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第五十七.五話 閑話 えみーのさくぼう

「今の話は本当でしょうか、エミー様」


「本当よ」


黒髪ストレート、和風な感じの可愛らしい風貌だが、着ている服がふりふりの黒ドレス。ぱっと見はゴスロリ服。

魔王の妹であるエミーは、邪悪な微笑みを浮かべた。


対するは身の丈が三メートルはあろうかという一つ目の大巨人『サイクロプス』。

魔王軍、正確には魔法帝国軍の一軍団を預かる将軍(ジェネラル)である。


「まさかあの魔王様にかぎって」


サイクロプスは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「いいえ。事実よ。……お兄様は、どうやってなのかはわからないけど、人間族の女にたぶらかされ、骨抜きにされているわ」


「……なんと」


エミーの言葉に、よろよろとよろめくサイクロプス。現実を受け止めきれないようだ。


「それでは、リート様のお立場は!」


突然、サイクロプスは激昂して叫んだ。

両耳を抑え、エミーは計算高い顔つきをしながら、サイクロプスの耳に毒のある言葉をどろどろと注ぎ込む。


「お兄様をたぶらかす毒婦は、相当の遣り手よ。現に私は一度、排除に失敗したのよ」


「なんと、エミー様が失敗なされたとは」


「……それからは、お兄様の監視が厳しくなって、私は自由には動けないわ。しかしその点、あなたはまだまだノーマーク。このまま、あの毒婦の自由にさせたら、あなたが崇拝する義姉様(リート)のお立場が、ますます、悪くなるわね」


「……」


「大丈夫。お兄様は寛大なお方よ。あなたが、私利私欲のためではなく、大義のために立ち上がったことに、最後にはきっと気づいてくださるわ」


そういって、サイクロプスの方に近づくエミー。


「これは、お兄様のため、義姉様のため。そして、軍の秩序のためよ。わかるわよね?」


「……は。エミー様にご指摘されるまでもなく、軍の将兵として、その秩序維持は私の勤め。お任せください」


「いい? お兄様の目、耳、鼻は、とてもとてもきくわ。それに、なんやかんやと毒婦の周りにはあいつを守護しているものが多数いる。……でも、安心して。すでに義姉様には話を通してあるの。そして、いくつかすでに手をうってあるわ」


「おお! リート様が」


魔王への反乱というわけではないが、それでも、魔王の意に添わぬことをやろうとしているサイクロプスとしては、心に重石があったのだが、彼が崇拝する女神(リート)の加護があるというのであれば、喜んで断頭台に登ろうという気分となってくる。


「では、実際に、毒婦を連れ出し、処分をすることは我々にお任せください。一部部隊の暴走ということで、処理させます」


「なるべく、自然な感じで排除しなさいね。あ、あと、命だけは助けてあげなさい。恐怖や辱しめは、いくらでも与えてもいいけど」


「心得ております」


サイクロプスは、自分よりも、はるかに小さいエミーへと、その巨大な身体を縮こませ、なるべく丁寧に頭を下げるのであった。

その姿を見ながらエミーはニヤリと口の端をねじ曲げるのであった。


◆◇◆◇◆


「ゼクサイス様。現在、魔王軍の一部部隊に活発な動きが観測されております」


「この時期に動く理由がわかりませんね。何らかの特殊作戦でしょうか?」


首をかしげながらゼクスは、腹心のシルフィの報告を受けている。


「わかりません。単に、魔王軍の演習という可能性もありますが」


「それでも、規模が大きいのでしたら、捨て置くわけにはまいりません。特殊陸戦隊の方で、彼等の動向を探るように」


「それでしたら、シュガークリー王国内で展開していた部隊の一部をあてます」


「そうですね。シュガークリーは現在、安定していますし……」


「? ゼクサイス様。なにやら歯切れが悪いですね」


「なんと言いますか、少し嫌な予感がする、ということですね。確証はないのですが」


「わかりました。では、部下たちには慎重に調査をさせます」


「……お願いします」


それでも、靄がかかったように、嫌な気持ちが振り払えないゼクスであった。

自分たちは何か詐術にあっているのではないかという嫌な予感が。


◆◇◆◇◆


「はーっはっは! これで、ついに、お兄様の周囲をうろちょろするあの毒婦(ソニヤ)めを排除できるわ!」


自室に戻ったエミーは、笑いが止まらない。

あの憎っき毒婦が、彼女の大事な大事な兄の心を捕らえつつあることに、敏感に気がついており、その排除は直近における、最大の目標でもあった。


「一番の問題だった、あの悪魔の対処も、リート義姉様がなんとかしてくださるみたいだし、あとは、お兄様に気づかれなければ、作戦は成功ね」


しかし、そこで、ぶるりと身体を震わせるエミー。


「お、お兄様は、ちゃんとわかってくださるわ。そう。これは、お兄様のためなの。……なにしろ、お兄様は長い長い悪夢を見られているだけなのだから。きっと、私の献身に気づいてくださるはずだわ!」


そこで、自らを奮い立たせるように、気合いをいれるエミー。


「お兄様の貞操は、この私が護るしかない!」


どこまでも、毒婦(ソニヤ)が悪いということを確信するエミーであった。


◆◇◆◇◆


「第一任務軍第一◯一特殊オーク中隊。全員揃っておりやすぜ」


「うむ。ご苦労。……今回の任務は、誘拐とそれに伴う汚れ仕事になるが、頼まれてくれるか?」


サイクロプスは、眼下のオーク部隊の指揮官に問いかける。


「うちの部下たちは、こういった汚れ仕事になれておりますんで。ご安心くだせい」


「よいな。万に一つ、作戦が失敗にならないように、万全を喫せよ」


「それでしたら、拉致監禁のための砦の御用意と、拉致対象の迅速な移動手段の確保、それと、不可視外套(インビジブル・クローク)を十着お願いしやす」


「わかった。砦については、山中にある放棄されたところがあるから、そこを活用することにしよう。それと、移動手段はスカイドラゴンを一頭貸し与えよう」


「おお! そりゃ、ありがたいことですぜ。将軍は大船に乗った気持ちでいてくだせい」


オークの指揮官はニヤリと笑った。


というわけで更新です。

次回もなんとか、来週に更新できれば、と。

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