表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/138

第八十一話 りっちーさんからのぷれぜんと

「喧嘩みたいだぞ!」

「向こうの通りか」

「よし、見に行ってみようぜ」


……なんだか、店の外が騒がしい。


私はお昼ご飯を食べるために、いつものように城を抜け出し、『白鷺亭』にやって来ている。


せっかく魔王様をランチに誘ってやろうと思い、こうしてほいほいとやってきたというのに、生憎、今日は魔王様は用事があったらしく、部屋に行ってみたら、もぬけの殻だった。


仕方がないので帰ろうとしたところ、部屋の隅で膝を抱えて座っているリッチーのヘイシルさんと目があってしまった。

ヘイシルはいつものモヒカンスタイルで、落ち窪んだ眼窩にあるギョロりとした目玉を、じっとこちらに向けており、ただひたすらに不気味だった。


「きゃっ!」


ちなみに、出会い頭についつい叫び声をあげてしまうのはいつものことである。


「ああ、アインス殿であるか。吾輩、ちょっと相談をしたいことがあって、ここで、貴女を待っていたのだよ」


「う……」


私は嫌な予感しかしなかったので、返事もそこそこに、回れ右をしてみたのだけれど、すぐさま回り込まれ、廊下を塞ぐ形でヘイシルさんが、こちらをじろりと見つめていた。

なんていう、化け物じみた動きだろう。


「こんなところで立ち話もおかしな話ではあるな」


と言われ、今は白鷺亭一階の食堂にて、ヘイシルと向い合わせで一緒に食事をしている。

こんなはずではなかったのに……。

周りからの好奇なもの、珍妙なものを見る視線がとても痛い。


今日のランチメニューはシチューとパンというシンプルな食事だ。

シチューは野菜がごろごろと入っており、割と大きめの肉を柔らかく煮込んでいて、とても美味しい。味付けもクリーミーで、カボチャ風味だ。

うちの王宮でも雇いたいなー、ここのシェフ。

こういった、素朴なご飯って良いよね。


あ。食堂の奥の方の席で、紫色の髪の、女の子が一人でご飯を食べている。

あの子、ここらあたりで、たまに見かける子だなあ。


「……うっ」


目の前から漂ってくる禍々(まがまが)しい瘴気(しょうき)についつい反応してしまう。

目を背けていたい現実が、嫌でも目に飛び込んでくるのが苦痛である。


「そ、それは……」


同じシチューを注文したはずなのにリッチーさんのシチューはなぜか紫色だ。

小瓶から振りかけた怪しげな液体により、すごいビジュアルになってしまっている。

食事を粗末にするなと一言申し上げたい。


「吾輩、グルメであるゆえ」


そんなことを言いながら、にこやかな笑み(ひたすら不気味だ)を浮かべパクついている。

私の食欲が減退していくのを感じる。


ちなみに、城のご飯は見た目がケバく、彩りが豊かすぎ、それに加え、味付けもやけに香辛料を使っているためか、くどい。

あと、色々とマナーとかもうるさくて面倒くさい。


……まあ、一番嫌なのは、父王メルクマから、毎度毎度ゼクスとの進展具合なんかを根掘り葉掘り聞かれて、胃に穴が開きそうになってきているので、なるべく顔を会わせたくない、という事情もあるにはあるけど。

やはり、父親は良いところの家柄に、娘を嫁がせたいらしい。

実に俗物である。


目の前の現実をなるべく見ないようにして、黙々とシチューを食べていると、何か気配を感じたのでつい顔を上げてしまった。

いつの間にか、ずずいっと顔を近づけてきていたリッチーさんと、あわやキスをする、というくらいまで近づいていた。

思わず、仰け反ってしまう。


「な、な、な、なんですか!」


ついつい狼狽えた声をあげてしまう。


「吾輩、貴女へと、今日はビッグなプレゼントをしたいと思っておったのよ」


そういって、この前のピクニック騒ぎのときに、手渡してきた怪しい豆(第七十二話参照。)を、性懲りもなく、またもや出してきた。

あなたには学習能力とかいうものはないのですか?


「これはいりません、とお返ししましたよね? 以前に」


私はイライラしながら、シチューをスプーンでかき回す。

こいつは、まだ、私のことを実験台にしようとしているらしい。


「そういわずに。貴女に協力をしてほしいのである。吾輩の机上の計算が正しければ、これを服用するだけで、なんと、アインス殿の戦闘能力が五百パーセントアップする代物ですぞ!」


……えーっ。

もしヘイシルが言っていることが本当ならば、それってドーピングしまくりでしょ。

人体に悪影響がないはずがない。


「そんなに効果が大きいのでは、身体に負担が大きいのでは? それに、副作用なんかも心配ですし」


私は、こんな胡散臭いものを飲みこむのは怖いので、さすがに飲むのをためらった。


そんな時、背後の方から、ガシャーン、と大きな音がして、何かが食堂の中に入ってきた。

私はその入ってきたものを凝視した。

巨体の警官が、窓ガラスを破り、中に投げ込まれたようだ。全身血だらけになりながら、ピクピクと痙攣している。


「……おいおい。お前たち! こんなところに超べっぴんさんがいらっしゃるぜ! 俺たちみてえな紳士たちと、ちょっとばかし遊んでもらおうぜ!」


顔に刀傷をつけた、がっしりとした体格の荒れくれ者風の男が、回りに(たむろ)っている似たり寄ったりの風体の連中に声をかけながら食堂の中へとずずいっと入ってきた。


……げっ、またもやこの展開。


この作者(ゲームマスター)の引き出しの少なさを完全に理解している私は、こんな連中など、歯牙にもかけない強力な戦力に助けを求めようと、正面に座っていたはずのヘイシルさんの方に顔を向けた。


……おや?


だが、そこはもぬけの殻だった。

皿の中の紫色のシチューだけ、ぺろりときれいに平らげられている。


そして、机の上には、紙の上に豆が一粒と、その紙に書き置きがしてあった。


書き置きには一言「飲みたまへ」とあった。


さくっと更新です。

やはり、前作を単に手直しするのは、非常に楽です。

次回更新は、来週を予定しております。……もしかしたら今週更新できるかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