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気がついたら、処刑場でした

 白い空間の中を揺蕩う。

 上も下も、前も後ろもないような空間。

 ただひたすらに眠い。

 暖かいような、ふわふわとした絶妙の心地よさの中を揺れる。


 

 お前を転生させてやる代わりに、頼みたいことがある。

 

 ふいに何かの意識が混じってきた。


 なんだろう。

 わたしの意識はふと浮上するかのように一瞬クリアになる。


 ーこの世界を救ってほしい。

 

 …嫌です。そんな大変そうな事、自分には出来ません。

 反射的にそう返す。


 だって、そんな、ねぇ?


 わたしは平凡な人間で。

 頭だってよくないし何かを成し遂げるような根性だってない。

 苦労しそうじゃん?なんでそんな大事をわたしに求めるの?

 何かしてあげてもいいけど、もっとわたしでも出来るような簡単な事にしてよ。


 ーでは、3つ選ぶがよい。


 えー?ちょっと聞いてるの?難しい事とか無理だよ。

 だって失敗したら…悪いでしょ?


 って何?、選ぶって…

 はぁ、眠いんだけど。


 わかったよ。…そんなに急かさないで。


 沈んでいく意識の中で寝ぼけつつも、示された中から何かを選ぶ。


 いいでしょ。これで、もう眠らせて…。


 かろうじて3つの事を選ぶと、抗えない眠気にわたしの意識は沈んでいく。







 白い靄に包まれた空間で、ゆらゆらと暖かな何かに包まれて揺られながら、今のは一体何だったのだろうと一瞬考えたが、眠気が忍び寄ってきて、私はまどろみの中へ戻っていった。


 




 …ふわふわと漂うような、そんな夢の中で、ずいぶん昔の出来事をみていたような気がする。


 意識が戻ってきて、目が覚めかけてきているのだろう。

 なんかさっきっから後頭部の方から何かの刺激が送られてきている気がする。

 なんだろう、これは。











 ふっと意識が浮上する。


 後頭部がおかしい、いやこれは痛みだ。ずきずきと激しく痛みを訴えてきている。

 洒落にならないくらいに痛い。


 ああ、そうだ、たしか私は田舎から上京して来て、街を見物しながら買い食いしているところを、後ろからガツンと何者かに殴られて気を失ったのだった。


 どこ行った?私の食べかけの姫リンゴの蜜がけ。


 …いやいや、そこじゃないだろう気にするところは。

 自分で自分に突っ込みを入れつつ、今の自分の状態を確認する。


 ここはどこ?そしてあなたは誰?


 私は後ろ手に縛られ、周囲より高い場所に立たされていた。


 とはいえさっきまで気を失っていたので自立できていなかったからだろうか、周囲を顔を隠した怪しい風体の男たちに囲まれ、彼らに支えられて立たされているようだ。


 頭から頭巾をかぶった半裸の、見るからに怪しい風体の男たちだ。


 それにさっきっから神官風なおじいちゃんが私に語り掛けているのにも気がつく。


「神へ赦しを乞いなさい。神は全てを見通しておられます。さぁ懺悔を」


 は?何を?何を告白せよと?


 …食べちゃいけないといわれていたのに仏壇のお供えものを食べちゃったことか?


 もう時効じゃないかな?時効でしょ?

 第一アレ、賞味期限が切れていそうな味がしてたし。


 …昔っからお腹は丈夫だったんだよな。


 あ、だから「食べちゃいけなかった」のかな。痛んでたから。



 という所までツラツラと思い出してから、大事な事に思い至る。


 待って、待って、今思い出したところだから!

 とっても大事な事を思い出したから!


 私!異世界転生したんだった!


 でもちょっと待って?今なの?思い出したのなんで今なの?

 なんか、見たくないものが視界に見えてるんだけど、あれってギロチ…。

 ひょっとして生命の危機とかで、思い出しスイッチ入った?走馬灯的な何かの未知のエネルギーのなせる業?


