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第七話 こけつにいらずんばこじをえず

「…………」


「……ふむ」


馬車の中で、急に顔色が真っ青になり、がたがたと震えだした俺の異変に気がついた父、メルクマ国王が、気をきかせてくれたのか、夜に予定されていた国王帰還を祝する晩餐会の欠席を認めてくれた。


「ははは。きっと、陛下の顔を見て、安堵のあまり、緊張の糸が切れてしまったのございましょう。姫のガイコーク砦での御苦労を思えば無理なからぬこと。しばらく休めば良くなりますぞ」


急ぎ担ぎ込まれた、王宮の俺の自室にて、お腹を触診したり、尿の色を見ていたりした主治医が満面の笑みを浮かべてそういった。


馬鹿め! 全然ちがうわ!


俺は弱々しい微笑みを浮かべながら、心の中で毒づいた。


しかし、この世界。一般の医療のレベルは極めて低い。

中世ヨーロッパさながらである。

まぁ、経験に基づいた診療と、動植物さらには鉱物なんかから抽出された医薬品に基づく治療がメインみたいだ。

だが、この世界の元の世界との最大の違いは、偉大なる魔法の有無。

ただし、この世界での魔法は、禁忌のそれに近いものがあり、人間世界においては、原作ゲームで登場していた『教会』の中でも選ばれたエリートである『聖騎士(パラディン)』などと呼ばれている者たちを筆頭に、ごくごく一部でしか使用者がいない。

それに対して、魔法の道具なんかについては、教会から幾ばくか供給されているみたいであり、それなりの額を積めば誰でも手に入れることができる。例えば、ポピュラーなところだと、食品貯蔵のための冷たさを蓄えておくことが出来る金属製の板や、明かりがわりになる光る石、などが市場で出回っている。

ただし、それらは永続して使えるものではなく、内蔵された魔力が尽きると使えなくなるので、たまに買い換えないといけないみたいだ。

要は電池内蔵式のクーラーと灯りみたいなものである。


魔法に関しては、大金をつんで、かつコネがあれば、そういった教会のエリートたちの回復魔法を利用することができるので、ある程度の重度な怪我や病気も治してもらえる可能性がある。

ただ、優秀なレベルの魔法の使い手は、世界でみても数えるほどの人員しかおらず、うちのような小国(シュガークリー)レベルであれば、主治医といえど、魔法は使えず、一般の医者に毛が生えた程度のものでしかない。


ちなみにうちの王家では、数代前の王様が、熱心に教会に寄進していたみたいで、相当、教会とコネがあったみたいだったのだが、最近はとんとご無沙汰らしい。

したがって、うちの国の教会には、神父として実力者があまり常駐していないらしい。

そう考えると、病気をしたり怪我をしたりすることは、かなりリスクが高いことであり、気を付けないといけない。


主治医による診療を終えた俺は、自室のベッドへと潜り込み、シーツを頭から被りながら、一人思案に耽る。


……しかし、なぜ魔王が、あんなところに一人でいたんだ?

……あれの目的はなんだ? 敵情視察か? 物見遊山か?


だが、敵情視察ならば、一人でやって来る理由がよくわからない。というか、そもそも魔王の軍とうちの騎士団との力の差がありすぎて、シュガークリー王国の内部を調査する必要すらないのではないかとも思える。

では、物見遊山だと仮定すると、それこそ、意味が不明である。なぜ、魔王が供もつけずに一人でうちの国へと観光などに来るのか。


……それとも……まさか、(ソニヤ)が目当て、とか?


でも、それこそまさかだ。

たしかにゲームでは、囚われたソニヤと魔王とは、仲良く(?)することが運命付けられてはいるのだが、現時点で二人にはなんらの接点もない。

たしか、一度も出会ったことはないはずだ。


魔王ともあろう偉大なるものが、なんの取り柄もない、一介の小国の姫一人に対して執着する理由なんてまったくないはずだ……と思う。


様々な疑惑が心の中に浮かんでは消える。

もしかして、俺の見間違いだったのではないか。

そんな風にも思えてくる。というか、そういった思いにすがりたくなる。


しかし、そんな悶々とした状況が続くことは精神衛生上、とってもよろしくないのである。


しかも、仮に、そう、仮にだが奴の目的が(ソニヤ)であるとするならば、王城に立て籠っていたところで万全とは言いがたい。


なにしろ相手は、魔法の使い手としてはこの世に並ぶ者がいないと讃えられる、伝説の『妖精王ディードリッヒ』と、人外の怪力や魅了、不死などの特殊能力のかたまりであり、伝説に謳われる最強の真祖吸血鬼である『吸血姫シュタインターク』という最強夫妻の息子(『鬼畜凌辱姫』取り扱い説明書から抜粋)という、チート魔王だ。


戦略ゲームで例えれば、ユニット一人で、敵軍全てを壊滅できる、動ける『戦略兵器(マップウエポン)』であり、ロールプレイングゲームでいえば、無限のヒットポイントと、マジックポイントを持つ勝てないという設定をされたボスキャラだ。


