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一方通行のキモチ


 世の中には二種類の人間がいる。

 恋愛成就する人間としない人間だ。 

 好意をもったりは誰でもする。でもそれから相思相愛の関係になれるのは何割だろう。

 好いて好かれてって憧れる。


 片恋でも恋は恋だもん。ひーん。



 好きです。こっち見て。わたしを見て。


 でもウリセスの視線はお姉さまに注がれている。


 うーん、もう…望みないかなぁー。


 一目惚れからの速攻失恋。

 元気だせ、自分。多分まだ傷は浅い。




 お姉さまの登場で、なんか、場の空気が全部お姉さまに向いてしまった。


 お姉さまったら無邪気にわたしの自慢をしている場合じゃなくてよ?


 そりゃ誰にも知られちゃいけないって口止めしてなかったのは私だけど…。

 ダンジョン内で農作物を作って自給自足しているだとか、気ままに魚釣りをしてるとか普通じゃないからね?


 「ははは。面白い事をエレン殿は言いますね」


 ってウリセスは笑ってるけど、テオの目がだんだん鋭くなってるんですけど、ひー。


 ちょっとこっちの世界の人(現地人)とは違うチート(特殊能力)を持っているだけの普通の人間なので、もうどこの街も壊したりしないので!!


 危険人物を見るみたいな目で見るのはやめて?



 ああ、ヤヴぁぃ。やっちゃった。


 口封じにこいつら始末しようか?


 いけないいけない。黒い事考えちゃった。こっちの世界に毒され気味じゃん。まぁ冗談なんですけど。


「この子達とちょっと畑仕事をしているだけですよ。家庭菜園なのに、お姉さまったら褒めすぎよ」


「うふふ。この子達も働き者だものね」


 給仕のために近づいたゴブリン娘の頭を撫でる。




 …まともそうに見えるでしょ?お姉さま、これで狂ってるんだよ?


 今は爽状態というような状態で、これは本当の人格じゃぁないんだよね。何とか普通の状態(現実に適応)になりたいって深層心理が作り出した偽物の人格なの。

 その証拠は瞳をのぞき込めばわかる。虚ろでからっぽだから。

 私だって何回もこの状態の姉を「治った」のだと勘違いした。


 「桃はお姉さまの好物ですものね。こっちの桃はコンポートにでもにしましょうか?お姉さま」


 「私、作ってみたいわ!リア、一緒に作りましょうね」


 わざとらしく感じるほど明るい声でお姉さまは言う。演技をしているのだ。

 「自分は大丈夫。何も起こらなかった」のだと。

 お姉さまは現在22歳、でもこの人格のお姉さまは多分14歳の頃のお姉さまだ。何も知らなかった、何も不幸な事件など起きなかった頃の。


 「そうね。ジャムも作って瓶詰にしましょうか」

 「素敵。アドニスの好きなパイも用意しましょう。早く帰ってくるといいわね。」


 お姉さまの瞳が不安げに揺れている。


 「リアも帰ってきたんだから、アドニスももうすぐ帰るのよね?」


 受け入れがたい現実に近づきすぎると、仮の人格も破綻する。本体を守り切れなくなるからだ。

 薄氷を踏むような世界をお姉さまは生きている。


「そうね。桃のジュースも用意しましょうか?桃尽くしね」

「リアったら、桃ばかりになるんじゃないかしら?飲み物は他のものにしましょうよ」


 お姉さまがコロコロと笑う。

 私はほっと息をつく。


 ウリセスとテオが話についていけずに置き去りになっていた。

 いかんいかん。


 「寝床の準備は出来ているのかしら?」


 「デキテオリマス。アルジサマ」


 宴会はお開きだ。

 ゴブリン娘達に彼らを寝所に案内させよう。

 で、寝入った所でサキュバス達に夢に干渉してもらって、都合の悪いところを錯覚するようにしよう。


「そろそろ遅い時間なので、これで失礼しますね。どうぞごゆっくり。お姉さま、明日はジンジャーレモンを用意しますからね」


「まぁ!楽しみ」



 私にはこれから、この爽状態のお姉さまを寝かしつけるという使命が待っている。


 


 ウリセスとテオは翌日、ガキンチョらを連れて帰っていった。

 ダンジョン産のポーションでけが人は治しておいたので動けるようになっているはずだ。

 ただちょっとダンジョンの仕様のせいで気怠いだろうが、付近をうろついていたゴブリンは私が昨夜の内に蹴散らしておいたので大丈夫だろう。


 さて、私はこれからの事を大至急考えなくちゃいけない。

 ここの撤収を視野に動かなければ。



 私は基本的にこっちの世界の人間を信じられない。

 だから最悪を想定して動く。


 はぁ、ここ、ようやく居心地よくなってきてたのにな。

 何日か眠ることも惜しんで作業を続ける。

 造りだすことよりも、片付け作業の気のめいることよ。



 キラキラとした光の粉を発しながら、マイモン達が消えていく。

 彼女達はダンジョン機能が生み出したモンスター達だから、またダンジョンのエネルギーに帰っていくのだ。


 海も草原も、果樹栽培していた大部屋も、すべてキラキラと光輝きながら私の中に還っていく。

 

 残るはもともとあった洞穴とわざと崩した レンガと木の家。


 なぜか、ダンジョン外にダンジョン内のものを持ち出すと実体化するんだよね。


 適当にファイヤーボールやアイスランスなどをぶつけ戦闘跡のように偽装する。

 

 お姉さまには睡眠薬を盛ったから、今は眠っている。


 そろそろ来るころか。


 ふ、予想通りすぎて嫌になる。


待ち人達がやってきた。



 「これは一体!!!。エレン!リア!!」


 忘れてって言ったのに。やっぱり戻ってきたのね。




 




 





 

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