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第五十九話 うんめいのはぐるま

「裏庭にも見当たりません」

「街中も捜索しておりますが未だ発見できず」

「城門でも、それらしき人物は通っていないとのこと」


次々と兵士たちからの情報が王宮に届けられる。

侍女のカミーナと、ダライ・トカズマ帝国の元皇帝ナレンとは、それらの情報を集め、分析してみたが、皆目、ソニヤの手がかりといえるようなもの発見することができなかった。


「……ゼクサイス殿たちでさえ、全容は掴めておらぬのだ。我らができることなど限られておろうよ」


憔悴するカミーナを(おもんぱか)って、ナレンがカミーナの背中を撫でてやっている。


「しかし、今、この瞬間にも、ソニヤ様が……」


今まではなんとかなっていたものの、今回は、最初からソニヤの拉致、ソニヤへの害意を、もった上での犯行ということである。

ゼクスたちが捕まえた下手人の一人は、魔王軍所属のオーク兵士ということがわかったこと以外、そもそもなんらの情報を与えられていないらしく、どれだけ厳しい尋問をしたところで、その目的などの情報が得られなかったという。


「もう、我々にできることはないのでしょうか……」


「弱気になるでない、カミーナ。そなたがやらねば、誰が主人を助けられるものか。今、一番やらなければならぬことは、ソニヤの居場所を見つけ出すことぞ。……誰ぞそれができる者はおらぬものか」


「そうですね。……一人いるとすれば、あのお方、マオール様ならば、もしかして」


「うむ。マオール殿であれば。だが、かの人物はゼクサイス殿の手腕をもってしても未だに見つけられぬ御仁。……それに現状、兵士たちの人員を割いて大っぴらに探させるのも得策とは思えぬ」


「そうですね。……では、あの方がいそうなところを中心に私たちだけで探してみましょう。なにもしないでここで待つ、というよりはよっぽど有意義な気がいたします」


「そうであるな。……それにそなたは、ソニヤと共に過ごした時間も長い。そなたであれば、もしかしたら、見つけ出すことができるやも知れぬ」


カミーナとナレンの二人は、いてもたってもいられない気持ちで、街中に飛び出していった。


◆◇◆◇◆


「……お嬢さんのような素人では、空を飛ぶのも初めてだったろう。怖い思いをして、泣き叫んだり、お漏らしをしたりはしなかったかな?」


偉そうにふんぞり返って座っている、軍服姿のオークの言葉にあわせて、がははは、と周りのオークたちが、一斉に追従の笑いを行った。


その不快な笑い声を聞いて、私は顔をしかめる。


「ここはどこですか?」


萎えそうになる心に渇をいれ、少しでも情報を引き出そうと、目に力を込めて偉そうなオークに問うた。

少しでも気を抜くと心が暗闇に捕らえられ、諦めという沼に引きずり込まれそうになる。

だが、まだ、ここで諦めるわけにはいかない。

私を助けるために、きっと皆が頑張ってくれているはずだ。

その私が、いの一番に諦めることなど、どうしてできようか。


「さる、やんごとなきお方がな。そなたに最大限の辱しめを与えよとの仰せだ」


そこで、一旦、言葉を切り、軍服オークは好色そうな下卑た笑みを浮かべた。


「我々が用意できる最大限のおもてなしを準備させてもらったよ。……入れ」


その軍服オークの声に合わせて、オークが四体ぞろぞろと入ってきた。

周囲にいる通常のオークよりも一回りは大きい屈強な体躯を誇っている。


屈強なオークたちは、一糸纏わぬ姿で、その筋骨粒々な姿をこちらに見せつけている。

しかも、その腰にあるモノが、まるでバットのようにそそりたっていた。


サーッと血の気が引くのがわかった。

むりむり!

例え、このソニヤの身体をもってしてもあれはムリ!

壊れてしまう!


知らず知らず、奥歯がガタガタと震えだす。


オークたちが何かの準備のためなのか、私の手首の戒めをときはじめた。


チャンス到来!


私は手近なオークに体当たりを食らわせようと身構えるが、自由になった片手が、オークによって捻りあげられる。


「いっ!」


痛い!