……無理ゲー。というか、侵攻を防ぐ手段すらない。


うーうー、とベッドの中でシーツにくるまりながら、七転八倒を繰り広げる。


が、しばらくして、俺は決心をした。


「虎穴に入らずんば虎児を得ず!」


自らを奮い立たせるように叫んでみた。

気合いを入れるためには、丹田(ヘソの下あたり)に意識を集中すべし! と、俺の武術の師匠もいっていた。

丹田に気を集中するようなイメージを頭の中に浮かべてみる。


……うん。気合いが入ってきた!(著者注:効能には個人差があります。これは個人の感想であり(以下略))


こんなところでぐずぐずしていたとしても、なんにも問題は解決しない。


魔王が、その気になれば、城へと一人で攻め込んでくることだってできるのだ。

そして、俺一人くらい連れ去ることも……。


そう考えると、部屋でシーツを頭から被っていたとしてもまったく安全とは言えず、なんの解決策にもなっていないことは自明である。


……よし、やってやろう。


俺は腹をくくって、魔王と接触することにした。

うじうじと考えていたところで、魔王の脳みその中の考えがわかるわけではない。


俺は頭から被っていたシーツを、脇へと放り投げ、ベッドから飛び起きた。

そして、一つのびをすると、部屋の壁際にあるタンスへと近づき、服を物色する。


そして、王室出入りの商人から購入した、いつもの脱け出しセットを素早く身につける。


白色のブラウスと紺色のスカートのセット。

衿元はきっちりと、スカートとお揃いの紺色のリボンでコーデ。

しかも、黒タイツも履いて、絶対領域もちゃんと確保する(個人的な趣味)。

そして革製のブーツをきっちりと履いて、水たまりなどの悪路にもバッチリ対応だ。


髪の毛はストレートの長髪を、ツインテールに結ぶ。

……ちなみに、髪の毛を自分で結ぶのに慣れるまで、結構苦労したものだ。


そして、前につばがあり、トップにボリュームがある帽子を被る。

これで結構見た目の印象が変わる。

鏡の前で一周、くるりと回転し、軽く確認をしてみる。

なんとなく『童貞を殺す服』みたいに見えなくもない。


よし。変装、ばっちり。


これで、遠目に見ただけでは、ソニヤとはわかるまい。


……そして、最後に、極めつけとして、秘蔵の逸品、魔法のメガネをつける。


これは、王宮(うち)にあまり出入りをしない、流れの二人組の商人から買い付けた逸品だ。

なんでも、『欺瞞(ディセプション)』の魔術がかかっているらしい。

たしかに、俺が商人から買い付けたときに、効果を証明するとばかりに、試してみてもらったのたが、メガネをつける前は、商人の顔はふくよかな印象だったんだが、このメガネをつけてみると、あら不思議、見た目がシャープな印象となり、たしかに装着前とは別人のように思えた。


俺はこの魔法のメガネを装着して、鏡で隅々まで確認して、問題がないかを念入りに確認する。


……あ、そういえば、魔法の効果は装着者には効かないんだった。


鏡で見ると、単に、ソニヤがメガネをつけているようにしか見えないが、まぁ、黒縁のフレームが結構太いので、これはこれで、印象が変わる。

さすがにお忍びで外出するので、カミーナたちに確認をしてもらうことはできない。


でもまぁ、これで、大丈夫だろう。


「ふーっ。よし!」


俺は、一つ深呼吸をすると、覚悟を決めて部屋を出た。

そして、事前に把握していた城内の警備体制の隙をついて、外へと抜け出す。


城壁の普段使われていない用務用のドアをそっと開け、俺は夕暮れの街へと一歩を踏み出した。


こんな時間に、今まで城下町へと外出をしたことはないが、へその下あたり、丹田に力を込めて、萎えそうになる自分の弱い心を鼓舞する。


やってやる!


不退転の決意を秘めながら、俺は、魔王を探すために街中へと鋭い視線を向けた。


◆◇◆◇◆


……数週間前のとある日。シュガークリー王国の王都トルテと他の街とを繋ぐ沿道にて、二人連れの男がトルテから逃げるようにして早足にて歩いている。


「……しかし、兄貴。今回はうまくいきましたね」


見た目がまるっこい小男が、シャープな顔つきの男をヨイショしている。


「まったくだな。あのアホ姫の顔を見たか。俺様のトリックをまったく見抜けなかったようだしな」


「兄貴の瞬間変装術は、いつみても鮮やかでしたねー」


「まぁ、これでも昔は、盗賊ギルドで、それなりに有名だったしな。がーっはっは!」


「しかし、魔法の効果なんてまったくないって、あの姫さん、いつ頃気付くんでしょうね?」


「今日すぐにでも気付かれることもありうるから、こうして、さっさと逃げ出してんじゃねーか」


「そ、そっすね……。じゃ、さっさと逃げましょうぜ、兄貴」


「そ、そうだな。よし、行くぞ」


二人は歩く速度を少しだけあげた。

しかし、まさか彼等にしても、数週間経った今でも、そのアホな姫が眼鏡に魔法の効果などないことに気がついていないとは思いもしなかったのである。


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