才能のない私がダンジョンを運営するとこうなる
「アルジサマ。シュウゲキです!アルジサマ!」
うん、ダンジョンだからね。ここ。
他のモンスターも来るよね。女の子ばっかだからね。ここ。
でも、お嫁さん探しはお外で、お外にいる同士でして!!
「ここの堺、周囲の色と違う…隠れダンジョンかも?」
そして冒険者もくるよね…コナクテモヨイノニ。
「チッ!追い払ってくるか」
舌打ちも出ちゃうよね?いや出るよね?私の立場ならみんな出すと思うよ?
このダンジョン、もともとは森の中をそこそこ入ったとこの丘の中腹に開いた洞穴が入り口なんだけど、
最初の頃、その入り口を開けっぱなしにしといたら、わらわら来るわ来るわ。
マイモンスター、略してマイモンの略奪にお外のモンスターの♂どもが!!。
特にゴブリンなんかは普通にゴブリン同士で群れを襲撃し合って嫁とりする習性があるもんだから酷い。
ここにはもともと野生のゴブリンの集落があったから、中には場所を覚えているゴブリンもいて、時々襲撃してくる。
なので、入り口を塞いだりして凌いでいたんだけど、どうしてもダンジョンでは手に入らない物資をお外に求めに行かざるを得ない関係上、完全にふさぐ事が難しいんだよねぇ。出入口なくちゃ困るし。
そろそろ本気でもっと目立たない出入口を他に作ろうかと思っていた矢先に、冒険者に見つかっちゃったみたいなんだよねぇ。
うぅぅぅ、どうやって追っ払おう。
そもそもこのダンジョン、私が運営している事もあって、宝箱とかありません。
出入口をふさいだあたりから、どんどんダンジョンとしては衰退する方向にいっているので、ダンジョンエネルギーをそういうのに回す余裕がないんだよね。
よく言われるように、外からエネルギーが入らないと、ダンジョンて早い話が飢え死にしちゃんです。
今、このダンジョンは、もともとこのダンジョンの内包していたエネルギーを私の魔力で循環してるだけなんで、ゆるやかに縮小してます。
まぁつまりは何のうまみもないダンジョンなんだけど、そう説明したところで彼らが納得してくれるかどうか。
ゴン!ゴン!ゴン!
ちょっと、壊すのやめてくれない????壊れたら、それ治すのにもエネルギーいるんだからね?
「入っているって言ってるでしょ!!!」
あ、つい、トイレに籠ってる人みたいな怒り方しちゃったわ…。
「えっ???」
驚いてる。驚いてる。
「え?今?声したよね?」
はい、しました。帰ってくれないかな?
「ここは、マイハウスなので帰ってください」
「どゆこと??」
「どゆこともこゆコトもありません。カエレ」
「すまない。洞窟だと思って避難してきたんだ。けが人がいる。申し訳ないが雨宿りさせてくれないだろうか。…図々しいと思うが一泊させてもらえるとうれしい。」
出入口からお外にむかって少しばかりは空間がある。ぎゅーぎゅーに詰めれば数人でなら雨は凌げるだろう。
ただ寝そべるようなスペースはない。
食事の用意もできないだろう。
それにけが人ねぇ…。
はぁ…
溜息をつく。
仕方ない…仕方ないよね?
ダンジョンに入ってくれるだけで、ちょっとだけエネルギーをもらえるから…だからじゃなく、これは純粋に人助け。
ギコン
「うわああああ!!」
しかけ扉から表に出れば、思い切り驚かれた。
失礼な。
ああ、ダンジョンの外の空気ひさしぶり……って、中とかわらないね。
すぅはーと深呼吸してみたけど、環境に気をつかっているマイダンジョンの空気はお外の空気とそんなに変わらなかった。むしろちょっと上質?
お外の空気は雨のにおいがする。
ダンジョン内では気が付かなかったけど、雷も鳴っているようだ。
「狭苦しいところですが、どうぞ」
油断なく冒険者達をチェックしつつ、中にいざなう。
「何のもてなしも出来ませんが」
うむ。若者2人とガキンチョ数人のパーティだな。
ガキンチョのうち3人がケガしているようだ。仲間にささえられている。
むむ、若者のうち、一人はやや強そうだけど。
私のビームの敵じゃないね?
「近くでゴブリンの群れにやられたんだ。君は大丈夫なのか?」
まぁ、洞窟に引きこもってるなんて変な女ですからねぇ。
大方ゴブリンから逃げて、ここに籠っているとでも思われてるんだろう。
しかし、あのゴブリン集団、まだここを狙ってこの辺をウロチョロしてんのか。
何べんもビームで蹴散らしてやってるのに。
Gのごとき繁殖力で、いつの間にか数を盛り返しては襲撃してくるんだよなぁ。
やっぱり元から断たねばダメか。
「足元にお気をつけください」
まったく歓迎せざる客だよ!!!君たちは!!