思わず飛び上がりたいほどの叫び声を上げたくなる。

だが、あっという間に両手を二体のオークにそれぞれがっちりとおさえつけられ、とても逃げられるような状況ではなくなった。

こいつらは、まさに拷問のプロフェッショナルだ。


まるで、万力に捕まれているかのように、まったく身動きが取れない。


私の前に立った屈強なオークの一体が、注射器のような器具を構えている。


「……ひっ!」


口から悲鳴が漏れでてしまう。


「安心しろ。その薬を打てば、たちどころにお前の意識は混濁し、あとは、ただただ永遠に続く、快楽に身を委ねるだけだ。さぁ、楽になるがよい」


偉そうな軍服オークの言葉に、わははは、と回りのオークたちも調子をあわせて一斉に笑いだした。


私はその笑い声を遠い世界の出来事のように聞いていた。


◆◇◆◇◆


カミーナとナレンは、方々を歩き回り、魔王の痕跡を探した。

だが、その姿を捉えることはできなかった。


「これだけ探してもダメなのですか……。私が、ソニヤ様の側を離れなければ、もしかして……」


「そう、自らを責めるでない、カミーナよ。最後にまた、マオール殿の寝床に行ってみようぞ。もしかしたら戻っているやもしれぬ」


「そうですね……。しかし、時間がもう……」


探索を始めて、すでに半日が過ぎている。

人一人を処分するには十分過ぎるほどに長い時間だ。


最後の望みをかけて、二人は魔王の常宿「白鷺亭」までやって来た。

カミーナが宿の階段をかけのぼり、部屋に駆け込む。

だが、魔王の部屋はもぬけの殻だった。


「……」


カミーナは、へなへなと、そのまま床にへたりこんでしまった。


「……落ち込むなカミーナ。そなたは、主のために立派に務めを果たした」


そんな姿を廊下から悲しげに見つめながら、ナレンは、カミーナを慰める。

だが、その言葉はどこか空虚だ。


「……ソ……て」


「ん?」


「……ソニ……を……て」


「ど、どうした、カミーナ」


「ソニヤ様を誰か助けてください! うわーん!」


カミーナが、ついに堪えられなくなったのか、大声を出して泣き叫び始めた。

ナレンも、カミーナが子供のようにこんなに感情を爆発させるのを初めて見た。


「……おいおい。いったい、これはなんだ?」


「……へ?」

「……お」


「二人ともいったいどうしたというのだ?」


魔王はふらりと部屋に戻ってきたところで、カミーナが床で泣きじゃくり、ナレンが困った顔で突っ立っているところに出くわしたので、非常に困惑していた。


「ま、マオール様あ、えぐっ、ソ……様が、ソニ……様が……」


「まあ、落ち着け」


「実はソニ、いや、アインス殿が拉致された」


「なんだと? アインスが? 詳しく話せ」


言葉にならないカミーナを差し置き、ナレンが魔王にこれまでの経緯を説明する。


「……わかった。あとは任せろ」


話を聞き終えるや否や、魔王が圧倒的な怒気を放ちながら、ナレンの目の前からかき消えた。


と、そのあとすぐ、外が、昼間だというのに輝きだした。


「な、なんじゃ!?」


ナレンは、膨大な魔力が、周囲を圧倒するのを感じ、何事かを確認するため、窓から外を覗き込んでみた。

そこには、幾重もの長大な魔方陣が、王都トルテの天空(そら)を覆っている、尋常とはいえない光景が広がっていた。


◆◇◆◇◆


目の前の光景が全て、テレビを通してみるドラマやアニメのように、他人の出来事のように感じる。


心の中にあるのは、虚無感と諦めの気持ち。

あぁ、これがソニヤ姫が魔王軍に襲われたときの気持ちなのかも。

不意に私は理解した。

これは、そう。

遅れてやってきた、因果応報というやつなのかもしれない。


私も、前世、ゲームなどを通じて、いろいろと『ソニヤ』にはひどいことをしてきた。今、そのことが回りに回りまわって、ついに自分に跳ね返って来たのだ、と。


思えば、こんな状況になってしまったが、周りのみんなは今まで本当に優しかったな。


いつも一生懸命に私に仕えてくれたカミーナ。


いろいろと頼りになるゼクス。


私の尻拭いばかりしてくれるベリアル。


ちょっと紳士的なオクトーバー。


最初は敵同士だったけど、友達になれたナレン。


他にも、父上や、ポストフ、シロット王子、宿屋の主人やパン屋の店主、城の兵士たちなんかにもお世話になったな。


それと、それと……魔王……。


いつだって、ピンチの時には駆けつけてくれる、私のヒーローだ。


やっぱりこんなときに最後に浮かぶのは、魔王の顔だった。

でも、そんなに都合よく、ピンチの度に、毎回助けにきてくれることを期待するなんてナンセンスだ。

わかっている。

私は全てを諦めて目を瞑った。


あぁ、こんな終わり方を迎えるくらいならば、魔王に貞操、捧げれておけばよかったかな?


ごめんなさい。


目から、一筋の涙がこぼれる。


最後まで、最後まで、せめて精一杯、毅然としていようと思ったのに……。


でも、やっぱり、こわい。


そして、弱い私は、ついつい、魔法の言葉を唱えてしまう。すがってしまう。


叶うはずがない魔法の言葉。


「……たすけて。まおうさま」


小さく、弱々しくつぶやく。


その時、不意に爆音があたりに鳴り響き、目の前から強い風圧を受けた。


「なっ……」


びっくりして目を開けてしまう。


先程まで私に薬を注射しようとしていた屈強なオークが、壁にめり込んでいる。


目の前には、私の魔王(ヒーロー)の背中があった。


拳を構え、その背中から、怒りのためか、今まで見たこともないようなどす黒いオーラが漂っている。

魔法が使えない、一般人の私でもわかるくらいの濃い瘴気だ。


「アインス。遅くなってすまん」


いつもよりも一段、低い声で魔王が呟いた。


「マ、マオー様ぁ!」


私は瞳から、次々にあふれでる涙を、止めることがどうしてもできなかった。


なんとか更新できました。

作中で、魔王様が使っている魔法は、探索系の戦略級魔法で、一応、大陸全土を覆う範囲が効果範囲です。

しかも、姫探索用の魔術と、防御結界を破壊する魔術をダブルでかけており、防御結界を破壊しながら姫を探索するという凶悪極まりない探索系魔術、という設定です。

なので、実は、色々なところに迷惑をかけまくる大魔法をかけました、という裏の話があったのですが、本編ででないかもしれないので、ここで書いておきます。

とか、言いつつ、さらっと、本編で書くかも。


ちなみに、次回更新は、来週の予定です。がんばります。

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