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第七十三話 ようへいしがん

……よし。このまま、平穏無事に離宮へと向かってしまおう。


私は、同じ馬車に乗っている目の前のナレンに向けて微笑みかけながら、逃げることばかり考えていた。


「私って、ほら、いわゆる文民じゃない? やっぱり荒事には向いていないと思うわけよ」


「もう、ぐだぐた言うでない。(さい)は既に投げられたのじゃ」


呆れたような顔を向けてくるナレン。


「あうう……」


「ソニヤ様。そろそろ準備を」


「ぬぐぐ……」


カミーナにも促され、渋々と服を着替える。

眼鏡や、ウィッグを使ってちょっとした変装だ。

服装も安全面を考慮して、煮固めて硬くした革製の硬革鎧(ハード・レザー・アーマー)を着込み、その上からフードつきのコートを羽織っている。

なんとなく印象的には冒険者だ。

ちなみに、カミーナも似たような格好をしている。


「ゼクサイス殿やマオール殿もおるし、そうそう間違いなど起こらぬとは思うが、気をつけて行くのじゃぞ」


「い、行きたくない」


「大丈夫じゃよ。そなたの実力は、我もよーく、わかっておる」


「……ソニヤ様。そろそろ」


「……う、うん。じゃ、じゃあ、行ってくるね」


泣く泣くナレンに別れを告げる。


山中に入ってすぐの小休止のタイミングで、カミーナとともに、そっと隊列から離れる。

私たちと入れ違いに、ナレンが手配してくれた影武者たちと入れ替わる。

そろそろ夕方になろうかという時間帯。

隠密活動をするには良い頃合いだ。


「こちらになります、アインスさん」


しばらく歩いたところで、林の影に潜み影と同化していたゼクスの腹心のシルフィが、こちらに向けて手招きをしているところに出くわした。


「こんにちは、シルフィさん。あなたも一緒に?」


「いえ。私は別の用事がございますので。すでに皆様はお待ちでございます。お急ぎを」


シルフィはとりつく島もなく、つっけんどんな態度を示す。


「そ、そんなに急かさなくても……」


ぶつぶつと呟きながら、山中を歩くこと、数十分ほど。そうこうするうちに空き地にでた。

空き地は、急遽こしらえたのではないかと思えるような、実に人工的で不自然な印象を受ける。


空き地の中央には、いくつかのかがり火がたかれ、馬車の客車部分の大きい版みたいな感じの物体が鎮座していた。

人間が十人、いや、二十人くらいでも、余裕で乗れそうな大きさだ。

なんとなく、イメージとしては飛行船のカーゴ部分やゴンドラの乗り物、といった感じだろうか。まあ、なぜか装飾がごてごてと施されており、それなりにお金はかかっていそうだけど。


「お。やっと到着したか。待ちくたびれたぞ」


魔王様が、にかっとこちらに笑いかけてきた。

全身が、黒色の甲冑で覆われており、前に見た暗黒騎士(ブラック・ナイト)さんの格好じゃないですか、とも思ったが、それを突っ込むのも野暮なので黙っておくこととした。

その横に立っているゼクスは、所々、白銀色のピカピカした金属板で補強された鎖帷子(チェインメイル)を着込み、その上に、白いマントを羽織っている。

こちらもこちらで目立つことこの上ない。


「アインスさんに、カミーナさんが到着しましたので、これで全員ですね」


ゼクスがこちらを見て頷いた。

まあ、格好はどんなだろうが構わないとは思うけど、移動するときまで、そんなにごてごてと武装しなくてもいいのでは、なんて思ってしまう。

それでもまあ、敵地へのピクニックというからには、きっと偵察みたいなことをすると思うから、確かに安全な格好は大事だとは思う。

私も、コートを羽織って硬革鎧を着込んでいるしね。


他に来ている面々を見渡すと、オクトーバーは黒色の、身体にピッチリとフィットする薄手の服を着込み、エミーは変わらず黒いゴスロリ服を着込んでいる。この娘もぶれないなあ。


あともう一人、黒色のローブを着こんだ、目の下にクマがある怪しい女性がいた。

顔はまあ普通?

私は魔王様に聞いてみた。


「こちらの方は?」


だが、答えたのは怪しい女性だった。


「……吾輩のことをわからぬとは、悲しいことであるぞ、アインス殿」


その()の声には聞き覚えがあった。


「……も、もしかしてヘイシルさん?」


「左様。吾輩、変装の名人であるがゆえ」


しげしげとヘイシルを自称する女性を見てみる。

声はたしかにヘイシルさんだが、背格好も、顔立ちも違いすぎる。

それ、変装じゃなくて変態の域に達しているでしょう。

……まあ、『姿変化』の魔法でも使っているのだとは思うけど。それならば、もっと、別の姿になってもいいでしょうに。


「よし。全員揃ったから、そろそろ出発するぞ。中に乗り込んでくれ」


魔王様に促され、私たち七名は、ゴンドラ(?)に乗り込む。

中は長辺に沿ってソファが並べられており、座り心地は良さそうだ。

そして、全員が乗り込んだところで魔王様が内側から扉の鍵を閉めた。


しばらくすると、なにか、天井辺りでガチャガチャと音がすると同時、奇妙な浮遊感を感じられた。

まるで、空を飛んでいるかのような……。


「……この移動手段は、俺が手配した、まあ魔法の移動手段でな。窓がないのは仕様だ。途中いくつかの宿場町で休憩を挟むが、ゲーゼルライヒの北部にはおおよそ明日の朝には到着するからな。お前たちはそれまで寝ていろ」


