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第七十一話 せんらんのよかん

「お呼びでしょうか、父上」


「うむ」


そこで押し黙る父王のメルクマ。

こちらをちらりと一瞥して、嘆息をした。

少し疲れているみたいだ。


「……急な話ですまんが、ソニヤよ。ともに会議に出席してもらえるかな?」


「会議、ですか」


自室でごろごろとしていたら、父王に呼び出された。

仕方がないので侍女のカミーナに手伝ってもらいドレス姿に着替え、国王の私室へと参上したところ、先ほどの会話となった。

私になにやら仕事をさせたいみたいだが、今日は朝から特に予定がなかったので、こういった形で仕事を急に入れられるのは正直辛い。


「……こんなことをお前に頼むのは、正直、気が引けるのだがな。しかしそれでもそなたの才については、これはもう、わしは確信しておるしな」


なにやら、ぶつぶつとつぶやく父。

しかし、才能って、何ですか?

私、特筆するようなもの、持っておりませんよ。


「まあ、そなたは会議中、わしに助言をするだけでよい。それ以上は求めぬ」


「助言、ですか」


私はいったい何をしゃべればよいのですか?

正直、何をさせられるのかがわからずに怖いですが。


「よし、そろそろ時間じゃ。では、ついて参れ」


「……はい」


仕方なく、父王の後ろをホイホイと黙ってついて歩く。


しばらく王宮内の廊下を歩くと、一階にある外国使節団との交渉ごとによく使われる大広間へと連れてこられた。

大広間は、わざと豪華絢爛、華美に作られている。

その目的は単純明快で、我が国の国力をなんとかして諸外国に誇張してみせようという涙ぐましいものである。

壁や天井の装飾をみるに、いくつもの努力のあとが見て取れて、少し物悲しくなる。

実際に経済力があるゼクスのギルドの邸宅におけるお金の使い方、隣国ライナー王国の芸術センスなどを実際にその目で見て、知っている身としては、大広間に入った感想としては、「痛々しい」という言葉以外、ひねり出すことができなかった。悲しい。


大広間には、中央に大きな長机が一つ設えられており、その長机には、体格ががっしりとしている、制服を着こんだ男たちがずらりと勢揃いしていた。

我がシュガークリーとは異なる制服であり、どこかの国の軍人という印象だ。


私は会釈をして長机の末席に座る。

私のドレス姿は、明らかにこの場においては、場違いな感じだ。

その感想は、会議に参加している制服姿の男たちも同じように思ったらしく、(いぶか)しげな視線を、父王メルクマと私とに、交互に向けてきた。


「お客人がた。その猜疑(さいぎ)の気持ちはわからぬでもないが、すまぬが、わしの娘を会議に出席させていただきたい」


そういって、男たちを見回す父王。


「こやつは、こう見えて軍事の才がある。客人がたのお話を側で聞かせても悪くはないはずだ」


「……陛下がそうおっしゃるのであれば」

「異論はありませぬ」


男たちは渋々といった体で、私の同席を認めてくれた。

その顔つきをみるに、あまり私のことを良い風には思っていなさそうだけど。


「メルクマ陛下。此度、我らとの面会を許可いただき、誠にありがとうございます」


「うむ。大義である」


「我らが使命は、この書状を陛下にお届けし、我が国ゲーゼルライヒの国主様の言を、陛下へとお伝えすることにございます」


ゲーゼルライヒ。

私の知識の中では、経済力を軍事に全振りしてている老舗(といってもうちと歴史の長さはそんなに変わらないはず)の軍事国家だったはず。

その国の特徴から、軍人の声が大きい面倒な国だ。

でも経済力はそんなに高いわけではないので、軍の装備はそこまで良いものではなく、徴兵で集めている兵力の数だけは多い国だ。

しかし、その数は侮りがたいものがあり、我が国の軽く十倍以上の数をもち、その軍における戦略教義(ドクトリン)が、数で相手を圧倒すべし、という、人海戦術を採用していることからわかるように、非常に面倒なお国柄だ。


「たしかに書状は受け取った」


父が書状に目をとおす。

そして、一つうなずくと、従者に書状をわたし、そのまま私のところへと持ってこさせた。

まあ、目をとおせ、ということだろう。


急いで書状に目をとおす。

現在も魔王軍に占領され続けている、シュガークリーのガイコーク砦を奪還するため、ゲーゼルライヒからの戦力派兵の準備が整ったこと。

憎き魔王軍を打ち倒すために、我が国と協力してことにあたりたい、という一方的な戦争の援助の申し出だった。


って、おいー!

今の魔王軍との中立を一方的に破棄して、魔王軍に攻めこむなんて、自殺行為も良いところじゃないの。


「こんな、無茶苦茶な!」


つい、言葉を荒げてしまった。

ダライ・トカズマ帝国のナレンですら、表向きは魔王領への進軍は隠していたというのに。

その行為の破滅的な結果をわかっていたからこそ、公にはしなかった。

それに加えて、彼女にはゴーレム軍団という奥の手があったので、まだ勝率はあったが 、この軍事国家ゲーゼルライヒには、愛国的な自己犠牲精神をもった大量の兵士くらいしか武器がない。いったいどれだけの被害を出すことを想定しているのか。


「父上! あまりにも無謀です! 魔王軍に対する休戦協定をこちらから一方的に破棄するなどと。……もし相手からこちらへと反撃があったら、それこそ、我が国は魔王軍からの一方的な蹂躙(じゅうりん)を受けますよ!」


「言葉を慎まれた方がよろしいぞ、姫! 我が国からの軍は一騎当千の(つわもの)ばかり。魔王軍など相手にもならぬことを、とくとご覧にいれましょうぞ!」


男たちが大言壮語を吐く。

しかも、私の言葉は彼等にとって何らの価値を持つものでもないらしい。


「父上!」


「……すまぬ、ソニヤ。領土を預かる国王としては、砦奪還を大義名分にされると断れぬ。しかし、ソニヤの見立てもようわかった。ありがとう。さあ、ソニヤは疲れている、部屋で休ませるようにせよ」


「父上!」


そういって、私を会議室から追い出してしまった。


ど、どうしよう!


このままだと、私がへし折ったはずのバットエンド行きのフラグがまた復活してしまうかもしれない……。


ど、どうにかしないと。

嫌な汗が頬を伝うのを感じた。


今回はちょっと短めで。

次回は、来週には更新する予定です。

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