 まずいよまずいよ。

 これ回避できそうもない種類の命の危機なんだけど。


 待って待って。お祈り終わらせないでよ!!神官様!

 懺悔するから!なんなら、我慢できなくて男子トイレに「今だけ男」って言って入っちゃったこととかも

 懺悔するから!!


「…罪を認めずとも、神はあなたをお見放しにはなりません。ですが、どうかご自身の罪と向き合い、深く反省なさいますよう。さすれば神の御心にかない、安らかな終わりを迎えられますでしょう。」


 いやいやいや、私、転生してからも処刑されるような悪いことしてないから!

 「生まれてきた事が罪」とか言わないよね?泣いちゃうよ?!



 というか、口が麻痺しててしゃべれないんだけど!懺悔したくてもむりむりむり!って、私何も悪いことしてない!!「安らかな終わり」って、懺悔してもしなくても、何しても死んじゃうってことでしょ?

 これ、神官様への「懺悔タイム」終了後に、ギロチンに引きずられていくっていう筋書き?

 お願い、見捨てないでぇぇぇ。

 神様仏様、神官様!


 はっ、そういえば、転生時に転生者特典とか言って、神様っぽい人にチートをもらったんだっけ?

 なんだっけ?チート。何もらったっけ?

 三個選べって言われて、私が選んだのは…。



 無限収納?

 今、役にたたなーい(答え、今記憶が戻ったところなのでなにも収納されておらず)


 鑑定能力?

 

 …えっと 「スロン工房製の刑罰用ギロチン、通算4999人の死刑を執行した。

 後01人の執行でもって『呪われたギロチン』に変化する。」


 おいいいい!それって?あと1人って私かい!!

「呪われたギロチン」ってそれ呪うのって処刑された私ってことよね??

 そんなトリガーになるのも、処刑される事事態も嫌なんですけど????


 鑑定!

「国教バドーラ教神官 モルテル・バーグ司教。78歳独身※隠し妻と子あり(12歳)現在の地位には賄賂を使ってついた」


 おうふ。とんだせいしょくしゃ(俗物)じゃん。こっちの世界の記憶から引っ張ってきた知識からいうと、バドーラ教ってそもそも聖職者の結婚認めてないじゃんよ…。


 鑑定!

「処刑執行人ヘイリー・レート46歳。妻子には自分の職業を『国の備品管理官』であると偽っている。」


 ……。えっと、今のお仕事も必要だからあるんだよね。とはいえ秘密にしたい気持ちもわかるような。守秘義務とかもあるかもだし、黙っててあげるから是非私の刑執行を思いとどまってほしい。


 鑑定!

「処刑執行人 モスコ・ガンドゥム。31歳。独身。性病もち。最近娼館のアンナちゃんに振られた」

 ご、ごめん、ナイーブな秘密を暴いてしまった!わざとじゃないんだよぉぉぉ!!

 鑑定使えなさすぎぃぃぃぃ!


 これアレだろ?草原とか森の中に転移で飛ばされた時に役にたつやつ!

 森の中で鑑定っつって、食料になる木の実とか薬草とか見つけるのに便利な奴!


 どうしてコレ選んだわたし!

 私ってば、そもそも転移じゃなく転生じゃんか!

 TPOに合ってないってばよ!





 そう!そうだ!「魔法の才能」

 最後のこれ。

 これならきっと…。


 …ダメだ。口も麻痺して動かないし、詠唱とか無理。

 手も縛られているし、魔法の媒体の杖とかも持ってない。


 おまけにちょっと前まではその辺にいる田舎娘だったんだから、魔法の才能をもらったとか今気がついても!!


 どうすればいいんだ?どうすれば発動する??


 考えろ!わたし!!


 どうすれば逃れられる??


 先ほどまでうつむいていた私が(気を失っていたからだけど)急に顔をあげて、オタオタと焦りだしたのに気が付いた神官様は、私と視線があったのにあきらかに目をそらしてスルーした。


「お認めにならないようです…」


 ちょっとまて!

 お前、人違い(私は無実)だって知ってるよね???