貴重なダンジョンのエネルギーを使って、行き止まり風にした洞窟内にレンガと木で家を作成。
うぅむ、使ったエネルギーの元は取りたいところ。
この冒険者パーティの滞在で元をとるにはどのくらい居てもらえばいいんだろうか。
いやいや、安全第一だ。欲をかいてはいけない。
雨が止んだらすんなりとお引き取りをねがおう。
ガキンチョ達は呆けたような顔でケガした仲間をささえつつついてくる。
2人の若者の方の冒険者は、それでも年の功というべきか、周囲を探りつつ油断のない様子だ。
背の高い方は、長い濡れた前髪のせいで人相が分かりにくいが、背の低い方は割とかわいいな。
年を取ったら父っちゃん坊やになる手の顔だ。
中に入ってびっくりしたんだろう。
同時に怪しんでもいるようだ。
「本当にお家がある」
「うわー。家だぁ」
ガキンチョは13~4歳位かな。まぁ男女混合のガキンチョ集団だ。
「あばら家ですので、お恥ずかしい。あまり見ないで」
いろいろバレそうですから、当たり障りなく願います。
辺りを探索なぞ、しないように。
「ひとつ約束をしていただきたいのです。ここで見聞きしたことは、誰にも話さないように願います」
「…わかった。誓おう。迷惑をかけてすまない」
そうそう一宿一飯の恩義ってやつですよ!!よろしくね?
背の高い方は言葉遣いがきれいだな。冒険者のくせに変わってるわ。
私はパンパンと手を打ちます。
「ひっゴブリン!」
年かさの冒険者がさっと武器を手にとりますが、早まらないでほしいですね。
「この娘は、大丈夫です。警戒しないで?」
このダンジョン限定ですが、ここのゴブリンは人を襲ったりしませんよ。
「オヨビデショウカ?」
「この人たちに室内着を。お風呂と夕餉の支度をお願いね。あとけが人の手当てを頼みます」
「カシコマリマシタ」
ガキンチョ達はビクビクとしてますけど、ウチの子達にはキチンと服を着せ、おしゃれだってさせてます。
まぁ、お姉さまと着せ替えごっこしたからですけど。
お風呂だって入れてるし、野生のゴブリンと一緒にしないでほしいところ。
「待っている間にお目汚しを」
あちこち見られたくないから、何かショーでも見せて目をそらさせるか。
んでもって泥酔させて眠らせるか。…ガキンチョどもはお腹が膨れれば眠るだろうし。
かくして、ゴブリン、コボルト、リザードウーマンらによる歌劇「〇ルサ〇湯の薔薇」。
ハーピイとサキュバスによる合唱、ジブ〇メドレーなどでお茶を濁らさせてもらった。
「うーん満腹…」
「むにゃむにゃ、おやすみ…」
ガキンチョ共は早々と陥落していき、あとは年長者の二人だけ。
この二人、なかなかにしぶとい。
「どうぞぐいっと」
サキュバス達にお酌をさせているのだけど、なかなかつぶれない。
「いや、…もう結構」
「もう、お腹いっぱいで…って、このお酒おいしいですね」
サキュバスさん達は、この二人が潰れたら、ちょっとだけ味見してよいと伝えてあるため真剣だ。
こんな美人さん、お外ではみたことないでしょ?いい加減誘惑につぶれてほしい。
背の高い方と小柄な方、どっちが先につぶれるかな?
背の高い方は、長い髪の間から見えている耳が赤くなっている。
羞恥のせいか、酔いのせいか。
対して小柄な方はぜんぜん顔に出ていない。
「貴女は高名な召喚士なのか?」
「それとも馬鹿みたいに力があまりまくっているテイマーなのか?」
「馬鹿みたいって…」
なんだよ、それ。と思い直して気が付く。
こんな数のモンスターを使役とか普通じゃないよね…。失敗した。少し焦りすぎたか。
「すまない。どうも落ち着かない。彼女たちを下がらしてくれないか?」
まぁ、モンスターですからね。彼らからしたら落ち着かないのも当然か。
「失礼して、ふぅ、暑い」
背の高い方が襟元を寛げ、ついで髪をかきあげた。
汗がひとすじ、額から頬を伝う。
ズキューン
て音がしたかと思った。
めっちゃ好みの顔がそこにはあった。
やばい、顔がかーーっと赤くなってる感じ。
視線をそらした先で背の低い方が真顔でお酒を飲みほしてた。
どんだけ強いんだよ。ドワーフか!