魔王様はそんなことをおっしゃった。

ちなみに通常であれば、宿場町で毎回馬車を変える特急馬車であっても、最低でも二週間ほどかかる旅路だ。

はっきりいって、ちょっと早すぎる。


でもまあ、眠気はあったので、魔王様のお言葉に甘えて目をつぶった。


……。

…………。


「……アインスさん、アインスさん。起きてくださいませ」


「……ん。んへ。あ、あと、五分」


「寝ぼけてないで、早く起きてください!」


「はう」


カミーナの声で叩き起こされた。

牢屋の中だろうが、野営地だろうが、どこでも熟睡することができるのは、私のちょっとした特技だと思う。


「お。やっと、起きたか、ねぼすけ。口元にヨダレが残っているぞ」


「ふ、ふみゅう」


魔王様が、指で、私の口元をぬぐってくれた。

正直、めちゃくちゃ恥ずかしかった。


◆◇◆◇◆


「……で、お前たちは、本当に傭兵志願者なんだな?」


粗末な布製の大きなテント内で、民族衣装に身を包んだ男が、私たちを見回して困惑ぎみに聞いてきた。


「はい! 私どもの腕を高く購入していただけるのでしたら、どなたとでも喜んで契約いたします!」


私は揉み手をしながら、受付の男に、愛想笑いを浮かべる。

笑顔(スマイル)はゼロ円だ。


ここは、ゲーゼルライヒの北方。

ゼクスの発案で、私たちは傭兵として少数民族『カレハ族』側の部隊に潜り込むことになった。

偵察任務だと思っていたら、傭兵として潜り込むこととなるとは。

まあ、せいぜい、魔王様やカミーナの後ろに隠れていることとしよう。


「そ、そうか。では、こちらが報償金の内容だ。食事と寝る場所はこちらで手配しよう」


民族衣装を着こんだ、傭兵志願所の事務のおじさんはめちゃくちゃ安い値段をこちらに提示してきた。

まあ、私たちは傭兵として名前も売れているわけでもないし、女子供ばかりな印象でもあるので、仕方がないけども。


でも、私たちの目的は、まずは、ここの状況を観察すること。この組織に潜り込むことさえできれば問題はないので二つ返事でサインをする。

まぁ、偽名だしね。


「よし。これで契約は成立だ。間違っても敵前逃亡はするなよ。その時は容赦はしないからな」


おじさんがこちらに凄んできた。

たぶん、歴戦の兵士だとは思うのだが、そんなものでは、私には毛ほども恐怖を与えることはできない。

あなたとは、潜ってきた修羅場の数が違うんですよ?


「わかってますよ」


へらへらっ、と笑って答えておいた。

おじさんの怖い顔が妙に歪んだ。

こいつ、頭がおかしいんじゃないか、とでも疑っている視線だった。


◆◇◆◇◆


私たちはあてがわれた粗末なテント内で、これからの計画を話し合うこととした。

やはり、何事も事前準備が大事なのである。


「ゲーゼルライヒの首都でも落とせば良いのではないか? 面倒だしな」


魔王様がやる気なさそうに提案してきた。

明日の朝御飯はパンだったかな、とでもいうような気軽な口調だ。


「お兄様、素敵なアイデアですわ! ほら、あんたたち、さっさと首都を落としてきなさいよ」


エミーが隣で魔王様へと、おべっかを言っている。こちらにむかって、しっしっ、と私を追い払うかのような仕草をしながらだ。中々に器用なことをするな、とは思うが、ちょっとだけ、静かにしていて欲しい。


「ゲーゼルライヒの国王の首一つですむのであれば、まぁ、協力しないでもないな」


オクトーバーが腕を組みながら、一人うなずいている。

こいつは教会に協力的ではない人物を抹殺することに、躊躇を覚えない思考をするらしい。

怖いので、少し離れていて欲しい。


「……」


カミーナは隣で、静かにお茶を飲んでいる。

議論に与するつもりはないようだ。


にゃーお。


ヘイシルは、どこからか連れてきた、黒猫とじゃれつき遊んでいる。

……ん、その黒猫ってもしかして。


訝しげな視線を黒猫に向けてみると、猫はこちらに振り向き、器用にもウインクを飛ばしてきた。


……私を追いかけて『大悪魔』ベリアルもついてきてしまったらしい。


はあ。


私は一つため息をついた。


ここまで聞いていてまともな提案が一つもない。

こんなときに、唯一頼れるのはゼクスくらいなものだ。


一縷の望みをかけて、ゼクスを見つめる。

ついでに、指を組み、お祈りするポーズもしてみせた。

ゼクスは、苦笑しながらも、一枚の紙を私に手渡してくれた。


「私の手の者に、ここの組織を下調べさせてあります。こちらを一読しておいてください」


「あ、ありがとうございます」


「……私たちはどうせ今日の午後にでも最前線に送られます。そこからあとは、相手の軍隊をしらみ潰しに倒して、そのままゲーゼルライヒの領内に入ります」


「お、なんだ簡単ではないか」


魔王様が鷹揚に頷いている。

なんだか、やっぱり行き当たりな気もするけど大丈夫なのかな?


……そんなことを話しているとき、テントの入り口あたりが騒がしくなった。


「なぁ、あんたたち。そんなに可愛らしいお嬢ちゃんたちを自分達だけで囲っておくのは、ちょっとずるいんじゃないか? 俺たちにもちょっとだけ貸してくれよ、な?」


私たちのテント内に荒れくれ者風の男たちがわんさかと入ってきた。


「……あー」


私はなんといってこの場を平穏に収めようかと思案してみた。


ちらりと、横にいる魔王様をチラ見してみると、その眼光に剣呑な光が宿っていた。


……私としては、次の瞬間の魔王様による殺戮パーティーを考えて背筋が凍った。


なんとか更新です。

次回更新は、来週できるように努力します。

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