 ということは、私は前世での盗み食いの罪とかでここにいる訳じゃないってことよね?


 OKOK。つまりは今は私の断罪の時間じゃないということだ。


 「罪人をこれへ!!」


 待って、待って!!HELP!!違うの、私は違うの!やめてやめて!!

 

 暴れて逃れようとしても、身体は思うように動かず、口はしびれてよだれが出る始末。


 半裸の頭巾男(処刑人)たちに引きずられ、私はとうとうギロチンの下に乱暴に投げ出され、横たわされた。


 そうして、視界にうつるものを見渡せば、興奮してわめく民衆、正面の特等席と思しきところには偉そうな(お貴族様)人たちが、まるでエンターティメントを待ち構えているかのように目を輝かせてわくわくとこちらを眺めている。


「殺せ!殺せ!」

「悪女の首を落とせ!」

「聖女様を苦しめた罰を!」

「いい気味だ!死んで後悔しろ!」


(血がでるのかな?ぞくぞくするな!)

(裸にひんむけよ。おっぱい見たい)

(ひゃー!傾国と言われた美人もだいなしだな!むしろそれが見たい!)

(牢で拷問されたって話だが、どんな責めを受けたんだろうな。くぅー!ここでやってみせてくれんかな!)


 !!あっくしゅみーーー!!!

 副音声のように、気持ち悪い心の声がただもれですが???

 それに、死んでしまったら転生でもしないかぎり後悔は無理だと思います。…


「死ね!死ね!」

(首を落とせ!高貴な女を辱めろ!)

「早く!早く!悪女を殺せ!」

(死ぬところを見たい!早くあの女が死ぬところを!)


 誰か…誰か…!助けて!

 私は普通の一市民の娘。

 聖女とか知らないし、苦しめてもいない。

 地方の孤児院で育って、さる地方の商家でひきとられ、親子ほど年の違うヒヒじじいに生贄よろしく愛人として差し出されたけれど、その爺がぽっくり死んじゃったんで、正妻(おくさま)に小銭掴まされてて追い出されたんで、仕事を求めに王都へ出てきた、ただの一般市民ですー。

 ちょっと転生とかしたみたいですけど、さっき思い出したところですし、こんな大勢の人から悪意を投げかけられるような覚えもなければ、処刑されるような罪も犯していないのです。


 涙と鼻水とよだれだらけの顔面をお貴族様に向ける。

 あの偉そうな人達は誰なんだ?


 鑑定

 「エストラーダ国第二王子 ジーク・エストラーダ(19歳)野心家。王太子になるべく聖女との婚姻をもくろんで、婚約者である侯爵令嬢を陥れた。偽告者」

 「イーリーン・マルチェ。聖女。上昇志向と自惚れが強い。思い込みも激しく、被害妄想も激しい、幾人も破滅させており、最早『聖女』としての祝福が弱く薄れつつある。召喚された女性。虚言者」


 たぶん、私がこんな目にあっているのはこいつらのせいじゃないかしら…。

でも、なんで私が?平民の私がこいつらと接点あったとは思えないし。

じじいの正妻(おくさま)関係?

いやー、なんか違う。


 私の視線に気が付いて、聖女の方が笑った。あざ笑うような嫌な表情だった。

 そしてその笑みを見られないようにだろうか、傍らの王子にしがみつく。


 王子は王子で、私の方をまるで何も感じていないかのような冷酷な瞳で見ており、しがみついてきた聖女を慰めるかのように、その背に手をあてている。


たぶん傍からみれば、王子が怯えた聖女を労わっているように見えるんだけど、あざ笑っていましたからね、聖女。あの表情は人としてすごく醜いと思います。


そして、合図がされたようだ。


私の首めがけて生命を刈り取る大きな刃が落ちてきてーーー。








消えた。



はい、消えました。



うん、急にひらめいたんだ。しまっちゃえばいいって。


そして、それがスイッチだったらしい。


私の目と口から、ビームが出ました。




何かの力が、自分の身体に集まってきてそれが一点に収束し、そしてそれが光線となって両目から放たれました。


同時にだらしなく開いたままだった口からも何かが身体から集まってきて大きなエネルギーの塊となって放たれます。




ビームは、先ほど私が顔をむけていた方角、つまりはエストラーダ城を背にこちらを特等席で観覧していたお貴族様達が座っていた方向に向かって放たれ、「ちゅいーん」と音にしたら、そんな音がして、遅れて爆発がやってきました。


