ドアをノックノックノック
それじゃあ買い取ってもらいますか。ドアをノックノックノック。
「すみませーん。買取お願いします」
「・・・おう。入っとくれ」
少し間があってから返事があった。ガチャリ
部屋に入ると2mくらいの横長の机がひとつ。手前に椅子が六脚。左奥にもドアがあるがしっかり閉じられている。
机はカウンターキッチンのようになっていて向こう側にメガネをかけた初老の紳士が座っていた。うん。執事さんと呼ぼう。
「おぬしひとりか?」
「そうです」
「初めての利用だな初心者か。ならドアを閉めてとっとと椅子に座っとくれ。素材はそのあと見せてもらう」
「わかりました」
素直に椅子に座る。
「それじゃあそこのテーブルに素材を出してくれ」
うーん。どうしよう。ゴブリン七匹も乗らないよね。
困っている僕を見て執事さんが言う。
「もしかしておぬしアイテムボックス持ちか?ここで見聞きしたものはほかに他言しないから安心しな。そこのテーブルに乗らないようなら奥に案内するがどうする?」
おお。普通のアイテムボックスもスキルもあるんだね。それじゃいっぺんに出してもいいか。
「それじゃあ奥にお願いします。」
「よし。じゃ入んな」
左奥のドアをカチャリと開けて僕を招き入れてくれた。
普段は施錠しているようだ。
「たまに暴れる奴がいるから普段は鍵をかけてるんだよ」
読心術でも使えるのか?さすが執事さん。ま、表情から読まれてるんだろうけどさ。
奥は倉庫兼解体所?になっていて手前にはキングベッドサイズのテーブルが置いてあった。
「ここなら大丈夫だろ?」
はい。十分です。それじゃまずはゴブリンを。
「ほう七匹かい。新人にしちゃいい出来じゃないか」
続いてホトルの実を。これは値段だけ知りたいから1個のみ。
「・・・・・・」
それから嫌魔草を1本と、道中採集した薬草類をいくつか置いてみた。
でもメモ欄に貴重って書いたあった分は除いて。新人がどうやってこんなものを!的な感じで騒ぎになるのはいやだから自粛です。
「こんな感じですけどそれぞれの金額を教えてもらえますか?」
「・・・・・・」
返事がない。ただのしかばねのようだ。
あれ?もしかしてこれでもやりすぎ?あ!ホトルの実って腐りやすいんだったんだ!どうやってここまで持ってきたとか言われたら困るなあ。なんて言い訳しよう。何が常識かわからないから言い訳も思いつかないよ。こうなりゃ出たとこ勝負です。
「あの?大丈夫ですか?」
「いいことを教えてやろう」
はい?
「完熟したホトルの実自体がここに持ち込まれるのはそこまで珍しい事でもない」
へー。それじゃ安心かも。
「だがな、その場合保管の魔法が必要でな。ここまで美しく熟した状態を保ちながら魔の森からこの町に持ってくるだけで魔力量の多い魔術士でも3人以上は必要になるんだなこれが。戦闘要員は別としてな」
そこでギロッと僕をにらむ執事さんというよりこの迫力は親方さん。
「そしてな、アイテムボックス持ちは別名馬車いらずといって1馬車分くらいの荷物が入る便利なスキルだが、ほかのスキルと併用できないのはちょっと魔法に詳しいものにとっては常識なんだよ」
え、それって。
「それを今日ギルド登録したばかりで魔法もろくにしらない旅人がのほほんとした顔して鑑定してくれと言ってくる。ほかのものから見たらどう見えると思う?ちなみにこの状態のホトルの実なら1個でも魔銀貨1枚だ。しかもほかにも最低銀貨レベルの薬草を何本も出しおって。ちっとは常識を考えろ」
そしてなぜか頭頂にゲンコツを食らう。
「痛っ!なにするんですか」
「しかも素人に毛の生えた程度の腕前しかないとはな。まともに戦えるようになるまでアイテムボックスのことは誰にも見せんことだな。ワシ以外の誰にもな」
え?驚く僕に詳しく説明してくれる親方。
「ワシはこれでもここのギルドマスターだからこのギルドや冒険者を守る立場だ情報漏洩などせぬ。そしてほとんどのギルド員も信用できる。だが口が軽い者や情報を裏に流す者はどこにでもおるということだ。おぬしの住んでいた場所がどんなところかは知らぬが自分の身を守るためにも情報は大切にすることだ」
こんなに分かりやすく危険を教えてくれるなんてありがたい。少しでも早く常識を覚えるためにもさっき地味子さんに教えてもらった魔術研究所に急ごう。
「わかりました。ありがとうございます。それでは」
「まてまてまて。まだ話はすんでおらん」
え?
