第五十四話 がくしさまのおしごと
500ブックマーク記念に、Rioさんからソニヤ姫のイラストをいただきました。
ありがとうございます!
https://www.pixiv.net/artworks/76976751
結局、あのあと、魔王プロデュースのお店へと拉致られて、あまり美味しくないご飯を食べさせられました。
あまり、思い出したくはないのだけれど、がんばって少しだけ思い出してみる。
……
…………
「……え、ええと、これはなんでしょうか?」
目の前には、パッと見、タコ焼きのようなものがある。
「まあ、食べてみろ」
魔王に促されるまま、とりあえず一口かじってみる。
口の中に入れた瞬間、タコ焼きの味がした。
しかし、かじった食べかけのタコ焼きを見てみると、その断面から、タコの触手のようなものが蠢いていた。
言うなれば、狂気じみたタコに似た生物の、触手が入ったタコ焼きもどき。
私は、そっと、そのタコ焼きもどきを皿に戻し、食べるのを諦めた。
「うむ。これは美味しいな!」
ナレンが、口いっぱいにタコ焼きもどきを頬張っている。
口からはみ出た触手がうねっているのが、実に私のSAN値を削る。
「では、これはどうだ?」
次いで目の前に現れたのは、一応見た目は美味しそうなハンバーグ。
「お。これは、美味しそうですね」
「うむ。俺の自信作だな」
魔王プロデューサーはどや顔だ。
ナイフとフォークで、一口大にハンバーグを切り、いただく。
とりあえず中には怪しい生物は入っていないみたいだ。
「……」
「どうだ?」
やっぱり、どや顔の魔王。
味としては鶏肉に近いけど、少しだけ苦味があるので、何か別の肉を混ぜている気がする。食べられなくはないのだけど、その食感がゴムみたいで、本当に、これ、なんのお肉ですか? と聞きたくなる。
「私は先ほどのタコ焼きよりは、こちらの方が好みですね」
淡々と食レポをするカミーナ。
もう少し抑揚をつけてコメントしてほしい。
しかし、結局これ、なんのお肉なんだろう?
「これで試食品のラストだな」
さて、最後のお食事は焼き鳥だ。
実にシンプルな見た目で、香辛料で焼いたそのお味はとても美味しかった。
「ん。これは美味しいですよ」
とりあえず誉めておいた。
まあ、味としては香辛料が強いので、ほぼ、香辛料の味しかしないけど。
なんとなく、少し野性味がある鶏肉といった風情だ。とっても、美味しい。
「うーむ。それは、実は少々高価な代物でな。あまり、店におけないのが辛いところだな」
そんな高級なお肉なのに、香辛料で味付けって。
まあ、珍味みたいなものか。
でも、結局、なんの肉かはわからないのだけど。
「ええと。言いにくいのですが」
「む?」
「もう少し普通な食材を使ったらいかがですか?」
「……」
…………
……
という感じでアドバイスはしておいた。
閑話休題。
さて、今日は、王立大学校関係のセレモニーに呼ばれて、こうして大学校の学舎へとやってきている。
少し前に、新学舎棟の竣工に立ち会った関係で、何か大学校関係でイベントがある度に呼ばれるようになってしまった。
やはり、セレモニーには、華が必要らしい。まあ、その気持ちはわからないでもない。
今回は、この大学校の教授の一人が、何やら世界的な権威の賞を受賞したらしく、そのよく分からない賞を受賞したことを祝してのセレモニーだった。
講堂では白髪のおじいさんが、なにやら熱心にお話をされている。
しかし内容がなかなか頭に入ってこない。
セレモニーは立食パーティーなため、皆、そのスピーチを立ちながら聞いている。
だけど、お酒を飲みながらの立食パーティーでもあるので、あちらこちらで、雑談に興じており、ほとんど皆、講演者の話を聞いていない。
ねえ、それで、いいの?
「……おや? 奇遇ですね。ソニヤ姫」
「あ。ゼクサイス様。こんにちわ」
そんなとき、偶然にもゼクスと出会った。
どうやら、ゼクスもお呼ばれしていたみたいだ。
ゼクスは、今日は隣に、薄水色のセミロングのかわいらしい女の子を連れている。
んー。しかし、この娘、どこかであったような?
とりあえず当たり障りのない近況をゼクスと話し合って、探りを入れてみる。
「そういえば、ソニヤ姫は、原稿執筆などに興味はありませんか?」
「原稿、ですか?」
「はい。原稿です」
そんな話に興じていたところで、不意に原稿執筆の話になった。
原稿というと、小説とかだろうか?
