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第八十三話 あけおめことよろ

「こんにちわ、マオール様。本年もよろしくお願いいたしますね」


「おぉ、アインスか。……そういえば、お前たちは今日が年の変わり目か。って、そうだな。今日から新年だな。うむ」


とってつけたかのように、慌てた風に頷く魔王様。


「外は寒かっただろう。まぁ、こっちに来て座れ」


年が明け、関係各所への挨拶周りが一段落したところで、魔王様にも一応、挨拶をすべく顔を出した。

けっして、城での諸行事から逃げたかったとかそういったことではない。ほんとだよ。

虚空に向けて、一生懸命に言い訳をしておく。


「さて。せっかくアインスが来てくれたからな。どうだ、うまいと評判の蜂蜜酒(ミード)を手に入れたんだが、お前も飲んでみるか?」


脇に無造作に置いてある陶器製の瓶を手に持ちこちらに聞いてくる魔王様。

今日は、朝から結構な量のお酒は飲まされているけども、たしかに甘いお酒は飲んでいないなあ。


「では、お言葉に甘えまして」


「わかった」


魔王様は戸棚に置いてあった、結構、値がはると思われる透明度が高いグラスを取り出すと、その中に蜂蜜酒をなみなみと注いだ。

外からの陽光があたり、琥珀色に輝くのがたいそう美しい。


「では、いただきます」


「うむ」


一口、口に含み舌べらで転がすと、ドロリとした濃厚な甘さが口の中一杯に広がる。

何種類もの香草(ハーブ)香辛料(スパイス)も入っているのか、その余韻が複雑な味を醸し出している。

一言でいうとおいしい。というか、この一瓶くらいぺろりと飲めてしまいそうだが、アルコール度数はかなり高めなため、全部飲むと、さすがに酔ってしまいそうだ。


「干し果物にチーズ、それと乾パンもあるが」


「いただきます!」


「う、うむ……」


魔王様が戸棚から食べ物を用意して、手早く皿に並べてくれるので、私は食べることに専念する。

これぞ自然な分業体制な気がする。

もしかして、私たち、良いコンビじゃないですか?


自然に頬がほころんでしまう。

……うう、なんて、幸福な時間だろう。


ニコニコと微笑みを浮かべながら、おつまみ片手にお酒を飲んでいると、魔王様がニヤリとこちらに笑いかけてきた。


「どうだ、アインスよ。久しぶりに俺とカードゲームでもやるか?」


「カード遊びですか。なんのゲームですか?」


「ラービックキューだ。俺に勝てたら、お前にお小遣いをくれてやろう」


「マオール様が勝ったら?」


「ふむ、そうだな。……前回の雪辱もあるし、アインスには脱衣をしてもらうかな」


にやりと笑う魔王様。

ふふん。私に性懲りもなく挑むと?

ちなみに、ラービックキューはトランプのカードを使った麻雀に似たようなゲームなのだが、この前、魔王様とやったときには、鴨葱にしてやりましたよ(第二十七話参照。)。


さあて、今度も身ぐるみを剥いで、私の当面のお小遣いを稼ぐとしましょうか!

私は、カードを小気味良くシャッフルした。


「さあ、勝負ですよ!」


「望むところだ」


◆◇◆◇◆


……。

……あれ、あれれ?


「……う、う」


私の口からは、言葉にならない、呻きのようなものが漏れる。


「なんというか、アインスよ。お前は少し、作戦が単純すぎると思うぞ」


「……」


「……慣れがあるからか、ある特定の札待ちの場合には、いつも似たり寄ったりな手なのが、バレバレだな」


冷静に私の作戦を分析してくる魔王様。


「……ぐっ」


とりあえず、いそいそとスカートを脱いで、上下の下着だけの姿になってしまう私。


あっさりと、身ぐるみを剥がされました。

どれくらいあっさりかというと、ストレート敗けです。一勝もできませんでした。


魔王様は、ビックリするくらいにゲームの腕前が上達しておりました。

これ以上、このゲームをやることは、フェアな戦いというよりも、一方的な虐殺と呼ぶべきもののようなので、私の中での戦意はもうゼロです。


私は、ベッドに上がるや、そそくさと土下座をした。


「ご、後生ですから。こ、ここまでで堪忍してください。お願いいたします!」


必死の土下座アピールだ。

なるべく私の哀願の気持ちをわかっていただけるように、声音も悲哀に満ちたものとしている。

唸れ、私の女優魂!


