ゾンビには嫌魔草は効かない
森までは楽勝だった。前回と比べれば。
温かい食事とお湯での身支度がこれほど心と体を癒してくれると思わなかった。
嫌魔草に加えマップ機能に追加された近敵警戒警報機能も深い眠りの助けになった。
とはいえここからが本番だ。
レベルアップした隠身を使い川辺をさかのぼる。やがて魔物が水飲み場にしていそうな場所に到着した。
ここからだ。やりたいことその1。まずはスマホをソイソイしてマップをアンロック。
機能追加されたアイテム検索機能で嫌魔草を探す。
比較的近くに群生地を発見。ラッキー。
群生地自体が狭まらないよう間引きするような感覚で嫌魔草を生えたまま無限収納に入れていく。入れた嫌魔草を前回も通った迂回路に沿って植えていく。これがうまくいけば毎回嫌魔草を消費しなくても比較的安全に往復できるはずなんだ。
作業が終わったらまた川辺を上流に向かい進んでいく。
水飲み場らしき場所に到着するたびに嫌魔草を移植していく。
余裕があるときはほかの薬草類も採取しておく。絶滅させないよう数株のうち1株だけね。
暗くなる1時間前くらいに安全地帯を作ることにする。
これまでと同じように嫌魔草を収穫し、太い木か洞窟を探す。アンロックされたマップに地下までは表示されないけど洞窟の入り口は表示されるから探すのはそれほど大変じゃない。往復することを考えると必要経費といえる。やがてよさげな洞窟が見つかった。奥行はなく魔物もいない。入り口に嫌魔草を移植し洞窟内にも何株か植えておく。光がなくても嫌魔草が育てばいいんだけどそこまで調べることはできなかった。今回洞窟内に植えた嫌魔草は今夜の安全確保の犠牲になってもらう。これは仕方ない。
何事もなく翌朝目を覚ます。
ここからは出来るだけ匂いを広めたくない。でも暖かい食事もとりたい。
そこで使うのが生活魔法の風布。少し多めに魔力を込めれば2時間くらいは壁のように匂いを防いでくれる魔法。モノの移動には何の影響もないから風壁ではなく風布。でもこういうときにはとても便利です。
洞窟の入り口に風布を設置し、洞窟内で簡単に煮炊き。食べたらすぐ隠身を使い一応嫌魔草を持って元のルートに戻る。
2時間後風布が切れた後匂いが拡散してもそのとき僕はその場にいない。
嫌魔草をの向こうからいい匂いがするってんでいいおとりとして足止めもできるかもしれない。
とはいえ油断は禁物。マップ機能と隠身をフル活用し先へ進む。
そのときピローン!新機能のお知らせが届きました。
このとき周りに魔物がいなかったのでスマホを確認。
魔力濃度計の隣に瘴気濃度計が追加されていました。やったね!
すぐに機能ONします。
と、いきなりレッドゾーン。アンテナ5本立っているじゃあないですか。
この辺りで大きな魔物が死んだのかな?スマホの向きを変えると瘴気の濃い方向もわかるようなので、ロビンのもとに向かうのは一時中断。瘴気のもとを探すことにしました。
マップをアンロックしながら進むと、ある地点を中心に動きの遅い魔物が数十匹もうごめいています。
木陰や藪に隠れながら進み一番近くの魔物の様子をうかがうとそれはオークのゾンビでした。
回り込んでほかにも数匹確認しましたがそこでもオルトロスやコボルト、ゴブリンなど多種多様なゾンビが歩き回っていました。中心点も探りたかったけど戦闘せずに向かうのは多分不可能。
なので1つだけ実験。一番端にはぐれていたオークゾンビの足元に嫌魔草を投げ込んでみました。
が、何の反応もせずただゆっくり歩き回るオークゾンビ。
これでゾンビには嫌魔草は効かないことが分かりました。まいったなー。
夜になると活発に動作するといわれるゾンビ。この近くでは怖くて休憩することはできないです。
ま、川沿いから離れているからこっちに来ることはないだろうけどさ。いざとなればボーラーと逃げ足スキルで逃げれるだろう。そんなポジティブシンキングで立ち去る僕。
自分たちを見ていたものがいたとは全く気付かずうごめくゾンビたちはそのあともゆらゆら歩き続けるのだった。
ルートに戻った僕。もちろん隠身ON。
瘴気のことはとりあえず放っておくとして森に入ってすぐと同じように川辺を進み水飲み場付近では迂回ルートに嫌魔草移植を繰り返す僕。
