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この流れを利用して…


まぁ、ね。

いつかはお姉さまをこっちの世界(現実世界)に戻してあげなくちゃって思ってたし、一生地下生活というのもね。


そこで発想の転換をしてみた。むしろこの件を利用しちゃえばいいかって。




「こっちよ。ウリセス、テオ」


手を振れば、駆け寄ってくる二人。


「私たちは大丈夫。でも……」


私は憂い顔で、土饅頭を見る。

中身は適当なモンスターの骨が入っているだけだけど。


「なんと言うことだ。エレン殿は?ぶ、無事なのか?」


やっぱり、真っ先に気になるのはお姉さまですか?まぁ正直な事で。


「お姉さまはショックで寝込んでいるの。でも無事だから大丈夫」


「何があった?」


「わからないわ。ずっとここにはゴブリン達は来なかったのに」


 

ウリセスとテオの顔が青ざめる。

タイミング的には、彼らが避難してきてからだから、自分たちがつけられたと思うでしょうね。


「私がちょっと外出していた隙に、扉を破られたみたいなの」


出入口をごまかしていた土壁に偽装した扉は無残に破られたままにしてあるのでそれっぽさ倍増だと思う。


 まぁ自作自演だけど!


「ここはもう放棄せざるを得ないわ。でも困ったわ。行く当てが…」


ほぅ、と両手を頬にあて困り顔を作る。


「すまない、俺達がつけられたんだと思う。けが人も連れていたし、血の跡を辿られたんだ。雨でごまかせると思ったんだが。」


 その心配は少なからずあった。ゴブリンて結構知恵がまわるところがあるからね。

 ウリセス達の再訪もその不安を少なからず感じていたからこそという事もあると思う。

 ただ、今回のは自作自演だ。

 それに襲撃されたとて、ゴブリンごとき、私の敵じゃないし。

 何なら巣ごと消滅させることも可能なんだから。

 

でも、必要だから、ちょっぴり胸は痛むがウリセス達には罪悪感を感じてもらう。


「本当にすまない。俺達のせいで…」


 …ごめん。そんなに真摯に謝られると良心が…。あいたたた。


「ここに住んでいた以上はそういった危険とはいつも隣あわせでしたから。覚悟はできていました。

気にしないでください」


 本当はあなた達にはこれっぽっちも責任がないんだから。


「…もしよかったら、俺達の街に来ないか?何なら俺達が身元保証人になるから」


よっしゃ!その言葉が欲しかった。


「本当ですか!!!」


あ、つい前のめりになってしまった。




この世界、戸籍関係とかそれなりに整っていて、大きな都市ほど住むには身元保証が重要になってくる。

例えば「シーザー村のリア」と名乗ったとしよう。

都市で住民登録しようとしたら、本当にシーザー村まで調査が及ぶからね。

その道に明るいプロに伝手でもなければ即アウト。


まぁ滞在するだけならそこまで厳しくはないけれど。

いつまでも根なし草じゃぁねぇ。


実はこの案はウリセスとテオを鑑定してから練ったものなんだ。


ウリセス・グェン・リズボット

22歳、リズボット男爵家3男。鈍感系無自覚たらし、護衛


テオドア・ノースフィールド

18歳、ノースフィールド領の風雲児、長い反抗期中。(軽く厨二病気質あり)


  なんかこの鑑定ちょっと悪意ない?

 そしてテオドアの方が大物でびっくりした。

 ノースフィールドといえば、ここいらじゃけっこうな土地持ちで知られた大貴族だ。

 そこのご子息といえば…ウリセスもそうだけどなんでお貴族様なのに冒険者とかやってんの?

 てか何なの?反抗期って。盗んだグリフォンで走り出したの???

(グリフォンは高級騎獣。買おうとすれば庶民の年収の何年か分はするが、はぶりのよい貴族なんかはドラ息子に買い与えたりしている率が高い。転じてやんちゃ系の貴族子弟を指して「グリフォンライダー」と揶揄することにも使われる)


 ああ話がそれた、しかししっかりとした身元保証人がいれば無問題。

 出身が怪しくても住民権がとれてしまうという、何という抜け道。権力万歳。


 私以外にも鑑定の能力を持っている人はいるから、そういった調査官には鑑定されるけどね?

 それなりにお高い鑑定料が必要なんだけど。ダンジョン産の宝箱の中身のある私にはそれは難題じゃぁない。


 自分のダンジョン産の偽装スキルロールで「偽装」も習得したし。


 というか私の鑑定はこっちの世界の鑑定とはちょっとどころか、かなり違うんだけど。

 なんか、鑑定技能の主観とかが多いにまざっているような気が…。


 名前、出身、性別、身分 年齢、賞罰の有無…あたりが普通は表示されるだけのようだけど…。


 なので、私とエレン姉さんを鑑定するとこうなる。


 エレン・ウッドヴィレッチ 22歳 女 ウッドヴィレッチ家長女 賞罰なし


 リアージュ・ウッドヴィレッチ 19歳 女 ウッドヴィレッチ家次女 賞罰なし 


 うん。木村ってのは私の前世の姓だからね。

 お姉さまの立ち居振る舞いはどう取り繕っても一般市民のものじゃないから、ここは苗字持ち一択で。


 出身はどこにしよう。


 「リロイの森」でいいかな。

 この森の通称の名前ね。

 なんか、元エストラーダの元王都に住んでいたってばれると「神の怒りに触れた人々」って昨今じゃ偏見の目で見られるらしいのよね。


 それに政争で負けたお貴族様の一族郎党が、未開の森や断崖絶壁に囲まれた前人未踏の入江なんかでひっそりと「落ち人村」を作ってたりすることもないわけじゃない。

 大抵そういう所に住んでいた人たちって、世代を重ねるうちに立ち行かなくなって大都市や近隣の開拓村なんかに流れ着き、住民権を得るためにすごい苦労するんだよね。


 でも、権力のある身元保証人とお金があればそういった苦労や回り道とは縁のない話だ。


 庶民?一般庶民はある意味守られているから、そういうことはないんだよね。

 同じ領主の統治下の範囲ならば、移動は届け出さえすれば自由だし。

 例えば御家騒動とかで家を追い出されたとしても、そこの領主の領民であることは変わりないわけ。




 どういった事情で冒険者しているのか知らないけど、私たちの役にたってもらうよ?お二人さん。

 そしてもうひとつ。


 私にはもうひとつのもくろみがあった。


 お姉さまの辛い記憶を、より負担や刺激の低いものとすりかえる事だ。



 「よかった。お姉さまは仲のよかったアドニス様を失ってしまったから、ここに残るのはつらいと思うの、…だから」



 今回の偽装ゴブリンの襲撃で、アドニスは亡くなったのだと。そう記憶をすり替えた。

 断罪やそれに伴う拷問を、ゴブリンの襲撃の衝撃とすり替えた。



 


 
















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