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俺の師匠はなろう系  作者: シラクサ
第一章
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第6話 剣と魔法

 師匠が二度寝から覚めた後、竜人族の姉妹と師匠と共に朝食をとる。壁から見える朝日も美しいものだ。

 

「師匠、壁に穴空きっぱなんですけど」

「ああ、そういえば。どうしよう」

「今日中に直しておくわ」

「え、ごめん。弟子くんが壊したのに」

「あれ? そうでしたっけ? なんかぶっ飛ばされた気がするんですけど」

「いつもお世話になっているから、これくらいは大丈夫よ」

「ほんと? ごめんね」

「ううん、本当に大丈夫だから」


 異種族間に芽生える絆。

 美しいかな。俺にも芽生えないものなのだろうか。


☆☆☆☆☆☆


 朝食を食べ終え、出かける用意をする。

 昨日も言っていたとおり、竜人族領地の案内をしてくれるらしい。


「準備オッケー?」

「はい。まあ俺には服くらいしかないんで、準備という準備もあれですが」

「だね。じゃあ行ってきます! また夕方くらいに!」

「「はーい」」


 姉妹に見送られて橋を渡る。

 竜人族の町は山の上に立っていて、家の一つ一つが石の柱の上に立っている。なので、翼を使って飛べる竜人族ならまだしも、観光客などの為に橋が掛けられているらしい。

 だが、さすがは山の上。風が吹き荒れ、橋が結構揺れる。


「弟子くん大丈夫?」

「だだっだっ大丈夫ですっ」

「……手、握ろうか?」

「お願いしますっ」

「あらあら、朝からお熱いわね」


 竜人族のおばさんに茶化され、師匠は手を離そうとしてくる。


「ちょ、弟子くん。は、恥ずかしいから」

「死ぬんでやめてくださいマジで」

「分かった! 分かったから腕ごと掴まないで!」

「手ぇ離さないでくださいね!?」

「分かったから!! 肩まで掴むのやめて!!」


☆☆☆☆☆☆


 橋を渡って皆の家を紹介してもらっては、また橋を渡る。めっちゃ怖い。


「ここが領長のシルルドのお家」

「はあ」

「いつも忙しそうにしてるから、たぶん今日もいないんじゃないかな」

「へえ」

「大丈夫?」

「床板からはるか下の岩壁が見えて怖いんで、この話はもっと安定した場所でしません?」

「ぷっ……びびりで草生える」

「いい歳した男が泣き出しますけどいいんですか?」

「ごめんごめん。次行こ次」


 膝が笑っている俺を笑っている師匠に連れられて何軒か回り、とある建物の前で立ち止まる。

 

「で、ここが武器屋」 

「ぶき……」


 息も絶え絶え、疲労困憊、心肺停止……はしていないが、一歩手前だ。

 常に下に向けられた視線を上に向ける。見た目は少し大きめの民家。看板なども特にない。武器屋と言えば、ゲームの世界ならよく聞く単語。その名の通り、武器を売っているお店なのだろう。

 扉を開けて中に入る。店の左半分が売店、右半分は鍛冶場になっていた。


「らっしゃい! お? 今日は連れが一緒かい!」


 顔なじみなのだろうか、師匠に気さくに声をかけてくる店主兼鍛冶師らしき人。この人も竜人族だ。


「今日は武器を買いにきました!」

「そこのにいちゃんにかい?」

「そうなの」


 そうなのか、と思って後ろを見る。誰もいない。もちろん右にも左にも上にも下にもいない。


「師匠。俺に武器はいらないですよ?」

「「え?」」


 店主兼鍛冶師と師匠が同時にアホ顔でこちらを見る。そして声も重なる。逆になぜ必要だと思うのか。


「いや、だって使わないですし」

「いざという時は?」

「師匠に守ってもらいます」

「私か……」

「自信を持ってください師匠。師匠ならやれますって」

「なんで私が励まされてるのかな!?」

「師匠がいれば俺に武器なんて必要ないですよ」

「あ、あのね?  前線に出て戦わなくても、自衛のために剣を振るわなきゃいけない時が来るかもしれないの。だから持っててほしいって師匠ちゃんは思うかな」


 師匠ちゃんは思っちゃうか。でも、自衛か。自分の身は自分で守る。そんなことになるだろうか? なるだろうな。

 魔物がはびこり、ドラゴンが肩で風切って歩く……いや、翼で風切って飛ぶような世界だ。もしも、なんて考え出したらキリがない。師匠だって、いつでも助けてくれるわけでもない。自衛はすべきなのだろうな。


「……分かりました」

「良かった良かった」

「その時は諦めます」

「いや踏ん張ってほしいなあ~~」

「冗談ですよ。で、どんなのが良いですかね」

「そうだなあ……にいちゃんの身体に合うやつだと……これかな」


 The・剣という感じの剣。鈍く光り、持ち手の部分は布が巻かれている。


「ほれ、持ってみ」


 カウンター越しに手渡される剣。ずっしりと重く、とても振り回せそうにない。構えるだけで精いっぱいだ。


「ちょ、ちょっと重いですね……」

「弟子くん貧弱だから、軽いヤツにしてあげてね」


 貧弱言うな。虫も殺せない聖人と言ってくれ。剣なんて見たことはあれど、触ったことはない。


「じゃあこれだな」


 店主にもう一本手渡される。さっきの剣とあまり変わらないように見えるが、両手で持ち上げてみる。もの凄く軽く、片手で持ててしまいそうなほどだ。これだったら扱えそう。

 優しさの塊のような俺でも扱える剣の殺傷能力は高が知れているが、護身用としては申し分ない。むしろ扱えなければ意味がない。

 問題はお値段だ。どうせお高いんでしょ~?