昼が近くなってきたけどできるだけ早くゾンビから離れたかったので町で適当に買った果実ですまして道を進む。
寄り道などしたせいで初めに脱出した時には3日かかった日程も5日かかってしまいました。
が、ここからは魔力レッドゾーンなので危険度は段違いです。
北西に1時間ほど進めば角豚休憩所のひとつがある場所までたどり着きました。2週間も離れていなかったのに懐かしささえ感じます。
ロビンは奥さんと仲良くやってるかなーとかロビンの子供たちは大きくなったかなーとか思いがよぎりついつい笑顔になりながらもしっかり森を進みます。
「ただいまー」
声をかけて集会所に入った僕の目にに衝撃的な光景が飛び込んできました。
血まみれになり動けなくなったのか寝込んでいる角豚が集会所を埋め尽くしていたのです。
「え?どういうこと?大丈夫かよ」
慌てて駆けよる僕。
『ちょっと落ち着け』
聞きなれた声が僕を宥めます。
「こんなときに落ち着いていられないよ。いったい誰が!」
『いいから落ち着け。怪我をしたやつは多いが死んだのは2匹だけだ』
改めて見渡すと血まみれなのは数匹だけでほかはその手当をしているのかかみ砕いた薬草を体に塗っているようだった。
「あ、ロビン。え?ホントにロビンか?」
確かにロビンの声でしたが姿を見ると以前より体も角も以前より一回りは大きくなった角豚がそこにはいました。
「その姿も気になるけどどうしてみんな怪我してるんだよ」
『それがな。昨日の夜ゴブリンゾンビが襲ってきたのだ。俺たち攻撃ではやつを倒せず犠牲が出てしまった』
『しかし以前お前がツタを使ってたのを思い出してなあ。そこの木立にゴブリンゾンビを縛り付けたんだ。だが倒す方法が分からず手当を先に行っていたんだがそこにお前が返ってきたってわけだよ』
ギルドで読んだ資料にゾンビは魔力ではない謎の力で動いていると書いてあったが本当だったらしい。
ふと気づいてスマホを見ると瘴気がレッドゾーンになっている。
集会所の近くにたどり着いたからって気が抜けていたらしい。気を引き締めないと。
「みんなのけがは大丈夫なのか?」
『俺たちの知ってる薬草は塗ったが回復するかどうかはわからん。傷によく効く薬草を他に知らんか?』
そう聞かれ道中採取した薬草とギルドで読んだ簡易ポーションの作り方を思い出しました。
「うまくいくかどうかわからないけど試してみていいかい?」
『頼む』
コウヤク草とヨクナオール草をみじん切りにして平鍋に入れる。
「魔力の高い水のほうが効果が高くなるはずだから水汲んでくるよ」
源泉に行き少なめに水を入れる。
集会所に戻り火をおこし弱火で鍋を煮立たせる。
ドロドロになったところで火から離す。少し冷ました後特に重症の角豚数匹に簡易ポーション(仮)を塗る。
「これで少しは良くなるはずだよ。で、その姿はどうしたの?」
とりあえずの処置は終わったのでロビンに聞いてみる。
『長老たちに聞いたところ完熟したホトルの実を数個食べたことが原因らしい。昔完熟したホトルの実をたくさんたべていた先祖はみなこのような、というかさらに立派な姿をしていたらしい』
なるほど。それなら角豚たちが神獣と呼ばれていたことも納得だ。
「姿が変わったのはロビンだけ?」
『いやほかにも数匹姿が変わったが、今は別の集会所にいる。そこでゾンビの倒し方を知る者がいないか探しているのだ』
「ホトルの実はまだ残ってるから重症の角豚にあげてもいいかい?」
『うむ。頼む』
瀕死の重傷のはずなのに角豚のホトルの実好きはすさまじい。口元に置いただけで無意識でフガフガ食べつくしてしまった。
『あとはゾンビの倒し方だな』
困った顔をするロビン。
でも僕には思いついたことがあった。
「実は僕さ、光魔法覚えたんだよ。それでゾンビ倒せないかな?」
驚きのあまりおかしな顔をするロビン。
『頼む倒してくれ。このまま夜になったらツタだけでは繋ぎきれないのではないかと心配していたのだ』
「おっけー」
できるだけ軽い口調を心掛ける。僕が調べたゾンビの弱点は日光と光魔法そして魔石を砕くこと。
昔遊んだRPGでは回復魔法も弱点だった。
1つがダメでもほかに3つも試せることがあるんだ。どれかひとつは役に立つはず。
それじゃ回復魔法から試してみようかな。
本日2話投稿しました。