衣服や髪が焦げそうな熱量と爆風が辺りを襲い、転がされている私以外が吹っ飛んでいきました。

観客(やじうま)も処刑人も。周囲の天幕ごと。


さようならモスコとヘイリー。

処刑人なんて嫌なお仕事でしたでしょうね。でも、もう出来ないかもね。

あの勢いで何かにぶつかったのならば、たぶん生きてはいないでしょうし。


特等席のお貴族様達は一人残らず蒸発しちゃったみたいです。

身体の一部くらいは…残っているかな?


爆風がおさまったのを確認して私は立ち上がりました。






えっと、阿鼻叫喚です。


みんな逃げようと、我さきにと処刑広場から逃げようとしています。


でも、ごめんね?私の放つビームからは逃げられないの。



何が起こったのか信じられなくて、つい見ちゃったの。


 周囲を見渡すたびに、

薙ぎ払われていく群衆。


ごめんね?こいつら気持ち悪いって思っていたからか、嫌悪するものに無意識に照準が合っちゃったみたいで。




 ギロチンを収納し、拘束していた縄も収納し、状態異常の「麻痺」を解消して私は歩きだす。

 うん、ビームが出るのも落ちついてきたみたいだ。

 

 「わわわ、お助けを」


 声かけられたからつい見ちゃったじゃない。ごめんね神官さん。

 どうか安らかに。


 何も残さず蒸発しちゃったけど。


良心は少しだけ痛むけど、あなたったら、私が人違いで処刑されるってこと知ってたっぽいものね。

人を殺そうとしたんだから、間違い(うっかり)で死んじゃう事もあるってわかってくれるよね?


 もう私を処刑しようとする人とかいないよね?

 ギロチンもないし、私は拘束されていないし、私を捕まえそうな人は皆逃げる事に一生懸命だし。


この世界、たしかに「剣と魔法」はあるけれど、私が神様っぽい存在からもらえた能力はこの世界でも異端みたい。

こんな力もっている人の話なんて聞いた事ないよ。



ここに留まっても危険人物として、捕まえられたら、今度こそどうにかして処刑されてしまうかもしれない。


 

 早く逃げ出そう。

 逃げてごまかそう。

 

 みんなが逃げる方向と逆に歩き出す。

 みんなは王都の中心の王城とは逆方向に逃げているから、私は逆に王城のあった方向へ。


がれきと化した王城跡地を歩く。

移動手段にしたい馬とか残ってないかな。

いや、反省はしてるのよ。王城で働いていた関係のない人たちまでビームで崩れたお城の下敷きにしてしまったんだから。


生存者はいないのかしら?

もしまだ生きている人がいれば、できる限り助けてあげようと注意深くがれきの間を歩く。

というか、誰か少しくらいは助けに戻りなさいよ。

皆、我先に逃げ出してしまってからに。


あら?地下にむかう階段があるわ?

地下は幸いとビームの犠牲にならなかったみたい。


わー。ここ地下牢とか言う場所だ。

上物がなくなったんで、太陽の光がさしこんできているけど、うわ、これ人の骨じゃ?

鎖で拘束された人骨だの腐りかけの何かとかが牢の中に放置されてるじゃん。

埋葬ぐらいしてあげようよ。


なんだか奥の方からかろうじて生きている人がいるような反応があるんだけど。

鑑定を「生存者を検索」に絞ってみたら、一人、虫の息だけど反応があるわ。


あれ?この四肢をつぶされた女性は?

 なんか、ここにいるのが不思議なかんじの人だ、なんでこんなところに?


 何をやらかしてこんなところに?


「鑑定!」


え?うそ、この人って?


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