「主金属がチタンって金属で、特徴は軽くて丈夫な事だな。まあ、斬る目的としては最高峰。なんて口が裂けても言えねえ代物(しろもの)だが、どうする?」

「弟子くん的には、どんな感じ?」

「さっきの剣より圧倒的に使いやすいです。それに俺が剣を振るタイミングなんて逃げの一手としてでしょ。切れ味は考えなくていいのでは?」

「うーん、まあ合わないようなら買い替えればいいし、いいかな。とりあえずこれで」

「おう、3万コインね」

「あいっ」

「まいど~」


 目の前で行われる金銭のやり取り。

 当たり前だが、これだけ文明が進んでいれば売買の概念はあるよな。3万コインの重みはどんな感じなんだろう。日本円的に考えると、剣が3万で買えるはずがない……のだろうか。剣の価値とか考えたこともなかった。

 とりあえず出費無しで物が買えたという事だ。これがヒモか。まったく最高だぜ。


「ありがとうございました」

「全然。素振りしてみよっか」

「大丈夫ですか? 魔物相手に試し切りとかじゃないですよね? ね?」


 師匠は何も言わないまま店を出て、切り立った崖の元まで歩く。


「じゃあここで」


 師匠は背中の剣を抜く。1.5mはあるであろう大きさの剣を、片手で軽々と持っている。この人は本当に人間か?


「こうやって……こうっ!」


 大きく振りかぶり、縦切りをする。片手で。この人は人間じゃないな。


「さあ、弟子くんも」

「はあ」


 全く気が乗らないまま、促されて剣を持つ。2lのペットボトルよりは軽い、くらいだろうか。もちろん鞘付きだからこその重さではあるが。

 柄を右手で握り、鞘を左手で持つ。ちょっとドキドキワクワクしている。少年心くすぐられるよねこういうの。


「あっ」


 鞘から抜き放つより早く、師匠が隣で何かに気付いて声を出す。今からいいところなんで邪魔しないでほしいんですけど。

 師匠は崖に向かって走り出し、両手をつく。


「あぶないあぶない」


 剣を抜くことなく、腰のベルトに下げる。またすぐ使うことになるだろう。


「今度は何してるんですか?」

「やまくっつけてる」


 ヤマクッツケテル? 何語か分からず、師匠が手をついてる崖を見る。師匠の両手の間に亀裂が入っていて、ドンドン狭まっている。


「…………えっ?」

「まーた切っちゃったよ」


 その言葉、その行動、その表情。つまり、師匠の先程の素振りで崖が割れ、今は両手で力を加えて戻してるところなのか。スケールが天変地異の災害級。

 言ってる俺も半分くらいしか理解していない。


「大丈夫そうですか?」

「分かんないけど、いざとなったら断面溶かしてくっつけるよ」


 断面溶かすという言葉の意味がよく分からないし、それをさらりと言える精神も分からない。


「まあなんとかなりそうなら……」

「あ、ダメかも」

「師匠!?」

「大丈夫大丈夫、溶かすから」


 崖から手を離し、右手を亀裂に向ける。


「ふっ」


 息を鋭く吐き出す声と共に、右手は大きな大きな火球が生まれる。師匠が縦に二人並んだくらいの直径。ドラゴンが火を吹くのはファタジーとしてまだ分かる。

 まさか……師匠もドラゴン!?


「せぇい」


 火球が崖の亀裂の隙間に入り込み、ジュゥウウと大きな音をたてながら断面を溶かす。その後、さっきと同じように、両側の崖を引っ張って閉じていく。


 パッと見は元通りになった。崖を切り離した直後に修復とか、流石に意味が分からない。


「……さっきのはなんですか?」

「力技ってやっだよ」

「そっちじゃないです。いやそっちも凄かったですけど、火の球の方です」

「ああ、あれは魔法だよ」

「魔法……?」

「まほう」

「魔法って何ですか?」

「魔法知らないの? どんな世界で生きてたの?」

「いや同じ世界ですよ」


 知らないわけではない。しかし、この反応。この世界では当たり前のように使われているのか。


「魔法ってのはね? 魔力を使って起こす現象全般を指すのです!」

「まりょくをつかっておこすげんしょう? 何言ってるんですか? 頭異世界ですか?」

「頭異世界って何!? 初耳なんだけど!?」

「俺も初めて言いましたよ。それで? 魔法っていうのは何をどうするんですか?」


 俺の質問に胸を反らせて笑う師匠。そんなことしても胸は膨らみませんよ。

 自信ありげに右手を伸ばす。そして、手のひらを正面に向ける。壁を押してる感じの手の向き。


「そんで、燃えろって感じ」

「燃えろっ」


 真似をしてみたが、右の手からは火も何も出ない。

 完全にかめはめ波を練習している気分だ。懐かしい。こういうの、もういい歳なんだから卒業するべきだとお母さん思いや、やめよう。嫌なことを思い出しそうだ。

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