テオは肩をすくめた。


 「まあ俺だって気がついてたけど」


 負けず嫌いらしい。


 ささっとウサギを拾うと、背中のザックにしまう。



 「今のは魔法だね?」


 「マジックアロー…かな?」


 中長距離用の貫通のみに特化した技だ。それに属性を持たせれば、ファイヤーアローだのアイスアローになり、もっと大きく長く弓を使わないで飛ばせば、アイシクルランスだのファイヤーランスだの、槍を模した攻撃の投擲技になる。ちなみに矢は使わなくてもいい。


 「よほどの魔獣でない限り大丈夫。安心して」


 「噂をすると出るとか言うぞ。っつ、前方にコボルト。ウリセス、右に迂回だ。」

 「まだ気がついてないみたい。迂回するよりここで静かにしてやり過ごしましょう」


 迂回なぞしていたら時間がかかる。


 馬をなだめて静かにさせると、皆息をひそめる。


 「行った。むこうも狩りの最中らしいな。…左にそれた」


 しばらくするとコボルトの悲鳴が遠くからあがる。

 

 「あちらにはオオトカゲの縄張りがあるからね」


 「よし、今のうちに通り抜けるぞ」


 この森の勢力図はだいたい頭に入ってる。最小限の戦闘でこの森は抜けられるだろう。



 「…リロイ湖だ」


 リロイ湖に沿って反対側へ進めば、いよいよローゼンリロイ領の領都「リーロイヤ」だ。


 私にとっては何度か変装をして必要物資を調達しに来ていたから、まるきり初めてではないが。


「わー。すごい。人がいっぱい。建物も立派!!」


 驚くふりくらいはしなくちゃいけないかな?

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