「相変わらずアインスは、こういった場面だとすぐに敗けを認めるよな」


「……」


「完全に負ける前に逃げ道を戦略的に構築するなんて、実はまだまだ余裕があるんじゃないか?」


「……」


私はだまって土下座を続ける。

これは魔王様からのブラフだ。

もう少しすれば、魔王様がしびれを切らして、折れてくれるはずだ。

私はベッドに額を擦り付けながらも、ニヤリと笑みを浮かべていた。


「……はぁ、仕方がないな」


ふふふ。ほら!

私の思ったとおり。


私は、哀れみの瞳を浮かべながら、上目遣いで、魔王様の顔色を伺う。


だが、そこには、私が意図した、仕方がないな、と私を許す優しい天使の笑みではなく、お前のことは全てお見通しだ、といわんばかりの、地獄の閻魔様の笑みが待っていた。


「じゃあ、M字開脚をして、両手でピースをしてみろ。あ、満面の笑顔でな」


悪魔のような笑みを浮かべながら、悪魔のような命令をしてくる魔王様。


「……ぬぐぐ」


ひー。そんな殺生なー。

ここまで、完全に手玉にとられている。

わ、私の矜持が……。


「ほら、早くしないか」


しかし、ここで冷静に思考を進め、全裸まで脱がされるのがマシか、M字開脚ダブルピースがマシか、ということを頭の中の算盤を叩いて、計算を始める。


……って、算盤が壊れました。

どちらも、恥ずかしいわっ!


体育座りをしたまま、どうしようかと思い悩んでいると、しびれを切らしたのか、魔王様がこちらに乗り出してきた。


「仕方がない。俺が手伝ってやる」


「えっ、ちょっ!」


魔王様がいきなり、私の膝に手をやって、広げてくださいました。

あまりの一瞬なことで、思考がフリーズ。


あと、顔が近い。

お互いの荒い息づかいが少しだけ聞こえてくる。

あれ? もしかして、このまま……。


そんなことを思っていたところで、ドアがガチャリと開く音が聞こえた。


「……」

「……」

「……」


ドアの外から、無言のまま、こちらを見つめるゼクスと目があった。

いつものようにうっすらとした笑顔は変わらず、そのままドアを閉めてくれた。


◆◇◆◇◆


しばらくすると、また、ドアが開いてゼクスが再度入ってきた。

私はすでに急いで服を着て、ベッドで正座をしている。

魔王様は、素知らぬ顔で、椅子に座り、お茶を飲んでいる。

変わり身が早いですね!


「新年、おめでとうございます、マオールさん、アインスさん。次にやるときは、是非とも僕も混ぜて欲しいものですね。あ、でも、お邪魔かな」


そういって、にっこりと笑った。

恥ずかしすぎて、その顔を直視できないので、ひたすら下を向いていた。

恥ずかしすぎて死にたい。

いや、私を殺して。


「……ふむ。おめでとう、ゼクス。ところで、どうした、そんなに困った顔をして」


私の目には、ゼクスが、困っているようには見えず、ただただ、いつものように微笑んでいるだけのような気もするけど。


「マオールさんには、全てお見通しですか。……実は。今、ちょっとしたトラブルを抱えていまして。マオールさんに、一つ相談したいことがあるのです」


「うむ。わかった。お前には色々と借りがあるからな。あとで、相談にのってやろう」


「ありがとうございます。それともう一つ、これは、アインスさんにも関係があるのですが」


「私もですか?」


「はい。実は教皇猊下が、アインスさんを含め、例のゲーゼルライヒの暴発を防いだ功に対して、内々に感謝の言葉を述べたいと」


「私たちに感謝ですか?」


「はい。そうおっしゃっています」


たしか、教皇猊下といえば、ゼクスの親戚だったような。


「俺はパスな。お前たちだけで行ってこい」


「……少しだけ残念ですが、わかりました」


魔王様の発言に微笑みを浮かべながら頷くゼクス。

結局、そういった事情で、魔王様抜きで教皇と面会することとなった。


しかし、教皇猊下。

今は、うちの国に居られるんですね。


とりあえず更新です。

次回更新もなんとか、来週中には書きたいなー、と。

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