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第七十ニ話 ぴくにっくにいこう

「……うーん、どうしようか」


私は自室の椅子に座りながら頭を捻る。

紅茶を一口飲み、背後に立っている、私の従僕を自認する大悪魔ベリアルの方を向く。

見た目は美少年だが、その顔には、邪悪な笑みを張り付けている。


「このまま、あの人たちが魔王様たちに喧嘩を売るのを黙って見ているのは、非常に危険すぎると思うんだけど、ベリアルはどう思う?」


「……ソニヤ様のお手を煩わせる必要など御座いません。このベリアルめが、連中の指揮官どもをすぐにでも根絶やしにしてまいります。百や二百程度の被害で宜しいでしょうか?」


ベリアルが、今日の朝食はパンですかね、とでもいった気安さですごいことを提案してきた。

危険きわまりない提案だが、ベリアルにとっては、本当に朝食のパン程度のことなのかもしれない。


「それだと、魔王軍からの先制攻撃ととられて、彼らはますます意固地になってしまうと思うの。もう少し、被害が少ない穏やかな方法を使って、なんとかできないものかしら」


「それでしたら、やはり、百や二百程度の者を精神支配(マインド・コントロール)して、やつらの国の戦略を変更しさえすれば」


「それだと目立ちすぎでしょ。それに、それだけのことをするのに、一体どれだけの魔力を私が代償に支払わないといけないのよ」


「くふふ。ソニヤ様の魔力は美味なれば」


恍惚な表情を浮かべるベリアル。

自分の快楽を計算に加えないでほしいが、悪魔だから、まあ、無理か。


「うーん。やはり、みんなの力を借りるしかないのかなあ……」


私はやはり、自分一人の力で解決することに限界を感じ、頼りになる仲間たちに助力を求めることとした。


◆◇◆◇◆


「……という話をソニヤ様より伺ったのですが。姫は、ことのなり行きを大変心配されておりまして、皆様のお知恵をなんとか拝借したいと申しております」


ここは、王都トルテ中央市場にある、馴染みのパン屋兼喫茶店。

みんなと一緒に何度か利用したことがあるので、今回も集合場所に利用した。

店内は、もみの木や、キラキラした小物であふれている。

なんとなく、クリスマスっぽいイメージだが、まさか救世主(メシヤ)様はこの世界にいないよね? ね?


私はこの最悪な方向へと転がり落ちている状況をなんとかすべく、仲間たちに相談することとした。


集まってもらったのは商工組合(ギルド)のゼクスとその付き人のシルフィ、ダライ・トカズマ帝国の元皇帝ナレン、それと侍女のカミーナ。

魔王様と、その妹のエミー、友人の不死王(リッチー)ことヘイシルさん。

あとは、西方教会からもオクトーバー司教にも参加してもらった。

私を含めて九名もいるので、奥の方の席を三つも占拠してしまっている。

一応、会話が漏れるとまずいので、ゼクスに頼んで防諜処置はしてもらった。

こういうときに、非常に頼りがいがある人物である。


今回集まった人物たちは、初対面の人間がそれなりにいるからか、お互いに値踏みするかのような視線を送りあっている。

特にヘイシルが、この場では非常に浮いている。無理もない。


今回相談する案件は、本質的に軍事情報でもあるので、こういった軍の機密情報を、魔王様にダイレクトに流すことについては、なんとなく気まずい。

例えて言うと、私自身が祖国を裏切るスパイのような気がしないでもないけれども、この非常事態においては、気にしないこととする。

というか、たぶん、すでに知っていると思う。


「ふははは! そんなものは簡単なのである。吾輩秘蔵の道具を貴女にお貸しするので、それを用いて奴らに無双してくるがよかろう」


周りからの視線に動ずるそぶりも見せず、そう宣言するや、ヘイシルさんが、緑色の小さな豆を私にくれた。


「食べるなよ、アインス。ヘイシルの造った魔法の道具など、どうせろくなものではない」


魔王様が優雅に紅茶を飲みながら、ざっくりと否定する。

なぜか、エミーもその隣でエッグタルトをパクつきながら頷いている。


私は受け取った豆をどうにかしようと周りを見渡してみるが、誰も受け取ってくれなかったので、渋々と、ポケットにしまっておく。あとでどうにかしよう。


「おぉ、マイソウルフレンドよ。なんというひどい言いぐさ!」


大仰(おおぎょう)な仕草で頭をふるヘイシル。


「それは、吾輩が端正込めて開発した新作。……ただ、まだ、人間には試していないので、治験に付き合ってもらえると、大変うれしく思うのであるが」


嫌よ!

なぜに私を実験台にするの?


「……はぁ」


私はため息を吐いた。

このままヘイシルと話をしていてもまったく埒があかないので、カミーナに視線を向けてみる。


「私には判断いたしかねます……」


カミーナは、片手にカップを持ちながら、視線を彷徨わせて目を合わせてくれなかった。

それではと思い、西方教会のオクトーバーに視線を向けてみる。


「世俗の出来事にはちょっとな」


オクトーバーは苦笑だけ返してきた。


「どう転ぼうとも大問題になるな。あ、我はもう隠居の身なので、たいしたことはできぬぞ」


ナレンが深く頷いている。


「あはははは! 良いんじゃないの。そのまま戦争でも」


エミーは、私にフォークを突きつけながら、楽しそうにけらけらと笑いつつそう言い放った。

まさに、完全に他人事だ。


「……」


シルフィはゼクスの顔色を伺っている。


「……うーん」


ゼクスに視線を向けてみると、コーヒーのカップを机に置いて、少し思案をしてから口を開いた。


「今、お話のあったゲーゼルライヒですが、僕が調査した範囲では北部の少数民族との間で、小さな火種を抱えておりまして。ここの問題が大きくなると、もしかしたら、魔王軍どころの話ではなくなるかも知れませんね」


「……ゲーゼルライヒの北部。ああ、あの少数民族か。あの辺りは教会の教えが浸透して間もないからか、土着の信仰団体が未だに幅をきかせていて、こっちには情報があまり入ってこないんだよな」


オクトーバーが、ゼクスの言葉を捕捉する。


「よし! じゃあ、今からピクニックにでも行くか」


本当になんでもないことのように魔王様が宣言をした。


「え? ピクニック?」


私は目を(しばた)かせる。


私が他の人間に目を向けると、他のみんなも否定はしなかった。

もしかして、年の瀬なのに、皆さんは暇人なのですか?


「あ、でも、私はソニヤ姫のお側にいないと……」


私はみんなと違って荒事には向いていないので、皆様からもたらされる朗報を待ちたいところではあるのですが。


「我は残ろう。そして、アインス殿の件は我にまかせよ。アインス殿は、大船に乗ったつもりで、ピクニックに行くがよかろう」


良い笑顔でナレンがサムズアップをしてきた。

こういうときだけ、無駄に有能な友人である。


「あうー……」


どうやら私の退路は塞がれたらしい。


さくっと更新です。

次回は、本編を書くか、閑話を書くか、若干、悩むところです。

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