「ギルドカードの話は聞いていないだろう。その説明をしてやる」
そうだった地味子さんはカードをくれただけでなんにも教えてくれなかったんだった。
「さっきのマイラ、、、おぬしを案内した受付嬢のことだがあれはワシの直属でな。何かあったらワシに直接会わせるように手配しているのだ。今回のように情報をほかの冒険者に聞かれては困りそうな場合にもな。とはいえここまでおもしろいことになるとは思ってなかっただろうがな」
後半はよく聞こえなかったけど気を使ってくれたってことだよね、ありがたい。
「まずおぬしのギルドレベルはGシングルだ。魔物の最低レベルいわれるGレベルの魔物をひとりで倒せる実力があるって意味だな」
なるほど。
「ところでおぬしパーティーを組む予定はあるか?」
首を横に振る僕に親方いや違ったギルマスは説明を続けてくれる。
「それでは詳しいことはパーティーを結成した時に聞くといい。すぐに知りたくば2階の資料室を利用してもいい」
いまは必要ない知識ってことだね。気が向いたら資料見てみよう。
「カードのランクはGからAまで。それぞれそのレベルの魔物を一人で倒せるかどうかだが、現在最高の個人ギルドレベルがCレベルといえばソロ活動がどれだけ大変かおぬしにも想像がつくだろう。あとは、素材採集や護衛は個人の強さとは別だから見た通りカードにも別欄に書いているというわけだ」
「カードになにも書いてないんですけど」
「所有者が意図的に魔力を通すかギルドの魔道器を使わんと見えん」
こんなことも知らないのかとあきれ顔のギルマスだが知らないものは知らないのです。
「ほれ、ここにカードをかざしてみ?」
さっき申請した内容とギルドレベルなどが表示された。なるほど。
「内容が変わるときはギルドで書き換えしてもらえばいいですか?」
「ギルドレベルは九柱神の加護で自動的に更新されるがほかの情報はおぬしのいうとおりギルドで書き換えておる。先に言うておくがギルドカードの偽造は神罰があるから絶対にやめておけよ」
人の悪い顔でニヤリと笑うギルマス。過去におもしろい事件でもあったんだろうね。
「説明はこんなのところか。いやこれが残っていたな」
ゴブリンのわきをポンポンと叩くギルマス。
「ゴブリンを倒しても利用できるのは魔石だけだ。しかしやつらは害獣扱いだから討伐証明として右耳を持ってくれば最大鉄貨1枚にはなるから耳と魔石だけは持ってくるといい。ただし今回は丸ごと持ち込みだから魔石分は解体料と差し引きで合計鉄貨7枚だな。これを解体して持ち込んでいればゴブリンだけでも鉄貨42枚になっていたわけだ。勉強になっただろ?」
素材も持ち込んでなかったら7鉄貨だけだったってことかよ。すっごくよくわかりました。今度から解体してきます。
「他の魔物については資料室を使うことだ。あとで文句を言われてもギルドでは受け付けんからな」
どうせ毛皮が高価な魔物は毛皮を傷つけるなとかでしょ?行きますよ資料室。
これだけ何度も言ってくるのに確認しなかったらバカじゃん。
「それじゃ資料室行ってきます」
「うん。そうするといい。おぬしは素直だが、字を読むと頭が痛くなるとかどうせ倒せばいいとかぬかす冒険者も多いんじゃ。読みたくなくなってきたとしても受付嬢を助けると思って資料を読み通してくれるとありがたい」
大丈夫です。自分の稼ぎに直結する大事な情報なのでこの後すぐ確認します。
「わかりました。それでは」
報酬をもらおうと両手を突き出すと不思議な顔をされた。
「報酬はギルドカードに入金したが現金のほうがよかったのか?変わったやつだな」
「あ、いえ、どうもありがとうございました」
カードに魔力を通すと残金欄に162万700ゼニーと表示されていた。
口頭では魔銀貨とか銀貨とか鉄貨とか言ってたけど統一呼称はゼニーってことなのかな?