「ゼクサイス様。ちなみに、どんな内容の小説を想定されているのですか?」
「小説ではなくて、原稿ですよ。まあ小説でもいいのですが。……王立大学校、創立四十周年記念を祝する冊子のための原稿を募集しているみたいです。大学校に縁のある方々に声をかけているみたいですよ」
「……はあ。まあ、興味がないわけではないのですが。なぜ、その原稿執筆を私のような学者でもない人間に依頼するのですか?」
単なる祝辞ていどでよければ、テンプレートを使って、すらすらと書ける自信はある。
「文字を書ける層は、どうしても、貴族層に偏っていますので、僕たちが口コミで広げた方が執筆者は集まるんですよ。今回は学術的な論文集というよりは、まずは幅広く原稿を集めよう、という主旨ですし」
「ははあ、なるほど。まあ、その程度の軽い気持ちで受けることができるのであれば、私としても、執筆を引き受けることは吝かではないのですが……」
「それは大変、結構なことだと思います」
そこで、くいくいと、ゼクスの服の裾を隣のセミロングの少女が引っ張った。
「おや。もう、そんな時間ですか。すみません、姫。他にも用事が入っているものですから」
「おきになさらず」
「では、詳細については、後日に書類を届けますね。では、失礼いたします」
ゼクスは、くすっと笑いながら、いつもの本心がわからない笑みを浮かべ歩いていった。
しかし、原稿ねー。何を書こう。
◆◇◆◇◆
「姫様。そんなに根をつめますと、お身体に障りますよ」
「……うぅぅ。わかってはいるんだけどねぇ」
執筆について、安請け合いをしたは良いが、なかなかに筆が進まない。
じゃあ、誰かに手伝ってもらおうと思っても、私の回りは、皆忙しかったり、文書を書くのが苦手だったりして、執筆をお願いできるような状況にはない。
仕方がないので、頭をうんうんと捻りながら、自分で原稿を書くことになった。
……一体、何を書くべきか。
とりあえず、私に無理難題? を吹っ掛けてきたゼクスとの会話を思い出してみる。
部下に書類を持ってこさせると思いきや、自分で書類を持ってきたので、その時に聞いてみたのだ。
「……なんでもいいのですよ。ソニヤ姫。歴史の紹介でも良いですし、詩を書くのも良いですし。お好きなものをお書きください。あ、僕は旅行記なんかが好きかな」
別にゼクスの趣味に合わせる必要はないので、その発言は黙殺する。
しかし、なんでもいいと言われると、逆に困ってしまう。
うーん。なかなかに、決められない。
書類を受け取った後、自室に戻った私はずっと、原稿とにらめっこをしている。
何か随筆でも書こうかしら、と過去の思い出について思考を巡らしていたら、魔王に襲われたり、男どもに襲われたり、さらには、軍の作戦で死線を潜らされたりした、過去の様々な辛い出来事が次々と思い出されてきた。
なんだか、ムカッ腹が立ってきたので、そも、人権とは何かについて書いてやろうかと思う。
世間を啓蒙せねば。
……私のような、か弱い女の子の人権こそ、社会は最大限に守る必要がある。これこそ神が与えたもうた責務である。
なぜならば、一人の女の子の損失は全人類の損失に等しい暴挙であるからである、うんぬん。
さすがに、神様関係を茶化した箇所があったりすると、後で教会から目をつけられて、火炙りとかにされる可能性もゼロでないので、慎重に言葉遣いを整え、マイルドな言い回しにしておく。私はリスク回避が大好きなのだ。
人権から派生する自由権や、財産権、国民の義務としての納税や国防についての考察、これら人権を支えるための国家機関として議会や、裁判所、行政などの設置の必要性について、三権分立とともに書いておく。
あとは、王家が革命で倒されては困るので、これら三権の上に神に祝福されたシュガークリー王家が統治する必要があることも書き加えておこう。王権神授説万歳。
さて、これで、国民を啓蒙する基本論文が書けたかしら。
まあ、ほとんど神の名の元においてうんぬん、という話に感じになっているので、若干胡散臭い感じではあるが。
やはり、現代社会でもそうなのだけど、神の下の平等とかって絶対にフィクションよね。
もっといっちゃうと単なる神話。
でもまあ、利益は私に、めんどうは他人に、という感じの論文は、これでちゃんと書けたかな?
ふー。なんだか、書きたいことを全部書いたらスッキリした。
しかし、改めて原稿を読みかえしてみると、私の原稿、なんだか小学生が書いた感想文みたいだな。
ちょっと幼い感じだ。
……恥ずかしいからペンネームを使っておこう。うん。そうしよう。
名前は、そうだなあ……。
私は前世? での名前で思い出して署名をしておいた。
まあ、元の日本人名だと違和感が大きすぎるので、この世界の名前みたいに修正した上でだけど。
一応、これでも前世では学士号を持っていたわけで。ある意味研究者の卵を自称しても罰はあたるまい。偏差値低い大学だったけどね。
ひとしきり、文書を書きなぐったのでお腹が空いてきた。
机の中に隠しておいたチーズをおつまみに、これまた食堂からくすねておいたワインをちびりと飲んだ。
「我輩は猫である……」
ふと口をついて、有名な小説の、冒頭のセリフがまろびでた。
文章を書きつつ、ワインを嗜む。
ちょっとした、文士になった気分だ。
これはロマンね……。
なんとか、更新できました。
次回は来週にでも更新できたらうれしいなー、と。




