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第五十二.五話 閑話 あるひのかみーなのにちじょう

私の名はカミーナ。

ソニヤ姫専属のお側仕えだ。


……私の主を直接、論評することは避けたいのだが、心ない外部の者は、姫のことを、わがまま姫、傲慢姫。外見だけの無能、政略婚のためだけのお姫様、とかさんざんのひどいあだ名をつけてきた。……昔は、だが。

しかし、最近では、王宮内での陰口を調査してみても、あまりそういった姫への悪口は鳴りを潜めてきているように思う。

……たしかに以前に比べ、姫の性格的なものは少しだけおかしくなってきたな、と思うところは若干あるのだけれど、昔と変わらず、わがままであるし、少し抜けているところも依然として同じである。

だけど、ここ数ヶ月で見せている、その才能の片鱗は、為政者としては異常なまでの天才性を発揮しており、仮に今までその才気を隠しとおしていたのであれば、にわかには信じられないことだ。


今、王宮で囁かれている噂。

実はソニヤ姫はうつけのふりをして、信用に足る人物を見つけるために、今まで周囲を(たばか)っていたのではないか、とか、悪魔と取引をして、明晰な頭脳を手に入れたのではないか。さらには、魔法で魂を入れ替えられてしまったのでないか、などなど。

まあ、やっかみに基づく言われなき陰口ではあるが、侮りの陰口は減ったように思う。

……姫は、単に、今まで活躍の場をもらえていなかっただけかもしれないし、ガイコーク砦での魔王軍からの逃亡を成功させ、その才能を開花させたのかもしれない。

そういった意味では、最近の変化の真相は私にはわからない。

私ができることと言えば、姫の御身を、この身に変えても護りとおす。ただそれだけだ。

私は意識を思考の海から現実に戻す。


「あっ! ちょっと、ナレン! あなた、自分の分の食費はちゃんと自分で払いなさいよね!」


「ソニヤよ。主は、けちがすぎる。そんなことでは、良い嫁の貰い手がいなくなるのではないか? 他人事ながら心配になるぞ」


「むきー! あなたに心配なんかされるようなことはないのよ!」


姫は今日も相変わらず元気だ。


いきなりシュガークリーに押しかけてきたギリナデス前皇帝とも仲良くしているし。

パプテス王国や、ダライ・トカズマ帝国を含め、多くの他国からも最近、急に求婚話が多くやって来ているというし、実に目出度い。


姫の特技は誰とでもすぐに仲良くなる外交性だな、などとつくづく思う。それに、そのカリスマ性。彼女の周りにはいつだって、賑やかな人出がある。


……気配を感じ、急に顔が赤くなってくるのを感じる。鼓動も早くなる。

これはいけない。早く冷静にならないと。

深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻そうと努力する。

その少し後に、私たちに声がかけられた。


「おや。そこにいるのは、ソニヤ姫とカミーナさん。……それに、ギリナデス陛下ですか?」


いつものように微笑みながらゼクサイス様が、ふらりと街角からやってきた。この人はいつだって神出鬼没だ。

せっかくコントロールができかけていた感情が、ゼクサイスの顔を見て、また、混乱しそうになる。

しばし、目を閉じて深呼吸を繰り返す。

明鏡止水。明鏡止水。


「あ、ゼクサイス様。こんにちわ。今は一応、お忍びですので、アインスとお呼びくださいね」


「ふむ。そなた、そんな遊びをしていたのか。……それと、久しいな、ゼクサイス殿。我はもう退位したので、ギリナデスではなく、ナレンと呼んで欲しい」


「ふふふ。そうですか。わかりました、ナレンさん」


この二人は知り合いか。

しかし、ゼクサイス様は本当にお顔が広い。


そこで、ゼクサイスと目があった。

にっこりと微笑みかけられると、頭のなかが真っ白になる。

でも、なんとか、理性でもって、感情の獣を制御し、口から理性(ヒト)の言葉を紡ぐ。


「……あ、あの。ゼクサイス様。い、以前にいただいたレイピア。ありがとうございました。あれのおかげで、命が助かりました」


「いえ。あれくらいしかお手伝いできずに申し訳ありません。私の方も、少しだけ忙しかったものですから。ですが、あなたの腕前を僕は知っていますから、なにも心配はしておりませんでしたよ」


そして、私の方へとウインクをしてきた。

一瞬、心臓が止まりそうになる。

……深呼吸。深呼吸。


「そうか。ゼクサイス殿が、あの魔剣をくれてやった、張本人であるのか。あれは、相当に業物であるゆえ、大事にするがよいぞ」


私の方を見ながら、ナレン様が忠告してくれた。私はだまって頷いた。


「そんなに、畏まられてしまうと、僕の方が、恐縮してしまいますよ」


ゼクサイス様が首をふって苦笑している。

……あぁぁ、そんなちょっとした振舞いが、胸をキュンキュンとさせます。


「……ゼクサイス様。そろそろ……」


今、やっと、視界に入ってきたのだが、ゼクサイス様には、お供の方がいらっしゃった。

うーん。前にもどこかであったような。

フードを被っているのであまり顔はよくわからないが、一瞬だけ見えたその鋭い目つきが、まるで、私のことを『敵』と認識しているかのようだった。

……なぜ?


「ああ。すみませんね。では、皆様、僕は用事がありますので、これで、失礼させていただきますね」


「さよなら~」

「さらばだ」


姫とナレン様が軽く挨拶をしている。

私は威儀を正し、ゼクサイスに一礼をする。


「いってらっしゃいませ」


ゼクサイスは微笑みながら、通りの向こうへと歩いていってしまった。

隣のフードの従者が、その服の裾をちょい、と掴んでいるのが見える。華奢な女の子の手だ。

胸の奥がチクリとした。


「……姫。そろそろ、お城に戻りませんと。午後は、近隣領主の伯爵様の表敬訪問を受けた後、パーティーへの参加が予定されております」


「うげっ! 今日もドレス着るの? あれ着ながらだと、自由にご飯食べられないから、あまり好きじゃないのよね」


「なんじゃ、ソニヤよ。主は食い意地が張っておるの~。まあ、友人として我もパーティーに、参加してやろうではないか。喜べ」


「あなたが参加したら、ぜったいに騒ぎを起こすでしょ! この前だって……」


姫とナレン様がギャーギャーと言い合いを始めた。

うん。今日も王都トルテは平和だ。



すごく手軽に閑話を更新。

これくらい楽だと、さくっと書けます。

次回、もさくっと書けたらいいな、と。

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